第百六十三話 リーシャは召喚してみる
「聖天魔法 《ブレイバ―》!」
と、リーシャが行使しようとしたのは、勇者召喚の魔法である。
然るべき時以外、絶対に発動せず、先の戦いでも発動しなかったその魔法。
けれど、今回ばかりは違った。
「っ!?」
リーシャが魔法を使ったと同時、辺り一面が光に包まれたのだ。
その光はリーシャでも驚くほどの魔力と、光の気配に満ちている。
実際、魔物達はその光に気圧されたに違いない。
魔物達はリーシャのすぐ傍から、少し離れた位置まで退避してしまっている。
それだけではない。
光が当たっている個所が、どんどん活性化していっているのがわかるのだ。
現に、枯れていた地面からは無数の草花が咲きつつある。
(魔法の余波だけでこんな……本当にこれをわたしが?)
と、リーシャがそんな事を考えた時。
光の奔流は徐々に収まっていってしまう。
(あぁ……やはり失敗したのですね)
所詮はこんなものだ。
リーシャに聖女の力などなかった。
(きっと予言は間違いだったんです……騎士様や、街の人達にはなんて悪い事を――)
と、そこでリーシャの思考を断ち切る様に、一際凄まじい光の奔流が周囲に奔る。
それにリーシャは思わず目を閉じる。
…………。
………………。
……………………。
そして、リーシャが次に目を開けた時、光は残滓も残さず消え失せていた。
けれど。
「あ、あなたが……勇者様?」
と、リーシャは意識せず声を出してしまう。
なぜならば、彼女の目の前には先ほどまで居なかった人物――見たこともない異国の服を身にまとった、同い年くらいの少年が立っていたのだから。