第百二十八話 空と胡桃と冒険者事情②
時はあれから数分後。
場所はギルドと併設された酒場の一角。
「ぶっすぅ~~~~~~!」
と、頬を膨らませているのは胡桃である。
空はそんな彼女に飲み物を差し出しながら言う。
「はいこれ、美味しいよ。せっかくの記念日だから、胡桃が機嫌治してくれると僕も嬉しいと言うか――」
「別に機嫌わるくないんだからね!」
と、空の手から飲み物をぶんどる胡桃。
凄まじい反射速度、まるで機嫌の悪い猫である。
けれど、胡桃の機嫌がこうなってしまったのも、仕方のない一面がある。
なぜならば。
シャーリィいわく、胡桃は奴隷身分のため冒険者登録ができなかったようなのだ。
なんでも、冒険者カードを作ろうとした際にその問題が起きたようなのだ。
胡桃と受付のお姉さんが、冒険者カードを作ろうとしても何度もエラー。
さすがにおかしいということで、胡桃を専用の魔法でサーチしてみたところ。
胡桃は奴隷だった。
しかも持ち主はしっかり『クウ』となっていたそうだ。
「レベルの概念が欲しくて奴隷になったのに……」
と、突如聞こえてくる胡桃の声。
彼女は身体をぷるぷる言ってくる。
「奴隷になったから、レベルの概念が手に入らないって……どういうことなのよ!」
ガクガク。
ガクガクガク。
襲い来る凄まじい胡桃シェイク。
空はこの日襲いかかった史上最強のがくがくを、一生忘れないと誓ったのだった。