百十一話 空と胡桃の様子がおかしい!
時は時雨が帰っていてから数分後。
場所は変わらず空の部屋。
「た、ただいま……」
と、部屋に入って来るのは胡桃である。
彼女は昨日の事件以降、一時的に自室へと戻っていたのだ――きっと、色々整理することがあったに違いない。
そして現在、胡桃はこうして空の部屋へと戻ってきたわけだ。
一昨日までと変わらず、空の部屋で同居するために。
(はぁ……僕の平穏はもう二度と訪れないのかな)
と、空がそんな事を考えていると。
「ね、ねぇ……空」
と、言ってくる胡桃。
彼女はとてとて空に近づいて来ると、彼の横に座りながら続けてくる。
「昨日は……その、ありがとう」
「え、いや。別にそんなの、当然のことをしただけだし」
「そ、そっか! そうよね!」
「…………」
「…………」
なんだこの空気。
なにかがおかしい。
どうにも落ち着かない空。
彼は気を紛らわすために、冷蔵庫に飲み物を取りに行こうとする。
だが。
「待って!」
と、突如空の手を引いて来るのは胡桃である。
彼女は「いいから、待って」と空へと言ってくる。
「えっと、その……ごめんなさい!」
「え?」
「空に酷い事沢山いって、時雨を危険な目に合わせて! 本当にごめんなさい!」
「いや、だからそんなのは胡桃のせいだけじゃ――」
「それでもごめんなさい! あたしは自分のことしか考えてなかった……今回のは結局のところそのせいなの! だから、許してもらえないかもだけど、ごめんなさい!」
と、胡桃は頭を下げてくる。
しかも、どう見ても泣いている。
(僕はもちろんだけど、時雨も怒ってないって言ってるし……本当に気にすることないんだけどな。どう考えても、一番悪いのは怪人だし)
空はそんな事を考えながら、胡桃が泣き止むまで、彼女の頭を優しく撫でるのだった。