第百九話 空は怪人を倒してみた
空の目の前では、今も怪人がただの靄となって消えていっている。
空はそんな靄を見て思う。
(よし、さすがに完全に倒し切れたみたいだな……それにしても)
この怪人は強かった。
空に魔眼の力がなければ、どんなにレベルを上げていようが勝てなかったに違いない。
時雨が遅れをとったのも納得である。
(しかも、あの攻撃速度……レベル3の僕には遅く見えたけど、ヒーローはあくまで人間だ。下位のヒーローだったら、普通にやられて――)
と、空はそこでとあることに考え至る。
それは正門から侵入した多数の怪人のことである。
シェルター内に流れたアナウンスによると。
現在、多数のヒーローがその対処に当たっているとのこと。
空は正門がある方を見ながら考える。
(怪人の量にもよるけど、単純計算――侵入した怪人の倍の量のヒーローが来てくれているはず。だけど、侵入した怪人がこの靄の怪人クラスだったら……)
非情にまずい。
この怪人は明らかに教本で教わるセオリー――『ヒーローは常に二人で、怪人一人と戦うべし』というものでは、対応できないレベルだった。
「兄さん、それはダメですよ」
と、言ってくるのは時雨。
さすがは妹と言うべきか、彼女は空の心を読んだに違いない。
「胡桃、悪いんだけど……時雨を抑えておいて」
「わ、わかったけど。なんでそんなこと言うのよ?」
と、聞いて来る胡桃。
彼女はジタバタしている時雨をしっかり抑えていてくれる。
空はそれを確認した後、すぐさま掃除用具室に向けて駆けだすのだった。




