第1話:職業選択
9月16日:土曜日:4時起床、かぼちゃの蒸しパンとコーヒーをもって副業部屋へ、ゴブリン退治と狩人対応も一段落つき、最近は落ち着いた生活をおくっている。だが、これまでの何かしら仕事が降って湧いてくる。という状態から脱したことで、いよいよ何かしら仕事を、世界を発展させる仕事を考えなければならない。サムは本棚を眺めて、過去の何かにヒントは無いかと見分を始める。メモを幾枚も広げて眺めている間に、一つひらめきがあった。「うん、いいかもしれない。」と蒸しパンを食べながら、思い付きをメモにしたためていく、ある程度書き終わったところで、小鳥の囀りが聞こえる。ダイフクだ、ダイフクは最近は特に用もなくても副業部屋へやってくることがあったが、今日は何か用があるようでしきりにヒヨヒヨ鳴いている。サムは蒸しパンの乗っていた皿をテーブルの角にやり、トントンと指で叩くと、部屋の中心にあるバーチェアに座る。そして、ダイフクとの会話を始める。
「_やあ、フク、おはよう。お皿の上の残りは食べても良いよ。」 「_やや、ありがとうございまする。モグモグ。」 「_ゆっくりお食べ、それにしても今日はどうしたんだい?」「_モグモグ、それが、あの者たちがまたやって来ておりまして。。。」 「_ああ、、、そうか、もうどっちかがおれたらいいのにねぇ。」 「_はい、そうしてもらわねば、家がいつまでも騒がしくてなりません。 」「_そうか、じゃあ、行こうかな。」
と言ってサイドラインにLog Inするサム。景色は変わり、無為の家へ、そこでは二人の少女が口論を繰り広げていた。一人はザイヤクシの町の町主の娘、リクス。もう一人は今月の初めに新たにサムの式になったサクラ(生前はリクスの大親友ラクサだった)、どちらも可憐な少女で見ている分にはそれは見目麗しい二人なのだが、聞いている分には騒がしいことこの上ない。最近は、サクラを連れて帰りたいリクスと、ここに残ると言ってきかないサクラの口論が日々繰り広げられていた。
「_ねぇ、ラクサ、私もう本当に今日には町に帰ってしまうのよ?」 「_いーえ、わたしは帰らないわ、それにわたしの名前はサクラよ。いい加減に覚えてよ。」 「_でもラクサはラクサじゃない。」 「_ラクサはもう死んでしまったのよ、リクス。」 「_なんでそんなにひどいことを言うの?私はあなたを連れて帰りたいの!だって、ラクサのお父さんお母さんも心配しているわ。私だってーー。」 「_お父さんお母さんのことは言わないで。。。やっぱり駄目なの、、、わたしもう死んでしまったのだから、それに、確かにわたしにはラクサだった頃の記憶が残っているわ。」 「_なら、どうして。」 「_でも、その記憶は完全じゃないの、一部でしかないの、だからきっとお父さんもお母さんも、それにリクス、貴方も悲しむわ。。。」 「_それでも、ただ死んでしまったよりずっといいわ。」 「_、、、リクス。。。。貴方の気持ちは嬉しいの、でも。やっぱりわたしはもうサムさまの式だから。。」 「_なら、そのサムごと町まできたら良いわ、きけばサムは薬師見習いなのでしょう、町で勉強もできてまさに一石二鳥だわ!」
ここまでは、いつもの言葉のラリーだ、最初のころは切なく思ってみていたが、毎回同じようなラリーが続くと慣れてしまうものだ。そんなことを考えながら、サムもそのラリーに加わる。だが今回は別の目的も含んでいる。
「_何度か申し上げていますが、僕はザイヤクシの町に引っ越すつもりはないですよ。」 「_ほら、サムさまもこう言ってーーー」 「_でも、勉強できるのはありがたいと思うのです。」 「「_え?」」 といつもと違うボールが返ってきて戸惑う二人にサムは 「_それでですね。いざ勉強となると、何を使っての勉強になるのでしょう。僕が書画や地図をしたためる、このような木の板でしょうか、それとも”紙”の書物でしょうか。リクスさん。」 「_へ?、あ、あぁ、基本は実物を用いるけど、それ以外では書物の教材をつかうわ、そんな木の板なんてかさばってしょうがないじゃない?」
「_ほう、村では書物を見たことがないのですが、町には書物も紙も売っているものなのでしょうか。」 「_なに、急に、、、町に興味でもわいてきたの?じゃあいいわ教えてあげる。まず書物だけど、王立書店にいけば高額だけど売っているわ。そして紙、これは王の専売品だから、資格がないと買うことはできないし、その枚数も厳しく管理されているわ。」 「_ではもし自分で書物を作ろうとすると、その紙を買う資格がいるので?」 「_自分で書物を作ろうとなると、さらに別の資格がいたはずよ。」 「_それらの資格はどうやったらもらえるのでしょうか。」 「_、、それは知らない。チョウザイ、ホウセン。貴方たちは知っている?」 「_某たちは何も、、。」 「_そう、ありがとう。ごめんねサム、分からないわ。ちなみに、木の板に書くくらいなら良いだろうけど、勝手に書物を作ったら罰せられるからね。気を付けなさい。」 「_そうですか、なかなか厳しいんですね。」 「_そうよ、紙はとても貴重だそうだからね。で、」 「_で?」 「_いや、ザイヤクシの町で勉強する気になった?」 「_いえ、僕はしばらくはこの家から離れられそうにないので。」 「_な、ちゃんと説明してあげたのに。。。。まぁいいわまた明日来るわ!絶対にラクサは連れて帰るんだから。」 と今日も立ち去っていくリクス達であった。
「_うーん、あてが外れたなー。」 「_ご主人様、どうされたので?」 「_いやぁ、木の板に書画を書くのってかさばるだろ。それがちょっと部屋を圧迫してきたし、紙に出来たらだいぶ楽だろうなって思ったんだ、それに、ゴブリンの生態にも詳しくなったし、まとめて一冊の本に出来たら、ゴブリン被害で悩んでいる村々の参考にできるかもと考えたんだよ。」 「_それは流石にございます。ご主人様。」 「_サムさま。」 「_なんだいサクラ。」 「_サムさまご自身で書けないなら資格のある人に書いてもらうというのはどうでしょう。」 「_!、それだ!!サクラ、ありがとう。とりあえず、、ヤクシさんにでも聞いてみようかね。薬草ももっていかなくちゃだから、手伝ってくれるかい?タマ、サクラ。」 「「_はい。」」 「_フクは、ヤクシさんの所にこれから行くと伝えてくれるかい。」 「_かしこまりましたー。」 と言うやいなや鳥型となって飛んでいくダイフク。
村までの道中、3人でたくさんの薬草を運び歩く。サムはダッフルバッグに、ヌバタマは大きなリュック、サクラは中くらいのリュックを背負っている。
「_サムさま、サムさまは、どうしてこのような村で法師をやっておられるのでしょうか?」 「_法師?法師っていう職業があるのかい?今の僕は、、なんだろうな、、、うんただの無職だよ。ちなみに法師とは何をする職業何だい?」 「_法師とは、そうですね。権能や式を用いて魔物を倒したりですとか、村々間の移動の際に護衛をしたりですとか、なかには雨を呼んだりする者もいるそうです。」 「_そういう感じか、そうなると確かに僕は法師と言えなくもないね。」 「_はい、サム様は何系統の法師様なんでしょうか」 「_系統?よく分からないけど、僕はそういうのは使えなくて、出来るのは式との契約だけだよ。」 「_そうなんです?で、でも、サムさまは多くの式を、それも神通力の高い者たちを従えていて、すごいと思います。」 「_んー、そうなのかな?でも従えているというよりは一緒に生活してもらっている。という感じだけどね。でもそういう職業、というか世間様に貢献する方法があるのか。」 「_サム様、もしそうされるのであれば、私が、、、」 とヌバタマ 「_いや、そうすると、皆の負担が大きくなるだけで、僕は何もしないことになるからね。法師はいいよ。あぁそうなると、リクス様が連れている二人も法師になるのかな?」 「_はい、チョウザイとホウセンは法師兼戦士です。」 「_やっぱりあんなにいかつくないと、法師には向かなそうだね。やっぱり僕は法師では無くてよいよ。」 「_そうですか、素敵だと思いますのに。。」 「_うーん、でもそうなると、、この世界には僕の知らない職業っていっぱいあるんだろうね。何が向いてるかなぁ。」 「_サムさまは兄姫村をお出になったことはないのでしょうか。」 「_そうだね。隣の町にも行ったことはないよ。サクラは自分の町からでたことはあるのかい?」 「_どうでしょう?その辺は記憶になくて、、、すみません。。。」と少しふさぐサクラにサムは慌てて 「_いや、何の問題もないよっ。それよりも、兄姫村ってなに?」 「_へ?今向かっている村の名前ですよ?」 「_おおう、知らなかった。。みんな村としか言わないから。。。サクラは物知りだね。」
兄姫村の薬師、ヤクシさんの家に到着しダイフクとも合流する。 「_よう、サム。来たかい。今日は何の薬草を持ってきたんだい?」 から始まり、たわいない世間話をしながら時間は進む。そして薬を渡し終わり、帰ろうとする段になって、当初の目的を思い出す。
「_ヤクシさん、この村、兄姫村に書物を書く資格を持ったものはいますでしょうか?」 「_書物だぁ?うーんワシは聞いたことないねぇ、デークか村主様にでも聞いてみな。」 「_そうですか。そうしてみます。」 「_ああ、そうだ。なんだか最近村の中でサムのことを聞きまわっている奴がいるらしいよ。面倒ごとかはしらんけど気を付けるんだね。」 「_え、なんですか、それ。嫌だなぁ。」 「_大の男が何言ってんだい、そんな奴見つけたら延してしまえばいいんだよ。お前はあれだろ、一人でゴブリンを何とかしちまったんだろ?」 「_いやいや、何もしてないですよ。だいたい僕一人でそんなことできるわけがないじゃないですかー。」 「_あははは。ちがいねぇ。でもなお前も悪いとことがある。お前がなんだかよくわからないことをしてフラフラしているから、へんなうわさが建っちまうのさ、薬師になるならワシが生きてるうちに修行に来いよ。」 「_そう来ましたかー、職業は今検討中なんです。」 「_いい歳したもんが何言ってんだい!」 「_はいはい、それでは今日は失礼しますね。」
「_ご主人様、ご主人様のことを聞いて回る輩、何者でしょうか?」 「_んー町の狩人たちの件で悪目立ちしちゃったからなぁ、その関係で、何かあるのかなぁ」 「_サム様、探りますか?」 「_いや、まだ良いよ。様子を見よう。」
次はデークさんの美しいお庭、外からは生垣で見えないが、その生垣もまた美しい、デークさんのお家はいつも正面からではなく、庭から入る。美しい庭を堪能できるし、デークさんも基本庭に面した縁側にいることが多いからだ。
「_よう、ゴブリン退治のあんちゃん。」「_え、デークさんも変な噂を真に受けちゃってるんですか?」「_はははは、まぁ俺はよ、あんちゃんがゴブリン退治してるところをまじかに見てたからな、あんなへっぴり腰でどうにかできるとは思っちゃいねぇよ。」「_そうですよ。あはは。」「_で、あんちゃん今日はどうしたんだい?庭だけ見に来たってことは無いんだろ?」「_ええ、ヤクシさんにも聞いたんですが、書物を書く資格のある方ってこの村にいらっしゃいますか?」「_書物を書く資格だぁ?知らねぇな、書きたかったらいつも見たく木に書いたらいいじゃないか、俺はあんちゃんが書く絵は割と好きだがなぁ」「_ありがとうございます。」「_いや正直な話よ、それを職業にしてみるってのはどうだい?」「_絵ですか?うーん」それは自動操縦の力であって自分で書いているわけではないとは言えないサム。「_もし、あんちゃんがその気ならよ、町の絵師を紹介してやらん事もない。」「_そうなんですか?、、ちょっと考えさせてください。。。」「_ああ、あとよ、なんでも、あんちゃんたちのことを聞いて回っている男がいるらしいんだ。気い付けろよ。じゃあな。」「_えぇ。失礼します。」
「_サムさま、ここでもサムさまのことを聞いて回る男の話がでましたね。」 「_いや、それよりもさ、ちょっと僕職業のこと心配されすぎじゃない?やっぱりこの世界でも無職には厳しい目があるのかな。」 「_あの、わたしは、なんとも。。。」 と気を遣うサクラ 「_まぁ、いい歳したおっさんが無職って、そりゃそうだよね。。。まぁそれは置いておこう。。」 と気持ちを瞬時に切り替えるサム。そして一行は村主の屋敷へと向かう。
村主の屋敷の前の広場に、ため息をつくヨナンを見つける。彼は何か思い悩んだような表情をしており、素通りしがたい空気を醸し出していた。 「_やぁ、ヨナン君、どうしたんだい?なにか悩み事かい?」 とサムが声をかけると、驚いたようにこちらを向くヨナン。 「_・・・なんだ、サム達か。」 「_なんだとはなんだ小僧め、ご主人様に向かって!」 といつもの二人の言い争いが始まるのかと思うと、 「_お前たちにかまっている暇は無いんだよ。」 とため息をつきながら広場から出て行ってしまうヨナン。 「_やや、またか。どうも最近の小僧めは歯ごたえがない。。。」 とつまらなそうにしているダイフクを見て、サムは 「_あのくらいの少年はいろいろ悩むものなのさ。」 といってダイフクの頭をポンポンとする。 「_さて、フクよ、 僕たちは、、葬儀殿の方に行くから。 そっと村主様を呼んできてくれるかい?」 「_は、承知いたしました。」 とダイフクに言伝を頼むと葬儀殿へと歩いていく。するとサクラが話し始める。
「_お気を使っていただき、感謝します。サムさま。」 「_リクスとはさっき話したばかりだからね。サクラが少し気まずいかと思ったんだけど、、余計だったかな?」 「いえ、リクスとは沢山話したいとは思っているんです。でも今はわたしを連れて帰る話ししかしないから。。。」 「_実際にそう話してみたらどうだい?それに、、、それに本当に一度も町に帰らなくても良いのかい?」 「_、、サムさまは、、特に能力も、力もない式はご不要ですか?」 「_サクラ、力は必要ないよ。それにサクラには薬草の知識もあるし、それにはとても助かっているんだ。そしてなによりサクラのことはもう家族だと思っているよ。」 「_ならーー」 「_でも家族だからこそ思うんだ、家族がましてや娘が急にいなくなったご両親のことを思うとね。顔だけ見せて安心させてあげるのもいいんじゃないかってね。」 「_それは、、、」
「_急いで答えを出す必要はないよ。リクス様もなんだかんだまだ村に居そうだしさ。ゆっくり考えるといいよ。そして、最後にひとつ、僕は何を選ぶにしろサクラの選択を尊重するよ。」 「_、、、はい、サムさま。」 とこの件に関して初めて意見を述べるサム。自身が親と疎遠にしている面があるのと、娘を持つ親という面があることから、その両者の面から考えてしまうせいもあって、どちらが良いとはサムからは言えなかった。サクラの意見を尊重するとはよく言ったもので、選択を丸投げしてしまっているなと感じる。そして少し卑怯だったかなと独り反省するサムであった。そんなことを反省しながら歩いていると、ヌバタマが小声で話しかける。
「_サム様、」 「_なんだい?タマ。」 「_村主の屋敷のあたりから、何者かが後を付けてきております。」 「_人数は?」 「_一人でございます。どうされますか?」 「_そうだねぇ、村の中での騒ぎは避けたいから、付けたいなら無為の家までつけてきてもらおうか。」 「_しかし、危険な目は早めに摘み取っておくべきでは?」 「_いやいや、別に摘み取る必要もないけど、どうしてつけてきているのかは聞きたいところだね。まぁ、村主様と話したらすぐに家に帰るつもりだし、そのくらいは付けて来てくれるだろうさ。それまでは、様子見としよう。」 「_は、承知いたしました。」 「_それにしても、僕のことを聞きまわる人に付け回す人か、同じ人物なら一石二鳥で解決が早くて済みそうだね。」 「_サム様は鷹揚に構えすぎでございます。」 とサム達三人と、お供が一人、ゆっくりと会話しながら葬儀殿へと歩いていく。そして葬儀殿に着いて、10分後村主とダイフクがやってくる。
「_なんだ?このようなところに呼び出して!」 「_ご足労頂き、すみません。お屋敷だと会話にならなそうだったので、、」 「_ふむ、リクス嬢か、、、まぁしょうがない、してようとはなんだ?」 「_この村に書物をを書く資格のあるものはいらっしゃいますでしょうか。もしいるならば紹介していただきたく。」 「_書物を書く資格を持つ物とな?」 「_はい。」 「_お主は、、、まぁ知らんくて当然か、いいかサムよ。書物を書く資格については都市以上の主の任命を受けたものもしくは一部の町主の任命を受けたものしか得られぬものだ。よって、この村にはその資格を持ったものはおらん。」 「_そうでしたか、、、ちなみに隣の町にはいらっしゃるので?」 「_この辺りでは一番近くの都市にでも行かぬ限りおらんな。」 「_そうでしたか、、それは残念。」 「_お主、まさか都市に行くとか言い出しはせぬだろうな?」 「_いえ、まだそこまでは。」 「_まだ?」 「_いえいえ、行くつもりはありませんよ。だって都市とか物騒そうですし。」 「_うむ、都市なんぞ行かぬほうがお主の為じゃ、それが良かろう。それにしてもお主がどうしてまた書物を書く資格などを求めるのだ?」 「_ゴブリン追いにてゴブリンの生態について分かったことを書に認めて、他のゴブリン被害に悩む村などに配ると便利かなと思いまして。」 「_そうか、そういうことであれば、なにか手段がないか当たってみよう。」 「_そうですか?助かります。」 「_お主からの話は以上か?」 「_はい、以上にございます。」 「_では、ワシより一つ、この村にどうもお主のことを調べているものがいるようだ。」 「_そうみたいですね。」 「_!、知って居ったか、、、これもお主が決まった仕事についていないからやもしれぬ。はやく何か仕事を見つけて真面目に働けば、変な噂も立つまい。」 「_それはそれは不徳の致すところで。。。」 「_まぁワシからも以上だ。」 「_いろいろありがとうございました。」 「_うむ、それではの。」 と立ち去っていく村主。
「_さて、用は済んだ帰ろうかみんな。」




