魔王との死闘 2
(ルナ、聞こえるか?)
オレは心の中で問い掛けた。
(はいよ、ばっちり聞こえる。そろそろ私の出番かな?)
心の中でルナの声が返ってくる。
(ルナの力を借りたい。頼む、魔王の奴を痛い目にあわせてくれ)
(あいよ、分かった)
(お前がオレの中から出てくるのはいいが、姿を消すことは出来ないか? 皆にオレが大悪魔ルナを召喚した事実を伏せておきたいんだ)
(いちいち注文の多い男だな。分かったよ、インビジブルの呪文を唱えるから。そうしたら、周りからは私の姿は見えない)
(それで頼んだ)
(分かった。それじゃあ、出撃するよ!)
心の内からルナの気配が消えた。
それから数秒もしないうちに、地震が止まり、どうにかオレたちは体勢を立て直した。
見ると、岩石で出来た巨大な手が地面に転がっていた。
きっと、ルナの奴が魔王の手を両断したんだ。
(そっちに魔法使いがいるだろ? そいつに『インフェルノの呪文』を放つように言いな)
ルナの声が心に響いてくる。
オレはキュアに向かって叫んだ。
「キュア、アイシクルの魔法を頼む!」
「け、けど。魔王には氷の呪文も炎の呪文も通用しないよ」
「いいからやってくれ!」
「わ、分かった」
キュアは呪文を練り始めた。
その間にも、前衛に向けて魔王がインフェルノの呪文を放ってきた。
カインが勇者の盾で、炎を吸収し、どうにか業火を凌いだ。
「アイシクル!」
キュアは魔法を発動した。鋭く尖った巨大な氷柱が魔王を目掛け飛んでいく。
魔王はまた氷で覆われた腕を出し、氷柱を弾こうとした。
氷柱が届くと同時に、中空に炎の渦が巻きあがった。
魔王の氷の腕は、炎の渦で溶かされ、消滅した。
成程、そういうことか。キュアに氷の呪文を唱えさせ、魔王は氷柱をガードしようと氷の手を上げガードする。そうして、氷の手でガードしているうちに、ルナはインフェルノの呪文を放ち、炎の渦で氷の手を溶かしたんだ。
そうなると、次の手は自ずと炎の手を切断すること。
「キュアさん、次はインフェルノの呪文を頼む!」
オレが振り向くと、キュアはぽかーんと口を開けていた。
それもそうだ。氷柱が当たった直後に、突然炎の渦が沸き上がったのだからな。
一体、どこの誰がインフェルノの呪文を唱えたのか、皆、見当もつくまい。
「キュアさん、インフェルノの呪文だ!」
「あ、ああ」
キュアさんは、呪文を練り上げ、インフェルノを唱えた。
魔王の前で炎の渦が沸き上がる。またも奴は炎の手でそれを吸収した。
それと同時に、炎の手を目掛け吹雪が吹き荒れた。
炎の手は、凍り付いた。
またもや、ルナがやってくれた。ブリザードの呪文で、魔王の炎の手を凍り付かせてくれたのだ。
その機を逃さず、オレはオリハルコンの投げナイフを何本も凍った魔王の腕に叩き込む。
悉くナイフは当たり、凍った腕に亀裂が走り、ついにはそこから先が折れた。
よし! 魔王の3本の腕をどうにかしたぞ。
あとは、風が渦巻いて腕をどうにかすればいい。
「皆、伏せて下さい!」
後方からアンナの声。前衛の皆は地に伏せた。
「ホーリー!」
アンナが呪文を唱えると、白に包まれた光が飛んでいく。
究極魔法の一つ、ホーリー。
それは風が渦巻いている腕を捉えた。その腕は、ホーリーの直撃を喰らい、溶けるようにしてなくなった。
炎、氷、地、風が宿った魔王の4本の腕を葬り去った。ようやくこれで勝機が見えてきた。あとは、奴の両膝を地につけさえすれば。
――と、魔王の頭上に大岩が降り注いでくる。あれはロックフォールの呪文だ。
キュアさんが呆気に取られているところを見ると、あれはルナが放った呪文に違いない。
岩石の塊が、魔王の背後にある山頂から次々と振って来て、ついに魔王は倒れた。
それでも、岩石が降り止むと魔王は両膝を地につけ、立ち上がろうとしていた。なんというしぶとさなのだろう。
だが、奴の頭頂部ががら空きになっている。トドメを刺すなら今しかない。この機を逃せば、もうチャンスは訪れないだろう。
オレは<韋駄天>のスキルを発動させ、一気に魔王との距離を詰めた。そのまま<大跳躍>のスキルも発動させ、高く舞い上がる。
そして、魔王の後頭部まで跳躍し、そこに降り立った。そこで、頭頂部を目掛け、オリハルコンのククリナイフを何度も叩き込む。
ついには魔王の頭蓋骨が割れ、グロテスクな脳髄が見えた。
「うおおおおお!」
叫びながら、魔王の脳にククリナイフの刃を何度も執拗に叩き込む。その度に脳漿と脳髄が飛び散った。
そして、ついに魔王は前のめりに倒れた。
やった! ついにやったんだ!
オレ達が魔王を倒したんだ!
オレは魔王の後頭部からジャンプして地に降り立った。そして、歓喜のガッツポーズをする。
それに続き、皆も「エイエイオー」と叫んだ。
完膚なきまでに魔王を倒せた。
だが、その偉業も大悪魔ルナの助けがなければ、とても達成できなかっただろう。
(さぁ、魔王を倒したわよ。これで契約成立ね。お前の魂は、私のものだ)
心の中でルナの声が聞こえた。
鈴のような声音だったが、どことなく薄気味悪いかんじがして、ゾワッと全身が粟立った。
だが、これも契約だ。
真の仲間達を失うくらいなら、悪魔に魂を売った方がマシだと判断したのは、誰でもないオレ自身なのだから。その代償を払う覚悟は出来ている。
(いい心掛けじゃないの、フフフ。それにしても、ああ。貴方の魂――心は美味しそうだわ。曇っているけど、もっともっと暗く。もっとどす黒い心を頂きたいの、ウフフフ)
ルナの不気味な笑い声が心の中で響いた。
頭を振っていると、カインが呼び掛けてきた。
オレは皆がいる所へと走った。
パーティーの全員が集まると、女騎士のマリーが冒険者のリュックから転移の欠片を取り出した。これはレアアイテムで貴重なものだ。
「魔王を倒した今、もうこの山麓に用はないわ。転移して帰りましょう」
マリーの言葉に一同頷いた。
マリーが転移の欠片を空に放ると、一瞬で景色が一変した。
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