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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
六作目『異星の下:ラ=ライエの召喚』
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少し修羅場の予感が……

「ゲーム研究部はけっこうゆるい部活で、研究内容がゲームに関係していれば何でもいいんだ」

瞳が説明を始めた。この流れはこれまでに何度も経験しており、すっかり手慣れたものだった。

(でも、結局みんな残ってくれないんだよな……)


「ゲームに関係していれば?」

弥紗が首をかしげ、あまり要領がわからないそうに聞く。


「例えば、三年の田中先輩はゲーム音楽を研究してるし、高野先輩はハードウェア専門。ほら、これ全部先輩が部に残していったんだ」

瞳はテレビの横に並べられたゲーム機を指さした。


「わあ……ッ!」

弥紗の瞳が輝く。彼女の家には新しい機種が数台あるだけで、ここに置いてある古い機種は、初めて触れるものばかりだった。

その反応がかつての絢音とまったく同じで、瞳は思わず微笑んだ。絢音の表情も、少し照れくさそうに和らいでいた。


「部の唯一の条件は、学期ごとに少なくとも一つ、ゲームに関連した研究を発表すること。はい、こっち、過去の会誌を見れば参考になるかも」

瞳は弥紗を社誌が並んでいる棚へ案内した。弥紗は最新号を手に取り、ざっとページをめくる。


「ん?これは……」

手を止めて、真剣に読み始めた。


「兄さんの新作ゲーム!?」

「うん、制作過程や細かいところを書いておいたんだ」

「これ、いくらですか?売ってください!」

弥紗は深々と頭を下げ、懇願するような顔をした。


「大げさすぎ、予備があるから、欲しいならどうぞ」

もともと文化祭用に刷った分なので、瞳はすぐに承諾した。


「はい、これ」

瞳は箱から新しい一冊を取り出し、弥紗に手渡す。


「ありがとうございます!」

宝物を手に入れたように大切そうに抱え、すぐに鞄へしまい込んだ。


「えっと……どこまで話したっけ?そうそう、学期ごとに研究を一つ出して文化祭で発表する。それ以外は特に制限なし」

「けっこう良さそうですね。あ、そうだ、兄さん。この部って、兄さんと琉璃先輩二人だけなんですか?」

弥紗は何気ないふりをして尋ねたが、実はとても気になっていた。



「その名前、学校で呼ぶのはやめたほうがいいよ。ちょっと危ないから」


瞳は声を荒げることなく、穏やかに諭すように言った。

自分はただのゲーム制作者にすぎない。

けれど、絢音や結衣――Vtuberとして活動する二人にとっては事情が違う。

彼女たちの立場は、ほとんどアイドルに近い。もし正体が露見してしまえば、どんなトラブルに巻き込まれるか分からないのだ。




「あ……ごめんなさい」


弥紗は反射的に口を押さえ、気まずそうに目を伏せた。

頬がほんのり赤く染まっているのを見て、絢音は首を振って気にしていないと示し、自己紹介する。


「大丈夫よ、私は清水絢音。よろしくね」


「西村弥紗です。よろしくお願いします、清水先輩」

「こちらこそ、西村さん」

「はは」

「ふふふ」

二人は視線を交わし、笑みを浮かべた。

瞳はその様子を横目で見ながら、なぜか二人の間に火花が散っているように感じてしまった。


「さっきの質問だけど、三年生の先輩たちのほかに、最近入った二年生が一人いる。ただ、ほとんど顔を出さないから幽霊部員みたいなものかな」

その二年生は隣のクラスの男子で、顔を出すことはほとんどなく、来ても一人で黙々と作業しているだけだった。



「そうなんですか」

「まあ、だいたいそんな感じ。だから、そんなに早く決めてほしくない。もしかしたら、もっと合う部活があるかもしれないし……」

「いいえ、ぜひ入部させてください!」

弥紗ははっきりと答えた。


「わかった。はい、これが入部届」

瞳は引き出しから申込用紙を取り出し、弥紗に手渡した。


「ありがとうございます」

「でも、ちょっとうるさいかもしれないけど、他の部も見学してから決めたほうがいいと思うよ。勘違いしないでね、入部を拒否するわけじゃないんだ」

結衣の友人だからこそ、瞳はあえて忠告を添えた。


「経験は多いほうがいいしね」

「はい、わかりました」

弥紗は不満を見せることなく、素直に受け止めた。


「じゃあ、兄さん。今日はもう帰ります」

「うん、気をつけてね」


弥紗を見送った後、絢音がからかうように寄ってきた。

「嬉しい?あんなに可愛い後輩に好かれて」

「からかわないでよ」

瞳は苦笑する。


「だって、あなたに会った途端に入部決めちゃったんだよ?」

「まあ、多少は俺の影響もあるかもしれないけど……単純にゲームが好きなんだと思うよ。絢音みたいに」

瞳は自分が入部の動機の一つであることを否定しなかったが、VTuberでもある弥紗がゲーム好きなのは当然だとも思っていた。


「それもそうね」


納得した絢音は、当時あれほど多くのゲーム機を目にした時の気持ちを思い出し、思わず微笑んだ。

「さて、そろそろ帰ろうか」

「うん」

荷物を片づけ、部室の窓や扉をきちんと施錠してから、瞳と絢音は並んで歩き出した。


「今日、うちに来ない?」

絢音がごく自然に問いかける。

「今日か……いいよ」

瞳は予定を思い返し、あっさりと承諾した。

「ほんとお?やった!行こう、早く行こう」

夕暮れの街に、二人の影が楽しげに並んで伸びていった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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