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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
八作目『記憶墜落(メモリーフォール)』

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いつもの夜に

瞳が家に帰ると、制服のままソファに寝転び、アイスを食べながらテレビを見ている妹の姿が目に入った。


「あ、お兄ちゃん。おかえり〜」

瞳の帰りに気づいた結衣は、もう片方の手をひらひらと振って挨拶した。


「ただいま。アイス食べてるのか?」


ちょうど季節の変わり目で、瞳のクラスでも風邪をひく人が増えてきている。

中には熱を出して休んでいる生徒もいるほどだ。


「最近、風邪が流行ってるみたいだから、体調には気をつけろよ」

少しおせっかいかとも思ったが、瞳はつい声をかけてしまう。


「は〜い」

結衣は素直に返事をした。


(よかった……結衣にはまだ反抗期が来てないみたいだ)

反抗期が来たら、瞳はたぶん立ち直れないかもしれない。


「お兄ちゃん、また変なこと考えてたでしょ? 顔が怖いよ」

結衣がじとっとした目で見てため息をつく。

この兄は基本的には良い人なのだが、ときどき妄想癖があるのが玉にキズだ。


「いや、なんでもないよ。それじゃあ、部屋に戻るよ」

瞳はゲーム制作を再開するために自室へ向かった。


「ばいば〜い」

結衣は軽く手を振り、再びテレビに視線を戻した。


部屋に戻った瞳はパソコンを起動し、ゲームのシナリオ作りを再開する。


しばらくして、画面に【鈴宮瑠璃が配信を開始しました】という通知が表示され、瞳は思わずクリックした。


今日は雑談配信のようだ。

絢音が日常のことを話している。知っている話もあれば、初めて聞く話もある。


「そういえば、ちょっとお知らせがあるんだ」

画面の中で、白いワンピースを着た少女の腰まで届くミルク色の髪が、ふわりと揺れた。


「少し私用でね、これからしばらく配信の頻度が下がるかもしれません。でも心配しないで。落ち着いたらまた元通りに戻るから」


:結婚!?

:出産おめでとう~

:体調でも悪いの?


コメント欄がざわつき、みんなが好き勝手に予想を始めた。

瞳には、それが進学準備のためだと分かっている。

けれど、視聴者たちの的外れな憶測を見ていると、なんだか可笑しくもあり、何とも言えない気持ちがあった。


「結婚? ないない。出産なんてもっとないよ! 私にはまだまだ遠い話よ。

それに、体調の心配もいらないよ。今すっごく元気だし、体も絶好調!」


その言葉に、瞳は苦笑しながら首を振った。

ここ数年は落ち着いているが、以前の絢音は季節の変わり目になると、よく体調を崩していたのだ。


「今年こそは、本当に健康で過ごせるといいけどな」

絢音の弱々しい姿を思い出すと、胸が締めつけられるような気がした。


そう思いながらも、配信を聞き流しつつ、瞳の指はキーボードの上で軽快に動き続けていた。


「“記憶潜行”がテーマなんだし、もっと章を増やさないとな」

瞳の構想では、一つの記憶が一つのステージになる。

それぞれ独自の仕掛けや謎解き、そして物語を持つ――そういう構成だ。


作業量はかなりのものになる。

細かい部分やシステム面は七夜夢スタジオに任せられるとしても、

メインストーリーだけは、自分の手で仕上げたい。


全体の枠組みはすでに固まりつつある。

だが、具体的にどんな記憶を使い、どんなドラマを描くのか――そこがまだ課題だった。


「絢音も頑張ってるんだ。俺も負けてられないな」

画面の中で、満面の笑みを浮かべる少女を見上げながら、瞳は静かに決意を固める。


モニターの光が静かに瞳の顔を照らす。

そしてその瞬間、彼の指は、より軽やかに、より力強くキーボードを走り始めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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