【大学編】あの日、瞳は運命と出会った
金髪の少女は頬杖をつきながら、ぼんやりとパソコン画面の配信を眺めていた。
机の上のスマホは、親友の琴梨との通話をつないだままだ。
「いま起きた」
「祈、おはよう」
「おはよう」
二人が見ているのは、琴梨のお気に入りのVtuber星野光のゲーム配信だった。
遊んでいるのは、二人とも大好きなゲームクリエイター【瞳中の景】の最新作。
それなら見ないわけにはいかない。
ゲーム自体も面白そうだし、星野光も楽しそうにプレイしている。
ただ一つ問題なのは――すでに十数時間も配信が続いていたことだった。
途中、祈は耐えきれず一度寝落ちしてしまった。
しかし目を覚まして画面を見ると、そこには眠る前と変わらない、楽しそうにゲームをする星野光の姿があった。
(体力おばけすぎでしょ……)
祈は内心、呆れつつも感心する。
だが、配信を見ているうちに、自然と最近気になっている人物のことが頭に浮かんだ。
長谷川瞳。
授業中、琴梨に誘われて一緒にゲーム制作をしている青年。
年齢に似合わぬ落ち着きと、底の知れないゲーム知識。
そのどれもが、祈には眩しく映っていた。
以前の打ち合わせで、彼が何気なく描いた設計図。
それを見た瞬間、祈の中に一つの、少し荒唐無稽な疑念が芽生えた。
(もしかして、この同い年の青年って……)
「……まさか、そんなわけないよね」
無意識につぶやいた声が、通話越しに琴梨に聞こえた。
「祈? どうかしたの?」
「え、あ……その……」
少し迷った末、祈は思い切って口にする。
「琴梨ってさ……長谷川くんの絵、瞳中の景先生の絵に似てると思わない?」
「長谷川くん? あ〜……確かに、ちょっと似てるかも」
「でしょ?」
「でもそんなまさか~私たちと同じ大学生だよ? 本当だったら天才すぎない?」
「……それはそう」
「もし本当にそうだったら、サインもらいたいな〜」
そんな他愛ない会話をしている頃――
話題の本人である瞳は、震える手を前へ伸ばしていた。
――時は少し遡る。
珍しく一人で街をぶらついていた瞳は、目的もなく歩いている途中、ふと視線を奪われた。
そこには一軒のペットショップがあった。
明るいショーウィンドウの中には、さまざまな小動物が並んでいる。
もちろん、猫や犬も多く展示されていた。
その中で、瞳の目を釘付けにしたのは――
黒と白の毛並みをしたシベリアンキャットの子猫だった。
少し小柄な体型を除けば、
それはまるで、自分の新作『異星食堂』に登場する神の使者猫様そのものだった。
瞳はその場に立ち尽くし、しばらく見入っていた。
そして、これほどまでに「運命」という言葉を信じた日は、今までなかった。
「……すみません。この子をください」
「初めて猫を飼われるんですか? でしたら、こちらもおすすめですよ」
店員はにこやかに微笑みながら、手続きを進めつつ、必要な用品を次々と紹介していく。
キャットフード、食器、トイレ砂、爪とぎ、おもちゃ――。
気づけば、瞳の両手には大量の買い物袋が下がっていた。
そしてその子猫は、正式に彼の家族となった。
帰宅後、瞳はキャリーケースをリビングの隅に置いた。
中では、子猫は小さな体を縮こまらせながら、
丸い瞳で恐る恐る周囲を観察している。
――可愛すぎる。
瞳は思わずスマホを取り出し、何枚も写真を撮ってしまった。
カシャ。
カシャ。
音に驚いた子猫は、びくっと体をすくめる。
「あっ……ごめん、ごめん……怖かった?」
瞳は慌ててスマホをしまい、しゃがみ込んで優しく声をかける。
そして、真っ先に思い浮かんだのは――猫飼い経験者の絢音だった。
「……今はまだ休んでるかな」
配信直後のことを思い出し、瞳は連絡を控えることにする。
代わりに、SNSへ写真を投稿した。
こんなに可愛い猫が、自分の家族になったことを、誰かに伝えたくなった。
【今日は、運命と出会いました】
――すると、すぐに反応が殺到した。
「先生、猫飼ったんですか!?」
「可愛すぎる……!」
「まさか使者様って実在したとは!」
ピロン。
【瞳、その猫どうしたの?】
絢音からのメッセージだ。
【今日たまたま街で見つけて、ペットショップから連れてきた】
瞳は簡単に事情を説明した。
そして返ってきたのは、ただ一言。
【今から行く】
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