【絢音】そういえば、この主人公は料理人だった【異星食堂】
【あなたは死亡しました】
ゲーム画面に浮かび上がったその文字は、突如として蛍光を帯びた猫の前足によって叩き砕かれた。
星野光は強い衝撃を受けたかのように地面へと落ち、闇の中から意識が浮上していく。
「はっ!」
星野光は勢いよく目を開いた。
気がつけば、そこは基地のベッドの上だった。
「……夢?」
星野光は荒い息を吐きながら自分の頬に触れる。
その場所には、まだかすかな痛みが残っていた。
【SAN値 -3】
「いやあ、強かったね! 赤目の騎士!」
絢音は興奮気味に声を上げる。
――これが、このゲームでの初めての死亡だった。
:今は熱くなってる場合じゃないぞ、SAN値下がってる
:死亡にペナルティあるの!?
「え? もう朝?」
絢音は画面上の時刻が午前八時になっていることに気づき、慌てて主人公を操作して外へ飛び出した。
赤目の騎士に再挑戦しようとした、その矢先――
入口でナイアと鉢合わせた。
「お帰りなさい、星野様」
扉の前に立つナイアは行く手を遮り、扇子で口元を隠しながら目を細めて微笑んだ。
「あら、これは初めて……ですよね?」
「初めてって、何の?」
絢音は首を傾げ、そして思い当たる。
「……もしかして、さっき死んだこと?」
「生あるものに死は必然。これは世界の摂理です。ですが――あなたは違う」
「……どういう意味?」
星野光は困惑と警戒をにじませた視線をナイアへ向ける。
「まさか、これほどまでにあの御方に寵愛される存在が現れるとは」
ナイアは扇子を閉じ、ぽん、と掌を打った。
「どうか、その御方の眼差しのもとで――
あなた自身の伝説を紡いでください」
そう言い残し、ナイアは回廊の奥へと消えていった。
:一体何を言っているのか?
:あの御方って誰なんだよ……
「うーん……ナイアさん、結局なんだったんだろう?」
絢音は首を傾げつつも、気持ちを切り替えて赤目の騎士を探しに向かう。
だが、橋のたもとにあったのは、淡く光る猫の足跡だけだった。
「猫の足跡? かわいい!」
興味本位でタップすると、インベントリ画面が開き、死亡前に所持していたアイテムがすべて戻ってきていた。
「ああ、なるほど……死ぬとアイテムと装備を落とすタイプか」
絢音は、いわゆるソウル系のように通貨や経験値だけが失われるものだと思っていたらしい。
回収を終え、周囲を見回しても赤目の騎士の姿はない。
「やっぱり夜じゃないと出てこないか」
少し残念そうに呟き、基地へと引き返した。
――その頃、壁一枚隔てた向こう側で。
瞳は、絢音の配信を険しい表情で見つめていた。
(絢音のやつ……主人公が料理人だってこと、忘れてないよな?)
瞳はこのゲームを制作するにあたり、プレイヤーに料理を積極的に使ってもらうための仕組みを用意していた。
通常の料理は一時的なバフを与えるだけでなく、特定のボス素材を使った料理では、永久的な能力強化が得られる。
「星野様、何やら貴重な素材をお持ちのようですね。
よろしければ、私が料理いたしますが」
リリが星野光に声をかける。
――そう、これが瞳の仕掛けた保険だった。
戦闘ばかり好むプレイヤーが料理を無視しないよう、
永久強化素材を入手した際には、リリが自動的に気づかせる設計になっている。
「じゃあ、お願いしようかな」
絢音は頷き、双頭クマの肉を差し出した。
画面はキッチンへ切り替わる。
リリは手際よく包丁を振るい、強火で炒め、合間に鍋のスープをかき混ぜる。
そして完成した料理を掲げ、カメラに向かって満足そうに微笑んだ。
【クマ肉料理 ×1】
「どうぞ、お受け取りください」
「……かわいい」
絢音はうっとりしながら料理の説明を開き、思わず声を上げる。
「え、永久的に体力上昇!?」
「星野様、こちらを、もし手に入れることがあるなら、また来てください」
リリはレシピと素材一覧の書かれたメモを手渡した。
必要素材と、それによって得られる能力上昇が明記されている。
永久強化という甘美な誘惑により、絢音は本格的に料理研究を始めることになった。
「よし!」
瞳は拳を握りしめ、計画通りの展開に小さくガッツポーズをする。
それからしばらくの間――
絢音は敵を倒し、素材を集め、料理で自らを強化し、
そして再び赤目の騎士へと挑み続けることになるのだった。
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