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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
大学編

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【絢音】マーケット【異星食堂】

「よし、今日も新しい一日だね」

絢音はそう言ってうなずいた。今回は奈亞から種を買ってあるため、後で農業を体験できそうだ。


「おはようございます、星野様」

外に出ると、畑に水をやっているリリと出くわした。リリは耳をぴくりと動かし、星野光に向かって軽くうなずいて挨拶した。


「おはよう!」

星野光は元気いっぱいにリリへ挨拶し、新しい作物を植える選択肢を選んだ。


「作物を植えるのですね? こちらに空いている場所があります」

リリは空き地のほうへ歩いていき、説明を始める。

「植えたい作物を選ぶだけで大丈夫です。この星の作物は成長速度が異様に速く、だいたい三日ほどで収穫できます」


「三日!? 早すぎない?」

絢音は農業に詳しいわけではないが、現実なら三日で芽すら出ないことくらいは分かる。


:まあゲームだし

:この星、何かおかしくない?


「どっちもあり得るね。異星シリーズだし」

絢音は警戒はしていたが、ワクワクしながら先ほど買ったニンジンの種と唐辛子の種を植えていく。


農作業の工程は大幅に簡略化されており、どこかの本格派農業ゲームのような、細密なリアルさはない。

作物を選んで植え、あとは一日一回、水やりと肥料を与えるだけだ。


「ふむ……現実の野菜作りも、これくらい簡単だったらいいのに」

絢音は笑ってそう言った。


特定の要素をとことん突き詰めるタイプのゲームと比べると、『異星食堂』は浅く広く楽しめる設計だ。

多くのプレイヤーを引き込める反面、やり込み派には物足りなく感じるかもしれない。


だが、今の絢音にはちょうどいい。

畑仕事を終え、収穫への期待を胸に、マーケットへ向かうことにした。


絢音はマップを開き、目的地のマーカーを確認する。


「川沿いを上流に進んで、橋を渡って……ここかな?」


鉄筋コンクリートで作られた大きな橋が見えてきたが、長年の放置のせいか、あちこちがボロボロだ。


「おっ、マーケットが見えてきた」


入口には大きなアーチが立っており、コンクリートに残る赤い塗装もところどころ剥げている。

看板の文字はすでに風化し、何と書かれていたのか分からない。


中に入った瞬間、まず感じたのは賑やかさだった。

ずらりと並ぶ店々、色とりどりの看板と照明、客引きの呼び声や値段交渉の声。

荒廃した街並みとは対照的に、ここだけは人の気配に満ちている。


「お客さん、初めて?」

入口付近で、小さな丸帽子をかぶった青髪の少女が、ぱたぱたと駆け寄ってきた。

年の頃は十歳前後だろうか。くたびれてはいるが清潔な麻の服を着て、精一杯の笑顔を向けてくる。


「ガイドは必要? 碧はコイン十枚で案内するよ」


【お願いする】【自分で見る】


絢音は少し迷った末、了承することにした。


「ありがとう! 優しいお客さん!」

少女の目がぱっと輝き、嬉しそうに言う。


「碧はここで育ったんだよ。だから何でも知ってるんだ!」


「この子、碧っていうんだ」

明らかに未成年に見える碧を見て、絢音は少し胸が痛んだ。

この年で働いているということは、孤児か、何か事情を抱えている可能性が高い。


「じゃあ、まずは簡単に、ここがどんな場所か教えてもらえるかな」

星野光がそう言う。


「はい! 碧に任せて!」

碧は胸を叩き、頼もしいところを見せようとする。


「ここには正式な名前はないの。みんな、ただ『マーケット』って呼んでる」

碧の話によると、もともとは傭兵たちが集まって物々交換をしていた場所で、人が増えるにつれて常設の店が並ぶようになったという。


「特定の物を買いたいなら、普通のお店がおすすめだよ。品揃えも安定してるし、素材もそのまま売れるから。でも運試しとか、お得な物を狙うなら、競売場だね」

碧はマーケットの中央にそびえる大きな建物を指さした。


「それが競売場。あそこは傭兵さんたちが個別に店を出してるから、物々交換もできるし、値切り交渉もできるよ」

さらに碧は付け加える。

傭兵たちはそれぞれ好みがあるため、相手の欲しい物を出せば、より大きな割引を引き出せることもあるらしい。


「面白そうだね」

絢音は碧の案内に従い、まずは周囲の店を見て回ることにした。


食料品店、衣料品店、そして武器や装備を専門に扱う店まで――マーケットには実に多様な店が揃っていた。



「あっ、そうだ。碧、大事なことを一つ言い忘れてた」

碧は何かを思い出したように、真剣な表情で言った。


「はい、なんでしょう?」


「ここでは、絶対に戦闘しちゃだめだよ」


「どうして?」

星野光は不思議そうに尋ねる。


「前にね、傭兵の一人が他の人と揉めたことがあったんだけど、そしたらすぐにマーケット全体から袋叩きにされて、一瞬でやられちゃったの」


「それは……かなり怖いね」

絢音は、普段は平和そうに見える村や街でも、地雷を踏み抜いた瞬間にとんでもないことになるゲームがあるのを知っている。

今でも、ただの好奇心で一羽の鶏を殴ってしまい、その後に起きた惨劇のことを忘れられない。


:あ〜

:あれは本当に怖いやつ


同じような経験を持つ視聴者の反応を見て、絢音は少しだけ救われた気持ちになり、気を取り直してそう言った。


「よし、それじゃあお店を見に行こう」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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