【絢音】料理してみるッ!!光の料理を食べてみないか?【異星食堂】
「ゲームよし、設定よし、ムーちゃんも……よし!」
ポニーテールを結った少女は、指差しながら一つ一つ確認し、念入りに最終チェックを行う。
指を向けられた猫は、気だるそうに「にゃあ」と一声鳴いた。
新たな姿――「星野光」として再スタートを切った絢音は、すでに他のゲーム配信は何度か行っていたが、
瞳の新作を配信するのは、これが初めてだった。
配信画面のコメント欄には、すでに大量の書き込みが流れている。
その中のある名前を見つけた絢音は、目を細めて、くすっと笑った。
「音川……ね?」
その名前を見た瞬間、絢音には確信があった。これは瞳だ、と。
あの時、コメントで「おかえり」と書いてくれたことを思い出し、
自然と表情が柔らぐ。
「よし、始めよう」
絢音は一度深呼吸をして、配信を開始した。
「みなさん、ただいま~星野光です」
:こんばんは〜
:おかえり〜
:光ちゃん!おかえり!
「ただいま~こんばんは、みなさん。今日は、
瞳中之景さんの新作――【異星食堂】を遊んでいきます!」
絢音のテンションは自然と高まっていく。
画面には、廃墟の中に立つ一人の影が映し出され、
頭にかぶった真っ白なコック帽がひときわ目立っていた。
:おお、新作!
:前から気になってた
:料理ゲーム?
「じゃあ、さっそく始めましょう」
期待に胸を膨らませながら、スタートボタンを押す。
暗闇の中に、小さな黄色い点が現れる。
カメラがズームインすると、
頭にコック帽を乗せた、クリーム色のサイベリアンキャットが座り、こちらを見つめていた。
さらにカメラが寄り、
黄と黒が混じった猫の瞳にフォーカスされる。
その瞳の奥に、一人の人影がゆっくりと近づき、
猫へと手を伸ばす様子が映し出される。
「かわいい! 猫の料理人!?
猫ちゃんの手料理、食べてみたいな〜」
絢音は興奮気味に声を上げる。
ロゴに登場する猫ちゃんを見るたびにテンションが上がるが、
今回はそれに加えて、どこか帰ってきたような安心感もあった。
再び画面が暗転し、
わずかな揺れとともに、ぼやけた映像が浮かび上がる。
「こんな料理、誰が食べるんだ」
客が画面越しに怒鳴りつける。
その圧迫感に、絢音の胸がきゅっと締めつけられた。
テーブルの上には料理が並んでいるが、
一口も手をつけられないまま、客は去っていく。
「食べ物を粗末にするのはよくないよ」
幼い頃からの躾もあり、絢音は思わず不満を口にした。
:それな
:粗末にするのはダメ
:どんな料理なんだよ、ゲテモノ?
:シュールストレミングとか?
「うーん……それは私も食べられないかも」
コメントを見ながら、絢音は素直な感想を漏らした。
「腕は確かなんだ。なのに、どうしてこんな変な料理ばかり……
もう限界だ。一緒にはやっていけない」
店の従業員たちも、次々と去っていく。
「これを持っていきなさい。
どこかには、君の料理を受け入れてくれる場所があるかもしれない」
年老いた男がため息をつきながら、一枚のチケットを差し出す。
チケットの文字がアップになる。
【XXX星 行き】
それは、宇宙船の搭乗券だった。
「はっ……!」
主人公は、息を荒くしながら目を覚ます。
画面は一人称視点。
「……顔を洗おう」
そう呟いて洗面所へ向かい、
顔を洗って鏡を見ると、画面が切り替わる。
「えっ、キャラメイクできるの!?」
絢音は思わず声を上げた。
瞳のゲームでは珍しい要素だ。
「ちょっと見てみよう」
まずは性別選択。
「女の子っと」
選択すると、肌の色、髪色、顔立ち、髪型など、
調整できる項目がずらりと並ぶ。
「まずは長髪……内側の色は、あさみママのデザインみたいには、さすがにできないか。
仕方ない、黒で妥協しよう」
星野光の外見を再現しようと、細かく調整していくが、
途中で他の髪型も試したくなり、あれこれ弄っているうちに、
気づけば一時間近くが経過していた。
最終的に完成したのは、
眼鏡をかけた黒髪ポニーテールの少女だった。
「どう? 結構似てると思うんだけど」
:かわいい
:ポニーテール最高
あさみ: 新髪型、ポニーテール追加する?
「あさみママ!」
絢音は驚きつつ、少し照れたように声を上げる。
:あさみ先生だ
:こんばんは〜
:ポニーテールいいね
「新髪型の話は、あとで個別に相談します。
よし、キャラメイク完了。それじゃあ次は……」
洗面所を出ると、画面は斜め45度の俯瞰視点に切り替わる。
黒いポニーテールの少女が、部屋の隅から歩み出てくる。
床も壁も、すべて金属でできた空間。
右手側には、弧を描くような窓があり、
そこからは満天の星空が広がっていた。
「わあ……きれい」
絢音はキャラクターを操作して窓に近づく。
星空に見とれていた、その瞬間。
突然、巨大な黒い影が視界を覆った。
「え?」
状況を理解する間もなく、
耳障りな警報音が鳴り響く。
【警告、警告。
本艦はまもなく宇宙タコと衝突します。
乗客の皆さまは衝撃に備えてください】
「な、なに!?」
窓の外を、巨大なタコの触手が横切る。
宇宙船全体が、きしむような不気味な音を立てた。
:でっか!?
:宇宙タコって何だよw
:ヤバそう
【警告、警告。
本艦は最寄りの惑星へ不時着します。
幸運を祈ります】
「あ……」
絢音は短い悲鳴を上げるのが精一杯だった。
画面は激しく揺れ、
やがて――暗転する。
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