【祈】真実は何時も一つ!
金髪の少女は少し離れた場所に立ち、
自分の親友が黒髪の青年とゲームの細部について話し合っている様子を見つめていた。
少女の名前は上野祈。ハーフである。
見た目は金髪碧眼の完全な外国人だが、実は生まれも育ちも日本の子どもだ。
日本人離れした外見と飛び抜けた身長のせいで、周囲からはよく珍しい生き物のように見られてきた。
ちなみに、現在の身長は一六〇センチ台。
百七十センチにあと一センチ届かないが、届かない以上「一六〇台」。
それが彼女自身の小さなこだわりだった。
そんな幼少期の経験もあって、祈は次第に口数の少ない性格になった。
幸いなことに、中学生の頃、最高の親友――篠原琴梨に出会った。
琴梨はとても明るくて社交的で、常に人が集まってくるタイプだ。
だが、人を信じやすい彼女には、時々悪意を持って近づく者もいた。
琴梨を守るため、祈はいつの間にか、人を観察する習慣を身につけていった。
「改変の四つはみんなで相談して作って、オリジナル怪談は一人ひとつね。手伝いが必要なら、いつでも言ってくれればいい」
目の前の青年は穏やかな口調でそう言った。
落ち着いた態度は同年代とは思えないほど大人びていて、
鍛えているらしい体は、無駄なく引き締まって見える。
青年の名前は長谷川瞳。
ある日、琴梨が授業中に声をかけてきたクラスメイトだ。
琴梨いわく「ゲーム制作が得意な人」。
祈はしばらく観察して、彼が琴梨の容姿目当てで近づくようなタイプではないと判断した。
さらに、あの日隣にいた祈ですら見惚れてしまうような絶世の美女――
あの人が常に一緒なら、琴梨を奪われる心配もないだろう。
「長谷川さん、ここはこういう設定にしたいんだけど、どう思う?」
琴梨が身振り手振りで説明する。
「いいと思うよ。でも、ここを少し調整すると、ゲーム展開にもっとインパクトが出る」
瞳はまるで最初から案を持っていたかのように、滑らかに説明した。
「なるほど……。ねぇ長谷川さん、『狐の巫女』みたいな形式で作るのって、可能かな?」
瞳はすぐには答えず、
「まず確認。『狐の巫女』の形式っていうのは、昼夜システムとノード探索のこと?」と問い返した。
「うん、そう!」
「それなら問題ない。あれは別にオリジナルなシステムじゃなくて、同じような仕組みのノベルゲームは多いから」
「そっかぁ……」
「そういう構成にするなら――」
瞳は少し考えてから言う。
「昼夜システムを使って、昼は日常探索、夜は怪談解決にあてるのはどう?」
その様子を見ながら、祈は直感する。
長谷川くんは制作進行や監督の立場に慣れている――と。
(それに絵柄も……)
瞳が描いた簡単なラフを見たとき、祈の脳裏に浮かんだのは――
琴梨が熱狂するゲーム制作者【瞳中之景】の絵だった。
「……ありえないよね」
祈は思わず小声で否定する。
もし本当に彼が瞳中之景なら、高校生の時点で名作を量産していたことになる。
「祈ちゃん? 何か言った?」
琴梨が首を傾げる。
「何でもない」
祈は静かに首を振った。
「じゃあ祈ちゃんも一緒に相談しよ! ほら、存在しない部屋を怪談の一つにするのってどう?」
琴梨が祈の手を引きながら嬉しそうに言う。
「存在しない……部屋?」
祈は問い返す。
「そう! 昼はどこにもないのに、夜になると廊下の一番奥に出現するの!」
「その部屋の中には、何があるの?」
「ん〜……」
琴梨は考え込む音を漏らす。まだ固まっていないらしい。
「例えば、学校の真実が隠れてるとか、迷い込んだ生徒が昏睡してるとか」
瞳がさらりと例を挙げる。
「おお〜、長谷川くんって本当にすごい! よくそんなすらすらに出るなぁ」
琴梨が感嘆の眼差しを向ける。
「ただの例だからね。後で全体のバランスを見て、どっちが効果的なのか調整すればいい」
(……やっぱり、どう考えても怪しい)
祈はじっと瞳を見つめた。
じーっ。
その視線に気づいたのか、瞳は少し落ち着かない様子で問い返した。
「どうかした?」
「……いえ、別に」
祈は軽く首を振る。
――この不思議な同級生が、琴梨の崇拝するあの制作者なのか。
祈は今後も静かに観察することにした。
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