【大学編】ゲーム作り
新人がゲームを作ろうとする時、何が一番大事なのか。
良いアイデア、優れたゲームシステム、あるいは魅力的なキャラクター――そんな意見はいくらでもある。
だが、瞳はもっと根本的なことを言いたかった。
それ以前の話だ。
つまり、実現可能な計画を立て、それをきちんと遂行すること。
一見すると簡単そうに思えるが、新人にとっては意外と難しい。
創作は楽しいばかりではなく、ときには苦しさすら伴う。
そして人間は習慣の生き物だ。
一度習慣さえ作ってしまえば、自然と前へ進める。
「だから今日の目標は、大まかな枠組みを決めること。
走る時に目的地を決めるみたいに、スタート地点とゴールを見つければ、必要なものも見えてくる」
瞳は、初めてゲーム制作に挑む琴梨と祈にそう言い、新しく買ったノートを取り出した。
そして、そこに書き込む。
舞台:学園
ヒロイン:旧式なセーラー服を着た女子生徒
「で、何か思いついた?」
瞳は今日はあくまでサポートに徹するつもりだった。
ひとつには、あまりアイデアを出しすぎると正体がバレそうだから。
もうひとつは、単純に二人がどんな作品を作るのか見てみたい――そんな興味だった。
「は、はいはいはい!」
琴梨が勢いよく右手を挙げ、バッグからタブレットを取り出す。
「家で何枚かラフを描いてきたの!」
そう言って画面を見せられた瞳は、思った以上のやる気に少し驚きつつも嬉しくなった。
「ん? これ、上野さんじゃない?」
琴梨のイラストは、紺色のセーラー服を着た金髪の少女。
特徴は祈とほぼ同じで、一目でモデルが分かるレベルだ。
「……どう? 似てるでしょ?」
祈が少し誇らしげに言う。
「確かに上手い……けど、問題は『本人そっくりすぎる』ってところだね」
瞳は苦笑した。
「そっくり……それが何の問題あるの?」
祈が首をかしげ、琴梨も興味深そうに身を乗り出す。
「そうね、簡単に説明するよ。たとえばゲームが完成して、ヒロインが上野さんに瓜二つだったとする」
「うん」
「そのゲームをプレイした人がいる」
「うんうん」
「で、『このヒロイン可愛い! モデルがいるの!? 会いたい!』ってなるかもしれないんだよ」
瞳が大げさに言うと、祈の白い耳がほんのり赤く染まった。
「そうしたら上野さんのところに人が殺到する。人気者になりたいなら問題ないけど……」
祈は勢いよく首を振り、そんな事態は絶対に避けたいと強調した。
「じゃあ、修正する……!」
琴梨も慌てて同意する。
「でも、ヒロインが金髪ってことは……外国人かハーフなの?」
瞳がふと思った疑問を口にする。
「えっと……」
琴梨は頭をぽりぽり掻き、照れ笑いを浮かべた。
「まだ決めてない……」
「なるほど、じゃあ分析するね」
瞳はノートに、同じ構図の簡単なラフをさっと描いた。
「わ、すご……」
「ほら。筱原さんの配色のまま、紺色系のセーラー服と金髪の対比が強くて、ビジュアル的にはかなり映える」
制服に「紺」、髪の横に「金」と書き込む。
「ただし、ストーリーの雰囲気は調整しないといけないかも」
「どうしてですか!」
琴梨が授業中の優等生のように手を挙げる。
「想像してみて。古井戸から出てくるのが黒髪の怨霊じゃなくて、金髪ギャルだったら?」
「……確かに怖くない……!」
「まあ、そういうギャップで攻めるのもアリだけど、それが本当にやりたい雰囲気かどうかを決める必要がある」
瞳は描いたラフに「1」と番号を書き、次に髪も制服も黒い、和風ホラー寄りのラフを描いた。
「こっちは和風っぽいでしょ?
こうなると物語も和風ホラー寄りにできる」
「なるほど……!」
琴梨が感心し、祈も静かにうなずく。
「どっちが良い悪いって話じゃなくて、単純に方向性の違いだよ」
「私は……1のほうが好き」
祈が最初の案を指差す。
「じゃあ筱原さんは?」
瞳が1にチェックを入れながら尋ねる。
「私も1がいい! あたたかい話にしたいから!」
「じゃあ配色はそのままで、顔の造形だけ調整しよ」
「はーい!」
「舞台が学校なら、七不思議を探索させる感じにするのもアリだし、ヒロイン自身を怪談のひとつにしてもいい」
瞳はラフの下に「七不思議」と書き込む。
「よくある学園怪談だと――
増えていく階段、血の涙を流す肖像画、勝手に動く人体模型、音楽室のピアノ、トイレの花子さん……とかね」
「長谷川くん詳しい!」
琴梨が尊敬するように瞳を見る。祈の目にも感心が浮かんでいた。
「まあ、ただのホラー映画好きだよ」
瞳は、しょっちゅう一緒にホラー映画を観ている絢音の顔を思い出し、つい優しく微笑む。
「俺のおすすめは、定番をいくつかアレンジして、そこにオリジナルを足す構成」
瞳はノートに「改変4つ」「オリジナル3つ」と書く。
「うんうん!」
「もしヒロインを怪談の一つにするなら、それを主軸にして――」
(あ、やば……しゃべりすぎた。これは俺だけのゲームじゃないんだった……)
七夜夢にいた時のように喋り続けていたことに気づき、瞳は慌てて口を閉じた。
「と、とにかく!
今やるべきは、ヒロインの設定を完成させて、メインストーリーを決めて、残りの怪談を作ること!」
瞳はそうまとめて、話を締めくくった。
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