【大学編】大丈夫、バレへんバレへん
二人が仲良くじゃれ合う光景を見たあと、瞳は単刀直入に本題へ入った。
「篠原さん、君は『狐の巫女と天気雨』みたいなゲームを作りたいって言ってたよね?」
瞳は念を押すように確認する。
「うん!そうだよ!」
琴梨は元気いっぱいに頷いた。
「じゃあ、具体的にはどういうところを似せたいの?
美少女×怪談みたいな路線で物語を作りたい?巫女を主人公にしたい?それともストーリーにミニゲームを挟む形式を参考にしたいのか?」
「うーん……」
琴梨は眉を寄せ、必死に考え込む。
「それに、これは学校の課題なんだから、完成できる内容じゃないとダメだよ」
「確かに。再履修は嫌」
祈もこくりと頷いた。
「そうだよねぇ……」
琴梨は納得したように頷く。
「そういえば、さっき上野さんが──」
瞳は言葉を切り、金髪碧眼の少女を見る。どう見ても名前と外見が一致していない。
目を閉じればアクセントも分からなくなるくらい、日本語が自然だ。
「二人とも初心者って言ってたよね?」
「うん、ゲーム制作の知識は大学に入ってから勉強し始めたばかりで……」
琴梨は指をそっと合わせ、照れくさそうに答える。
「同じく」
「まあ、それはいいんだ。誰だって最初は初心者だから」
瞳は穏やかに笑った。
「とにかく、ギャルゲーなら基本はノベル形式になると思うけど……そこは問題ないよね?」
特別なギミックがない限り、その形になるのが普通だ。
「うん」
「ざっくりと分ければ、プログラム、シナリオ、絵。この三つの仕事になる」
もっと細かく分ければ背景、小物、テキスト監修などいくらでもあるが、今はざっくりでいい。
「上野さんと篠原さんは、どの部分を担当したいとかある?」
瞳自身は全部経験しているが、これはグループ作業だ。全部一人で抱え込むわけにもいかない。
「琴梨、絵が描ける」
祈の無表情な顔に、どことなく誇らしげな雰囲気が漂う。
「い、いや!趣味程度であって、描けるってほどじゃないよ!」
琴梨は大慌てで手を振る。
「でも、私は好きだよ。琴梨の絵」
祈がさらりと言う。
「祈ちゃん……!」
琴梨は目を潤ませ、祈の手をぎゅっと握った。
瞳は咳払いし、小劇場を強制終了させる。
「良かったら、篠原さんの絵、見せてもらえる?」
「えっと……ちょっと待ってね」
琴梨はスマホを取り出し、少し操作すると画面を瞳に見せた。
「梨」というアカウント名で、アニメキャラの二次創作や可愛い動物イラストがたくさん投稿されている。
全体的に、絵本やヒーリング系に近い柔らかい画風だった。
「なるほど。絵が上手ですね」
瞳は素直に感想を述べる。
「ありがとう……」
琴梨は照れ笑いを浮かべた。
「じゃあ、篠原さん、絵の担当お願いできる?もちろん、俺も手伝うよ」
「私も」
祈が右腕を曲げて筋肉アピールをするが、細い腕は筋肉はまったく付いていないように見える
「じゃあ上野さんは?」
瞳は祈の方を向く。
「祈ちゃんFPSめっちゃ強いよ!」
琴梨は銃を構えるポーズをし、さらに続ける。
「タイピングも早くて、前に賞も取ったんだよ!」
「へぇ……」
瞳は少し考え、問いかける。
「上野さん、やりたい分野はある?」
「プログラムなら、少しだけ……」
祈は親指と人差し指を近づけて、「ほんのちょっとだけ」のジェスチャーをした。
「十分。残りは俺がカバーするから」
瞳は力強く頷いた。
「それ、長谷川くんに負担がかかりすぎない?」
琴梨が不安そうに尋ねる。
「こういうのは経験者がやるもんでしょ」
瞳は軽く手を振って気にしなくていいと伝えた。
「さて、残るのは最後の問題だね」
瞳は二人を見つめ、期待を込めて問いかける。
「どんな物語を作りたい?」
琴梨と祈は見つめ合う。
「物語かぁ……」
琴梨は先生に突然当てられた生徒みたいな表情で、ほっぺたをかきながら考え込む。
「んー……んんー……」
祈は相変わらず無表情だが、わずかに眉が寄り、悩んでいるのが分かる。
瞳は二人を見守りつつ、励ますように柔らかく微笑む。
「簡単でいいよ。例えば、どういう雰囲気のゲームにしたい?
ホラー?コメディ?泣ける系?」
まだピンと来ていないようなので、もう一歩踏み込む。
「もっと単純に言えば……どんな女の子を主人公にしたい?」
「女の子……」
「『狐の巫女』の場合は妖怪がテーマだから、ヒロインみんなは動物的な特徴を持ってるんだ。
例えば主人公の白禾は狐耳があるし、雪は狽がモチーフだから足が不自由で、車椅子を使ってて……」
語っているうちに、瞳はひしひしと熱い視線を感じ始めた。
ゆっくり顔を上げると、琴梨のキラキラした瞳とばっちり目が合った。
(やばい、語りすぎた……!?)
「長谷川くん、めっちゃ詳しいじゃん。やっぱり『狐の巫女』のファンでしょ?」
琴梨はズイッと距離を詰めてくる。
瞳は反射的にのけぞり、苦笑した。
「はは……まあ、好きではあるよ」
「だよねー!」
琴梨は同志を見つけたかのようにテンションが上がる。
「話を戻すと、重要なのは──
うちのゲームの主人公はどんな女の子にするか、だよ」
瞳は強引に話を戻した。
「あ、それなら考えがあります」
「お?聞かせて」
「あのね……」
琴梨は話を始めた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もしよろしければ★★★★★とレビュー、それにブックマークもどうぞ!
励みになりますのでよろしくお願いいたします!




