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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
大学編

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【大学編】昼休みに美しい花を

昼休みの時間、瞳は校内をゆっくりと歩きながら、すれ違う学生たちを観察していた。

それは彼のちょっとした習慣であり、通りすがりの人々の仕草や表情を、創作のためのインスピレーションとして記憶しておくためだ。


芝生では美術学科の学生たちがスケッチをしており、ベンチでは数人の学生が楽しそうに談笑している。

その穏やかな昼下がりの空気の中、瞳の視線がふと食堂の前で止まった。


「……ん?」


入口付近に、ひときわ人だかりができている。

(何かイベントでもあるのか?)


好奇心に駆られて近づくと、視界に見慣れた二人の姿が飛び込んできた。

一人は、まるで近寄りがたいほどの美貌を持つ高嶺の花のような女性。

もう一人は、笑顔の似合う明るいポニーテールの少女。


深い紺色のワンピースを着た女性は、まるで良家の令嬢のような気品を漂わせており、対照的にポニーテールの少女は街角で誰もが振り返るような、自然体の輝きを放っている。

その二人が親しげに言葉を交わす光景は、まるで絵画のようだった。


周囲では、わざと通り過ぎるふりをして二人を覗き見る学生も多く、同じ道を何度も往復している者までいた。


そんな中、近くで三人の男子学生がひそひそと話しているのが耳に入る。


「おい、お前、あの二人に連絡先聞きに行けよ」

「ムリムリ。あの子は知らないけど、浅海さんの方は撃墜王で有名なんだぞ」

「撃墜王?」

「週に何人もの告白を断ってるって噂だ。サッカー部のキャプテンですら撃沈したらしい」

「マジかよ……じゃあ俺もやめとくわ」


(……浅海先輩、そんなに有名だったのか)

瞳は心の中で苦笑しながら、その様子を眺めていた。


そして、ちょうどその時。

絢音と目が合った。


彼女はぱっと顔を明るくし、手を振ろうとしたが――

瞳は慌てて手で制止のジェスチャーを送る。

ここで目立てば、確実に男子学生たちの嫉妬を買う。


絢音は一瞬きょとんとしたが、すぐに察したようで、軽く目を細めるとスマホを取り出して何かを打ち込んだ。


【一緒にどう?】


瞳は小さくため息をつきながら苦笑した。


【いや、遠慮しとくよ】


数秒後、すぐに返信が返ってくる。


【臆病者】


「どうかしたの?」

隣にいた晴香が、絢音のスマホ操作に気づいて首を傾げた。


「晴香先輩、聴いてよ。瞳さ、せっかくお茶に誘ってあげたのに、断られちゃって」

絢音は少しむっとしたように唇を尖らせ、それからハッと我に返った。

「……あっ、ごめんなさい。先輩に何も聞かず勝手に誘っちゃいました」


「私は構わないけど、長谷川くんがここに来たら――敵が増えるだけかもしれないわね」

晴香は右頬に手を当てて、いたずらっぽく微笑んだ。


「う……それは確かに」

絢音は周囲を見渡して、まだ自分たちに向けられている視線の多さに気づき、少しだけ肩をすくめた。

「じゃあ今回は許してあげます。でもね、本当は瞳に知らせたかったんですよ。せっかく準備してたのに……」


「まだ長谷川くんに話してなかったの?」

「驚かせたくて。それに、まだ細かいところを考えてる途中なんです」

絢音はそう言って、耳元の髪を指でくるくると弄びながら、瞳の背中が人混みの向こうへ消えていくのを見送った。


「そう……」

晴香は意味ありげに微笑み、少し悪戯っぽく言う。


「じゃあ、長谷川君、きっと驚くだろうね」





一方その頃。

食堂の奥、人の少ない席に腰を下ろした瞳は、注文した定食に箸をつけながら思考を巡らせていた。


――さっきの講義で浮かんだアイデアを、どう形にするか。


脱出系シューター、いわゆるローグライク系のFPS。

現在、世の中には大きく分けて二種類のスタイルが存在する。


一つは、他のプレイヤーとの駆け引きや生存競争を重視した「ハードコア型」。

価値ある物資を探しながらも、最後は脱出しなければ成果にならない。

緊張感と裏切り、リスクと報酬のバランスが魅力だ。


もう一つは、最近注目を集めている「ソロ型」。

対人要素を排し、より気軽に探索や戦闘を楽しめるタイプ。

とはいえ敵がAIでも難易度は決して低くなく、手応えは十分にある。


「ハードコア系は、すでに競合が多いし……」

瞳は小さく呟き、箸を置いた。

「それに、あの規模の開発には人も資金も足りない。七夜夢もだいぶ成長したけど、まだAAAを作れるほどじゃないな」


大学進学と同時に、瞳は七夜夢と正式な契約社員としての契約を結んでいた。

学生であることを考慮して、朝倉社長は柔軟な勤務体制を認めてくれている。

授業のない日だけ会社に顔を出せばいい、というありがたい環境だ。


「……帰ったら、企画書を書こう」

胸の奥がわずかに熱を帯びる。

久々に、創作への衝動が沸き上がっていた。


だが、その熱を現実に戻したのは、目の前の定食だった。


「――その前に、まずは飯を食べ終わらないとな」


気づけば、まだ半分以上残っている。

瞳は小さく笑い、箸を取り直した。

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