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このゲーム、君に届けたい  作者: 天月瞳
大学編

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【大学編】小さきワンちゃんとでかいネコさん

この日の授業内容は、ゲームエンジンの基本的な使い方だった。

三年間もゲームを作ってきた瞳にとっては、正直ほとんど知っていることばかりだ。


それでも、彼は真剣に耳を傾けていた。

独学で学んできた以上、どうしても見落としている部分があるかもしれない。


壇上の教授が、簡単なシューティングゲームの作り方を説明し、

「では、各自やってみましょう」と声をかけると、教室は一斉にキーボードの音に包まれた。


瞳も興味深そうに作業を始める。

キャラクターもNPCも、すべて無料素材を使って作ったので見た目は安っぽいが、

それでも、ゲームが動き始める瞬間のワクワク感はいつも変わらない。


――と、隣から小さな声が聞こえた。


「おかしいな……動かない……?」


ちらりと横を見ると、短髪の少女――篠原琴梨が、困り顔でモニターを見つめていた。


「そこ、設定ミスってるよ」

思わず瞳は声をかけてしまった。


自分の熱狂的なファンだというのに、

わざわざ自分から関わりに行くのは、少々無防備すぎる気もした。

それでも――助けられるのに放っておくのは、性分じゃなかった。


「え?あっ、ほんとだ!」

篠原が言われた通りに修正すると、

すぐにゲームが動き始めた。


「すごい!ありがとう、えっと……」

眉をひそめながら、篠原は名前を思い出そうとする。


「長谷川。長谷川瞳」

「そうだ!長谷川くん、助かったよ!」

「たいしたことじゃないさ」


そうして会話はあっさり終わった――はずだった。




「長谷川くん、先ありがとうね!」

しかし、授業が終わる瞬間、篠原は再び瞳の席に駆け寄ってきた。

興味津々で瞳の画面を覗き込み、目を輝かせる。


「わぁ、すごい!長谷川くん、このゲームエンジンは詳しいの?」

「え、まぁ……少しだけ」

曖昧に答える瞳。だが彼女の勢いは止まらない。


「ねね!長谷川くんは最近、どんなゲームやってるの?」

「俺?……最近は、ローグライク系のFPSを少し」


「えぇ、すごい!私、シューティングまったくダメなんだ~」

篠原は尊敬のまなざしで言う。


「いや、そんな上手くはないよ。ただの勉強さ」

瞳は苦笑した。

反射神経が特別いいわけでもなく、

カメラの動きが速すぎるとすぐ酔ってしまう。


それでも彼が実際にプレイを続けているのは――

今流行しているこのジャンルの“面白さ”を、肌で理解したかったからだ。


「じゃあ、篠原さんは?」

そう尋ねた瞬間、瞳は内心で頭を抱えた。

――なんで話を広げてしまうんだ、俺。


「もちろん!美少女ゲームが大好き!」

篠原は胸を張って即答した。


「美少女ゲーム……?珍しいね」

瞳は知っている。だが、あれは基本的に男性プレイヤー向けのジャンルだ。

女性がそこまでハマるのは珍しい。


「だって可愛いんだもん!

それにね、今いちばんハマってるのが『狐の巫女と天気雨』!

知ってる?長谷川くん!」


「……ああ、多少は」

「ほんとに!?」


篠原は嬉しそうに身を乗り出し、自分の“推しゲーム”について熱弁をふるう。

その横顔を見ながら、瞳は背中に冷たい汗を感じていた。


「特にね、ヒロインの白禾ちゃんの声!

あれ、あの有名な天川社の人気VTuber――鈴宮琉璃ちゃんなんだよ!」


誇らしげに話していた琴梨だったが、

「でも、琉璃ちゃん、もう卒業しちゃったんだ……」

と、途端にしょんぼりと肩を落とした。


「全部あの連中のせい……琉璃ちゃんがあんなことに合わせなければ……」

ぶつぶつと呟く彼女を前に、瞳はどう声をかけていいか分からなかった。


――そのとき。


篠原が突然、後ろから抱きしめられた。

後頭部がやわらかい感触に沈み、思わず目を瞬かせる。


金色の髪、翡翠のような瞳。

瞳と同じくらいの背丈の少女が、想像以上流暢な日本語で言った。


「ごめんなさい、琴梨がご迷惑をかけたでしょう?」

「いや、別に。ちょっと話してただけだ」

「そう……なら良かった」


少女――祈は軽く頷いた。

抱かれている篠原が、もぞもぞと抗議の声を上げる。


「祈、ひどいよ!まるで私がトラブルメーカーみたいじゃん!」

「琴梨、あなたはトラブルメーカーじゃないけど、そのテンションは大抵の人には強すぎるの」

「えぇ~そんなことないって!ねぇ、長谷川くん?」

「は、はは……」

瞳は困ったように笑うしかなかった。


「ほら、もう行くわよ」

祈は軽く会釈して、篠原を抱いたまま教室を出て行った。

「ああ~自分で歩けるから、あの!長谷川くん、またね~」



「……なんというか、個性の強い二人だな」

思わずため息を漏らした瞳は、ふとモニターに目を戻した。

そこには先ほどまで作っていた簡単なシューティングゲームが映し出されている。


指先が、いつの間にか机の端をとん、とん、と叩いていた。


「――FPSか。やっぱり、面白そうだな……」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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