メージー砦のポンコツ鬼神
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宜しくお願いします。。
ああ、昨日は一日えらい目にあったし、自分よく頑張ったと思う。
深夜から夕方にかけては戦争とカジさん関連でずっと飛び回って、砦に帰って来たらきたで、イユーさんの修道院宣言に、辺境伯の突然のプロポーズ。
思い返しても目が回る一日だった。
しかも、あのプロポーズの後が大変だったし。
いきなり辺境伯が吃りながらイユーさんにプロポーズしたと思ったら、言った本人がそれにビックリしちゃって、それで余計混乱したのか、ベッドに腰掛けてたイユーさんを掛け布団ごとお姫様抱っこしたと思ったら、それにビックリして叫んだイユーさんの声で辺境伯が正気を取り戻し、慌ててイユーさんをベッドに下ろすと、走って逃げてしまうと言う奇行を繰り出した。
そこにいた全員が辺境伯の行動についていけず、ただただその数分に満たない一連の行動を口を開けて見てることしかできなかった。
一番初めに平静を取り戻したのは、辺境伯の横にいた眼鏡をかけた男性で、なんとこの方、この砦の副司令官だった。
「普段は軍事にしろ領地経営にしろ優秀であるのですが、イユーチェ王女の事となると何とも無能ですね」と冷めた目で、辺境伯が飛び出して行った方角を見ながら言い放った。
それから副司令官は、上司の奇行をイユーさんに謝罪してまた日を改めると言うと部屋を後にした。
この人と辺境伯の言動から考えても、前々からイユーさんの事を知ってたんだと思う。
当のイユーさんは、抱き上げられたのが怖かったのか、顔を青くしたまま震えてたから、肩を摩ってあげると少し震えは落ち着いた。
ただ、つい先日までモジンバル皇帝に乱暴されてたのを思えば、あの辺境伯の行動はイユーさんに取って恐怖でしかない。
それに、現在この砦内にいる女性は、私とオリちゃんだけ。
救護室と言えど、男性しかいない環境にイユーさんも不安だろうと思って、私たちの部屋で眠ることを提案し、それをイユーさんは嬉しそうに快諾してくれた。
そして今、朝を迎えたけど、全然私の疲れは癒えていない。
部屋に戻って二つあるベッドの一つにイユーさんを寝かせ、もう一つのベッドでオリちゃんと眠ったけど、案の定、左腕をもぎ取られるかと言うほどキツくオリちゃんが抱きついてくるもんだから、痛みで気絶してまた痛みで起きてを繰り返して安眠どころではなかった。
何度自分に回復魔法をかけたことか。
可愛いから良いんだけどさ、良いんだけど……しんどい。
「オリちゃん、朝だよー」
「う、うーん……」
「お、オリちゃん、腕だけ、離そうか」
「うーん……」
外も明るくなっているので、オリちゃんに声を掛けるもまだ起きたくないような声が返ってきたが、腕の力は緩めてくれてそこから逃れることはできた。
ああ、痛かった。
もう一度自分に回復魔法をかけて摩っていると。
「スズキ様、おはようございます」
隣のベッドからイユーさんの挨拶が聞こえた。
昨日の夜の恐怖が嘘のように、イユーさんの顔色はとても良い。
「おはようございます……顔色は良いですね。ちゃんと眠れました?」
「お陰様で安心して眠りにつけました。受け入れて下さりありがとうございます」
「流石にあの後でイユーさんを一人にはねぇ……ちゃんと眠れて良かったです」
「スズキ様はお顔の色が優れませんが、眠れませんでしたでしょうか?」
「ハハハ、ちょっと苦痛に耐えていたもので」
「?」
「あ、いやこっちの話で、大丈夫です」
「? あまりご無理はなさらないで下さいませ」
少し不思議そうに私を心配してくれるイユーさんに大丈夫と言って、朝の支度を始める。
イユーさんにもクリーンの魔法をかけると、昨日に引き続き体がとてもスッキリすると喜んでくれた。
その間にオリちゃんも起きてきて、三人とも支度を済ませる。
イユーさんの持ち物はないので、基本的に私が街で買った物を着てもらっているけど、体格がそこまで違わなくてよかった。
あまりに小さかったり、ボンキュッボンだと合わない可能性もあったが、幸い許容範囲。
イユーさんの方が若干私より身長が高いくらいだ。
そして支度が住んだ私たちは、まだ砦内を歩き回れるほどの体力がイユーさんにはないので、この部屋で朝食を取る。
「何から何までご迷惑をお掛け致します」
朝食後、ベッドに上半身起こした状態のイユーさんが改めて謝罪をしてくる。
「気にしないで、と言っても気にされるでしょうが、何かの縁と思って今は甘えてください。それより、昨日の件、どうしましょうか……」
「シュトライダー辺境伯様の事でらっしゃいますね……もちろんお名前は存じておりましたが、面識は無いものと記憶しております。もちろん求婚の件はお断り致しますわ。修道院へ入ることに変わりはありません」
「修道院って、大変なのでは……それに結婚してる人って入れないんじゃ?」
「ねぇ、ねぇ、シュードーインってなにー?」
「修道院とは、そうですね、簡単に申し上げますと、神に身を捧げた者が集まる場でしょうか。世俗から離れ、清貧・貞潔を守り、神に祈りを捧げながら共同で生活をする施設です。国や地域により異なることもありますが、概ねは」
「セーヒン? テーケツ? セゾク?」
私とイユーさんが話していると、修道院が何なのか疑問に思ったオリちゃんから質問され、優しくイユーさんが答えてくれたが、言葉が難しかったのか、オリちゃんはちょっと混乱していた。
それでも優しく、一つ一つイユーさんが説明してくれて、ようやくどう言った施設なのか理解したオリちゃんは。
「うーん、じゃあ、お姉さんは、そこに入ったら外に出られなくなるし、知ってる人に会えなくなっちゃうって事?」
「全くではないでしょうが、そうですね、そうなるでしょう」
「いいの?」
「……はい。本来であれば生きる資格さえ……」
オリちゃんの一言に「はい」とは言いながらもその後の言葉が詰まるイユーさん。
そして、その瞳からハラハラと涙がこぼれてくる。
あまりにもイユーさんの背負うものが重過ぎて、ここで私が「そんな事ないです」とか言っても何の慰めにもならない事は明白。
オリちゃんも頭がいいから、イユーさんの言葉を聞いてそれ以上は何も言わなかった。
イユーさんの意思が固い事は分かったので、近くの修道院へ送り届ける事は請け負った。
でも、もし気が変わったらいつでも言ってくれと最後に伝える。
それを聞いて泣き止んだのにまた泣きそうな顔で笑うイユーさんを見て、私が泣いてしまい、イユーさんを慌てさせる事になったのは申し訳なかった。
♢♢♢
「治癒師のスズキです」
砦内の私が立ち入り許可のなかった司令官がいる区画に一人で足を運び、警備を担当している人に「王女の件できた」と辺境伯に伝えてもらうようにお願いしたら、アッサリ許可が降り、しかも副司令官が案内に出向いてくれた。
そして今、総司令官室へ来たところだ。
自分で治癒師と名乗るのに慣れなくて少し気恥ずかしかったのはここに置いておく。
副司令官に促され入室した部屋では、大柄の男が目の前で九十度の角度に腰を曲げて頭を下げた状態で待っていた。
「ちょっ、やめて下さい! 謝るのは私にじゃないですし!!」
「いや、其方にも迷惑を掛けた。誠に申し訳ない事をした」
「わ、わかりましたから! 取り敢えず頭をあげてください!」
いきなり、偉い人に頭下げられて慌てる私。
なんとか頭を上げてもらえて見えた顔は、眉は下がり反省モードであることが分かるほどの表情に思わず笑いそうになってしまった。
いかんいかん。
「そこへ掛けてくれ」
「失礼します」
総司令官室に設けられた対面のソファにお互い座ると、さっと副司令官がお茶を出してくれた。
偉い人に出してもらって恐縮しながらも、さっきのやり取りで既に疲れた私は、出されたお茶で喉を潤す。
「改めて、昨夜は醜態を晒し申し訳なかった……イユーチェ王女は、その……体調は如何だろうか?」
「昨日は、びっくりしました。イユーさんも正直怖がってました。それと体力もまだ回復してないので、今日は私一人で伺いました」
「左様か……しかしそれは尤もな話だな」
私の言葉を聞いて、よりシューンと落ち込んでしまった辺境伯。
でも、私の無礼な話し方にも怒る事なく非を認めてくれる、なんとも懐の深い男だと上から目線だけどそう思った。
「でも、辺境伯様はイユーさんの事を知ってたんですか?」
「ああ……」
「知ってたも何も、五年前から恋焦がれていたではありませんか。婚約の打診もしていましたし」
「おい! 言うな!」
「昨夜の行動から、今更ではありませんか」
え、失礼だがこのイカツイ男性が五年前から恋焦がれていたと言われてもピンと来ないんだけど。
でも、副司令官にそう言われた辺境伯の顔は真っ赤だ。
おい、ウブか?と突っ込みたくなるくらい赤い。
「あの……失礼ですが、辺境伯様は結婚されてないんですか?」
「……していない。機を逃した」
「何格好をつけてるんですか。以前来た婚姻の申し込みも、レオラ様を前にした令嬢達が逃げ出してしまい成立しなかったではないですか。このような見目ですし、二つ名が二つ名ですからね」
「二つ名?」
「メージーの鬼神です。戦になると人が変わりますからね」
「言わんでくれ」
鬼神って……あ、確かにレベルが高い。
勝手に鑑定してみたら、ヒースさんとまでは言わないがレベルが96となっている。
スキルなんかも戦闘に特化したものが多いし。
中でも「狂化」ってのが鬼神と言われる所以なんじゃないかと思うスキルを持ってらっしゃる。
詳しく鑑定してみたら、一定時間身体能力を二倍にする代わりに、理性を大半失うって書いてある。
うん、鬼神はこのせいだな。
理性がないって味方も危ないじゃんね。
まあ、それは置いておいても、確かに幾つもある顔の古傷とかが武人ですって醸し出してるし、大きく鍛えられた身体つきと雰囲気で損をしているのかもしれないとは思った。
戦いと無縁なお嬢様からしたら怖いのかもね。
そんなこんなで、婚姻が成立しないまま迎えた五年前のメズラム国王主催の祝賀会、当時成人したばかりのイユーさんも招かれ、そこに参加していた辺境伯がイユーさんに一目惚れしたんだそうだ。
十五歳とは思えない凛々しい佇まいと儚さを兼ね備えたその姿に、歳の差も忘れて釘付けに。
その衝撃でしばらく動けないでいたら、話す機会も逃し、イユーさんは国に帰ってしまったんだとか。
その時から、事イユーさんの話となるとポンコツになるんだと副司令官が嘆いていた。
しかも、カジさんと駆け落ちしたと聞いた時は、一週間使い物にならなかったそうだ。
わからんでもないが、何してんだい総司令官。
そして、そんな失意の中開戦して、ようやく落ち着いたと思ったら、自分の砦内の救護室にイユーさんが居るもんだから、パニックに陥ったと言う事らしい。
「……今更申し上げにくいんですが……」
「なんだ?」
「イユーさんは辺境伯様との婚姻を望んでいません。しかも体調が戻ったら修道院へ入るって意志は固いみたいで」
「修道……院?」
「つくづく色恋に恵まれない星の元に生まれてしまったようですね」
めちゃくちゃ抉る事を言う副司令官。
辺境伯は脳が理解するのを拒否していそうなほど、口を開けたまま固まってしまった。
そのまま現実に戻ってこない辺境伯を置いて、私と副司令官は報酬の話をし始めた。
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