衝撃、四十代だと思ってた
大変遅くなりました。。
そして、また詰め込み過ぎた感と早足感が否めない。
「あのさ、厚かましいんだけど……まだお米って余ってる?」
一旦ヒースさんとイユーさんと離れ、メージー砦に向かっている私、オリちゃん、カジさん。
その飛行中、カジさんが恐る恐る聞いてきた。
「まだありますから、お分けしますよ。どの位いります?」
「え、そんなにあるの?」
「はい、ブランドを気にしないなら」
私が【買い付け】アプリで買えるのは、私が日本で買ったことのある物のみ。
なので、特定のお米のブランドしか買えない。
だからって不満など一切無い!
どんなブランドだって今まで食べてきたお米で不味かったものは無いんだから。
ありがとう、国産米。
「そりゃ米が売ってたら大量買いするか。でもさっき食べたのジャポニカ米っぽかったけど、どこの国で買ったの? 俺も落ち着いたら行くかな」
「あっ……えっと……」
私もまだこの世界で日本米と同じような味のお米は見つけていない。
そもそも【買い付け】アプリで買えてしまうからと、もう探してすらいなかったし。
オリちゃんがいたロッテントークでタイ米っぽいのはあったけど、日本米には遠い。
きっと、この戦争の件が収束すれば会う事はしばらくないだろうから嘘をついても良いけど、私がもしカジさんなら、嘘をつかれお米を売ってもいない国に行ってそれを知ったら、恨むと思う。
それ程までにお米に対する思いはカジさんも強いんじゃないかなと思うんだよね、食べて泣く程だし。
だから、【買い付け】アプリの事を言うか迷う。
カジさんからしたら喉から手が出る程欲しいアプリだろうし。
「内緒にして欲しいんですけど、実は日本米を購入したんです」
「はぁ!? いやいやそもそも世界が違うんだから買えないだろ。え、もしかして、その『販売部』って職業が関係してるとか?」
鋭いなぁ……
まあ、もう良いか。
私が買える物は限られているし。
「……そうですね、この職業のおかげで手に入ります」
「嘘だろ……何だその職業……まさか他の物も買えるとか言わないよな?」
「……買えちゃうんですよ……全部じゃ無いけど。絶対に言わないで下さい。言ったらお米は渡しません」
「い、言わない! 勿論言わない!! でも、それ制限は? 幾つでも? どんな物が買えるの? スマホも? 車は?__」
「ちょ、ちょっと質問が多いです!!」
矢継ぎ早に質問を繰り出すカジさん。
気持ちはわからんでもないけど、一旦落ち着いて欲しい。
まあ、もう二度と日本の物が手に入らないと思ってたのに、目の前にそれを入手出来る機会が有るならテンションも上がるか。
「悪い……つい」
「購入制限は無いんですけど、注文数の縛りや、私が過去取引や購入した事があるものしか買えないですけどね」
「いや、十分だろ……購入制限は無いのか……」
この後もカジさんからの追求は止まず、【買い付け】アプリの実際の表示や、保存場所、アプリ内通貨が円である事など説めさせられた。
隣で聞いていたオリちゃんは何のこっちゃ?って顔をしてて、興味がないのかグンちゃんと会話をしたり、外を眺めていた。
「俺じゃ使えないのか……残念過ぎる。はあ……」
「ちょっと自分でもズルいなとは思ってたんで、カジさんには言ったんですからね? 本当に他の人には言わないで下さいよ? 場合によっちゃ、アガツマ君とテラツカさんにも話そうとは思いますけど」
「……止めておいた方が良いな。特にテラツカさんには」
「え? 何で?」
「あの人はきっと相当強かだ。人が良さそうな顔してても裏があるな」
「えぇ……そうでしたっけ? あの時皆さんとすぐ離されちゃったし。でも、カジさんももっと頭良い人だと思ってたからなぁ、わからないもんだなぁ」
「おい! どう言う事だよ!?」
「だって、ねぇ? 初めなんでも知ってます感出してましたよね? それにスーツだったからか賢そうに見えたし、まだ敬語だったし」
「あの時は興奮してたんだ……良い歳して現実が見えてなかったんだよ」
「そう言えばカジさんっていくつなんですか?」
「俺か? 三十二だ」
「はっ?」
「……よく言われるけど老け顔なんだよ! これでも三十二だ!!」
「……」
衝撃。
ずっと四十代だと思ってた。
どこがと言われると難しいけど、若々しさが無いと言うか、スーツの着こなしがオジサンっぽかったと言うか……全体的な雰囲気が三十代前半だとは思えなかったのよ。
四十代と決めつけて申し訳ない。
「トコ様、もうそろそろ着くみたいだよー」
カジさんの年齢にフリーズしてしまった私を、オリちゃんが現実に引き戻す。
「はっ、すみません! 四十代だと思ってました……ごめんなさい」
「日本では良く言われてたけど、こっちでは年相応に見られるからもう良いよ」
「……じゃ、そろそろ着くみたいなんで、お米とか諸々は全部終わってからで」
「……なんか釈然としないけど、そうだな」
年齢の話は有耶無耶に。
後で沢山買えって言われそうだなぁ。
「降りるよー!」
オリちゃんがそう言って、メージー砦から少し離れたところでグンちゃんから降ろしてもらう。
そしてすぐ、オリちゃんはグンちゃんに乗りまた飛び立っていった。
カジさんは砦内には入れないだろうからここで待っていてもらう。
私だけで砦に向かい、ギルド証を提示し裏口から中へ入る。
取り敢えず食堂と充てがわれた部屋に行き、ナージンさんがいないか確認するが見当たらない。
近くにいたメズラム兵士にナージンさんの特徴を伝え、どこかで見なかったかと聞くと、知っているらしく案内をしてくれる事になった。
今更だが、こんな誰とも知らない女が砦内をウロチョロしてても誰も咎めないのは謎だ。
しかも親切に案内まで。
「あの……今更ですけど、私みたいな軍服も何も着てない一般人がウロチョロして平気なんですか?」
「ああ、それは問題ない。貴方は我ら兵士を救ってくれた治癒師だろう? 特徴を聞いていたからすぐ分かったよ」
「あぁ、そうか、伝えてくれてたんですね」
「許可のいる部屋以外は出入りして問題ないそうだ」
「許可のいる部屋……」
「主に武器庫や司令官室だな」
「あぁ、確かに」
「さあ、ここにいるはずだ」
そう言って案内してくれたのは厩舎だ。
中にいるはずだからと言って案内してくれた兵士は持ち場に戻って行った。
厩舎の中に入っていくと、すぐナージンさんを見つける事ができた。
別の兵士と話をしているようだ。
「ナージンさん!」
「ああ、ユエさんおかえりなさい」
「お話中ごめんさない、戻りました」
話をしている最中だけど、声を掛けさせてもらった。
「今馬を借りる手続きをしていた所です。厩舎の外で少し待っていて下さい」
そう言われたので、話していた兵士に会釈して私は外へ。
暫くしてナージンさんが一頭、兵士が一頭馬を引き連れてきた。
「お待たせしました。ユエさんはこちらの馬に乗ってください。では、借りていきますね」
「えっ?」
「お気を付けて」
いやいやなんの説明もなく馬に乗れって?
って、私クリフ君以外の馬に乗った事あったっけ?
「さあ、ユエさん早く乗ってください。話は先でしましょう」
「……乗れるかなぁ」
はい、乗れました。
クリフ君のおかげで“予定”スキルを使わずともスムーズに乗ることが出来た。
もちろん借りた馬の頭が良く、言う事を聞いてくれたって事が一番大きいだろうけど。
久々に馬の背に乗り、クリフ君が恋しくなったのは言うまでも無いか。
そして、ナージンさんに促されるままカジさんのいる場所に戻ってきた。
徒歩だと十分くらいだったけど、馬だと一瞬だね。
「はあ……疲れた。ちょっとしか乗ってないのに」
「ユエさん馬は久方振りでしたか」
「クリフ君に乗って以来です」
「ハハハ、まずは降りましょう」
そう言ってナージンさんは馬から降り、馬の縄を木に括り付けた。
私もそれに倣い木に縄を括り付けると、ストレージから桶を二つだし、水を注ぎ馬に差し出す。
二頭は休憩時間だ。
「で、ユエさん。ここに賢者殿がいると言う事はイユーチェ王女の奪還も成功し、二人の隷属状態も解除済みですね? 誓約書はどうでした?」
「「……」」
ナージンさんの状況把握具合に私とカジさんは唖然として言葉を失っている。
「どうかしましたか?」
「え、ナージンさん怖い……」
「怖いとは失礼な。今更何を」
「……イユーさんが王女って知ってたんですか?」
「噂話程度ではありましたが、賢者殿の事は聞いておりましたからな」
(え、絶対噂話程度じゃないでしょ)
「え? 何と仰いました?」
絶対聞こえてたな今のも。
「いえ……ナージンさんが思ってる通りですよ。はい、誓約書」
「な! 大変重要な書類を放るとは!」
「中身確認して下さい」
「むむ……確認致しました、問題ないですね」
投げやりに誓約書を渡したもんだからちょっと憤慨したナージンさんだが、すぐ書類に目を通し不備がないか確認してくれた。
「な、なあスズキさん。この間から気になってたけど、スズキさんの周りの人達、結構ヤバイね」
あ、そっか。
カジさんも鑑定があるからナージンさんの正体がわかるのか。
「賢者殿には正体を知られてしまいましたか。他言無用でお願いしますな」
「……ああ、はい」
口元は笑っているけど、何だか人を射殺しそうな程鋭い目つきで、カジさんにそう言ったナージンさん。
カジさんはその圧にハイとしか言えない。
やはり恐ろしいねナージンさん。
「では、この後ここに王女達が戻ってくると言う事ですね。ユエさん達はこの後モジンバルの敵陣へ敗戦の一報を伝えに? では、私はイユーチェ王女を砦へお連れしましょう」
「いや、まだ何にも言ってないのに何ですかその先読み……」
「……やっぱりヤバイなこの人」
そう、私は何も言ってない。
誓約書を渡しただけだ。
「この位造作もない。いつも様々なケースを想定しておりますからな。これはお返しします、この後必要でしょう」
良い笑顔で私に誓約書を戻すナージンさん。
様々なケースってどんな?
見当もつかないわ私の脳みそでは。
そんな話をしていたら、オリちゃん達が戻ってきた。
ナージンさんの達人っぷりはどうにもならないから、考えるのはやめた。
仕事の出来る人の頭の中は私にはわからない。
この後は、二頭の内一頭にナージンさんとイユーさんが乗り砦へ。
メージー砦の司令官にも改めて説明をしておいてくれるそうだ。
もう一頭に私とカジさんが乗り、敵本陣へ向かう。
オリちゃんとヒースさんはグンちゃんに乗り私の後についてくる。
“予定”スキルに敵本陣への私たちの誘導を入力し、出発した。
♢♢♢
モジンバル敵本陣に到着し、木の影に隠れている私達の目の前には、夥しい数のモジンバル兵士がいる。
遠目に私が張ったと思われる結界が見えるが、今は乳白色をしていて中の様子は伺えない。
「こいつらに俺は……」
「カジさん、落ち着いて」
「わかってる、わかってるけど……」
カジさんが、拳を握りしめて恨めしそうにそんな言葉を吐いた。
何をされたのかは知らないけど、隷属紋を刻まれていた時に嫌な思いをさせられていたのかもしれない。
私だって腕輪を付けられていた時の怒りで、数人殴って国を飛び出してきた身だから言える立場では無いんだが、まだ早いとカジさんを止める。
「じゃ、準備が出来たので行きますか」
「ああ」
カジさんを先頭に縄で繋がれた私たち三人がその後を続く。
どう見てもカジさんが捕虜を捕まえて帰還しましたぜの構図。
「うん? 誰だ?」
「ローブはうちの国のか」
「おい、止まれ!」
あっという間にモジンバル兵に取り囲まれる。
いわゆる一般兵にだけど、これだけ集まると逃げるのは難しいなと思わされる程の数だ。
「私は賢者ヒデオだ! 道中使えそうな敵を捕まえた。本陣に案内せよ!」
「け、賢者だと!?」
「おい、他の兵はどうした」
「すぐ来る。私は伝令の役も担っているのだ、早く案内せよ」
「案内しろったって、あれじゃあなぁ」
そう言って乳白色の結界が張られた方を指す兵士。
「何だ、あれは……」
「何だも何もねぇよ! あれのせいでここ何日も本陣と連絡がつかねぇなんだ! 賢者なら何とかできるだろう!」
そうせっついて結界の近くまで連れて来られた私達。
不思議そうな顔をしてそれを触るカジさん。
手が通り抜けてしまった。
「おお! 流石賢者! 中に入れんのか!?」
その光景を見た兵士たちが思わず歓喜する。
そんな歓声を背中に受け何とも言えない顔を私に向けるカジさん。
はいはい、今解除しますね。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
ナージンさんのくだりを省こうか迷い、省けるほどの文才も無く詰め込んだら長くなりました。。




