自己陶酔気味のカジさん
感動の再会をしているカジさんを他所に、私たち三人は朝食を食べ終え、食後のまったりタイムを満喫していた。
昨日の睡眠時間が少なかったから、お腹いっぱいで睡魔が襲ってきてるけど、流石にこの状態で寝るわけにはいかず、耐えている私。
そんな私を他所にオリちゃんはもう夢の中。
羨ましい。
「ス、スズキさん……」
気まずそうにしながら私に話しかけてきたカジさん。
てっきり三十分くらいは泣き続けるかなと思ってたけど、案外早く泣き止みイユーさんの体を気遣うくらいにまで持ち直したようだ。
そうなると、自分の存在を気にもとめない私達が気になったんだろう。
「カジさんも朝食食べます?」
「あ、ああ、頂き……そうじゃない! なんでそんなにのんびり出来るんだ!?」
「今私達の周りには、阻害認識付きの結界を張ってますから大丈夫ですよ?」
「阻害認識? そんな魔道具があるのか? すごいな……」
「ん? そんな魔道具は知らないですね」
「スズキさん……話が噛み合わないんだけど」
「取り敢えずお腹空いてますよね? イユーさんも食べます?」
「……」
「スズキ様、お気遣い頂きありがとうございます。お言葉に甘えて頂いてもよろしいでしょうか」
「じゃ準備しますね」
カジさんからなんとも疑わしい目線を受けるけど、スキルの事をあまり詳しく説明はしたくないからはぐらかす。
と言っても、以前カジさんに会った時、加護やスキルの事がバレてる節があった。
恐らく今も私の鑑定をしてるんじゃないかと思う。
召喚者全員には鑑定スキルが備わってるわけだし。
現に驚きと険しい表情を交互に繰り返しながら私を見ている。
そんなカジさんは無視して、私は二人の朝食の準備を始める。
イユーさんへは固形物でなく、またスープと今回はプラス柔らかいパン。
カジさんには私達と同じものを出す。
「スズキさん……さっきも思ったけど、これ米、だよね? 味噌汁だよね?」
「はい、そうですよ?」
「マジか……マジかー!! ずっと、ずっと食いたかったんだよ! どっかにあると信じてたけど……ウグッ! グスッ……ウマイ……ズズッ」
「カジさん、そんなに泣かなくても……それに、ちゃんといただきますしてから食べて下さいよ」
「悪い……嬉しくてつい。いただきます」
私はあんたのオカンか!と突っ込みたくなったけど、お米に出会えた喜びはわからんでもないから多めに見て差し上げます。
「ご馳走様でした。スズキさん、ジェス隊長、色々あって言うのがすっかり遅くなったけど、助けてくれて朝食までご馳走してくれてありがとう。本当に、ありがとう」
泣きながらウマイ、ウマイと朝食を食べ終えたカジさんは、気持ちがだいぶ落ち着いたのか深々と頭を下げて感謝してくれた。
「私からも御礼申し上げます」
ベッドに上半身だけ起こした状態で、綺麗に頭を下げるイユーさん。
流石王女様。
服は私のお古だし、栄養が行き届いていないような体つきなのに、オーラで格の違いがありありとわかる。
ちょっと高貴なオーラにタジタジな私だけど、お気になさらずとだけは言えた。
「カジさんも落ち着いたみたいですし、今後の話し合いをしますか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 聞きたい事が山ほどあるんだよ!」
「ん? 何かあります?」
「スズキさん、色々可笑しいから!」
「カジ殿、気持ちはわかるが、今はこの戦争の事を優先するべきだ」
「隊長……わかった」
「もう隊長ではないがな」
ヒースさんの話はすんなり受け入れるカジさんに納得いかん。
人徳の問題か!?
そして色々可笑しいとはなんか心外だな。
そんな話は置いておき、カジさんとイユーさんに、現在紛争最前線のモジンバル本陣に結界を張ってあり、兵士が出入り出来ない状態にしている事、モジンバル皇帝に敗戦を宣誓させ各国へ慰謝料支払いを約束させた事、カジさんとイユーさんを隷属から解放したことを簡潔に伝えた。
「いや、全部サラッと言い過ぎだから! やっぱりスズキさん可笑しいって!! 隷属の腕輪の解除は良いとしても、隷属紋の解除とかムリだから! しかも何だよ本陣への結界って! 皇帝に敗戦認めさせたって何!? それにスズキさん加護増えてんじゃん! やっぱり可笑しい! チート過ぎるよそのスキルと加護!! 全然裏じゃねぇ! 主人公過ぎるから!!」
一気に言い過ぎたか。
カジさんが余計混乱してしまった。
「よく分からないけど、私が主人公なわけないじゃ無いですか。ヒースさんやオリちゃんなら分かるけど」
「何故私が入っている?」
「え、だってそんなイケメンで、強くて性格良くて正義感があったら主人公じゃね? って思うのが普通でしょう」
「……理解し難い事を言わないで貰えるか」
ヒースさんが納得いってないような事を言ってるけど、波瀾万丈な人生を送っている貴方こそ主人公でしょ。
確かに私もスキルや頂いている加護は強いけど、滲み出るモブ感は消せない。
まあ、私の人生私が主人公なのは当たり前だけど、他の人から見たらねぇ?
モブよモブ。
「その「私が?」みたいなのも納得いかない! そう言う事言うやつが大概そうなんだよ!」
「えぇ……言われても、今のカジさんの境遇の方が主人公向きじゃ無い? ハーレムからの強制隷属とか」
「……抉らないでくれ……」
「あ、ごめんなさい。まあ、主人公云々はいいですから、カジさんこれからどうします? 私は復讐とかして欲しく無いですけど、気持ちは分かるから強制は出来ないし」
「色々納得いかないが……あいつらには報いを受けさせたい」
「あいつら?」
「元嫁達と皇帝だ」
「あぁ……それはそうですよね」
「モジンバル皇帝は恐らく長くは無いだろう。これからモジンバル帝国は荒れるだろうからな」
「そうだな、だがイユーへの仕打ちは見過ごせないんだ!」
「ヒデオ様……」
「イユー!!」
あ、なんか二人が抱き合ってメロドラマ風なものが始まっちゃった。
確かにイユーさんへのあの皇帝の行いは許せない。
夫として許せない気持ちもわかる。
だけど、目の前でイチャイチャし出すのはどうかと思う。
ここには子供もいるんだから。
今は寝てるけど。
これまでの二人のやり取りで感じた事は、カジさんがイユーさんに惚れ込んでいる事。
意外だっけど、それと同じくらいイユーさんもカジさんの事を慕っている事だ。
フェーリアに行こうとしていた人がどうやって王女様と知り合って恋に落ち、結婚まですることが出来るんだろうか?
しかも既にその時には三人も嫁がいて。
普通王女様を娶るとなるとそれなりに立場のある人じゃなきゃダメとか、第一夫人にするとか条件がありそうだけど、どうなんだろ?
まさか、駆け落ち同然とか?
わからん、けど、事実としてイユーさんはカジさんに惚れて結婚したんだろう事だけはわかる。
カジさんがこの世界に来て経験してきた事は殆ど知らないけど、それこそカジさんの言う『主人公』何だろうなと思ったわ。
「カジ殿、ではモジンバル帝国へ行くのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「裏切った者達の居場所の見当はついているのか? イユーチェ王女はどうする?」
あら、ヒースさん、イユーさんが姫と気付いていたのね。
流石、元近衛隊長。
しかも今日のヒースさんはグイグイだね。
今日の様な流れなら、いつもは少し離れた位置で聴きに徹することが多いのに。
「……見当はついていない。だからこの状態のイユーを連れ回す事もしたくないんだ。イユーにはメズラム国で待っていて欲しい」
「ヒデオ様とまた離れる事になりますのね……承知致しました」
「イユー、そんな顔をしないでくれ。俺だって離れたくは無いんだ。だけど、あいつらの……あの最後の顔が……どうしても許せないんだ」
あぁ、また何かカジさんが浸ってる感を出すんだから。
もちろん彼は本気で思っているんだろうけど、何故か自己陶酔している様に見えて私は冷め気味。
「あの、ちょっと良いですか? イユーさん王女様何ですよね? 失礼ですけど、身の回りの事って問題なくこなせるんですか? ムガド国に戻って待ってては?」
「確かにイユー一人では日々の生活は難しいかもしれない。だが、良い宿ならメイドがつく部屋もある。そこで暫く体を休めてくれ。訳あってムガド国へは戻れないんだ」
「へぇ、良い宿だとメイドさんを付ける事も出来るんですね。でも、外出時の護衛とかは? 流石にずーっと部屋に篭るなんて現実的じゃ無いですよ」
「それは……ほら、冒険者ギルドで護衛を」
ああ!
もう!!
イユーさんのあの切なげな顔を見てもまだ言うか!
「カジさん! あなたイユーさんの旦那何でしょ!? 復讐よりもまずはイユーさんの心と体のケアを優先させなさいよ!」
「スズキ様……」
「だけど……」
「イユーさんは遠慮して言わないかもしれないけど、傍にいて欲しいに決まってるじゃん! 心細いに決まってるじゃん! どぉなのイユーさん!」
「それは……勿論傍にと願っておりますが、私の我儘でヒデオ様を縛る事もしたくはありません……ですが……」
「イユー……」
イユーさんの本音はやはり傍にいて欲しいんだろう。
でもカジさんの事も大切だから思う様にして欲しいと言う気持ちもあるんだろう。
話しながらポロポロと涙を流すイユーさんがとても儚く見えて、カジさんが手を握る。
「カジさんだって体ボロボロなんでしょ? なら今は少し二人で休めば良いじゃ無いですか。その間に元嫁達は遠くへ行くかもしれないけどカジさんなら見つけられるんじゃ無いですか?」
「スズキさん、他人事だと思って……」
「だって他人事ですもん。前にカジさん助けてくれなかったのに、今回私は助けましたよ?」
「……悪い。本当にありがとう」
女々しいと言われたって、私が隷属の腕輪を付けられていた時、知ってて助けてくれなかったのは根に持ってるからね。
だからって今回助けないって選択肢は無かったけど、嫌味を言うぐらい良いでしょ。
結局、今は体を休める事を優先し、二人共メズラム国王都へ向かう事になった。
でも、その前にやるべき事がある。
そう、まだ敵の本陣の結界解除をしていない。
なので、未だに彼らは皇帝が敗戦を認めた事も、カジさんが隷属から解放されている事も知らない。
これだけムガド国とメズラム国の平和を乱したモジンバル兵達にも私は憤りがある。
だからって殺したりはしないけど、少し懲らしめるくらいはしても良いだろう。
私とカジさんが先にメージー砦へ。
その後ヒースさんとイユーさんをグンちゃんが送り届けてくれる。
オリちゃんはグンちゃんの主人なので両方に付き添う。
「さあ、モジンバル兵共よ、待っていろ!」ってカジさんが息巻いてるけど、シカトする。
どんだけ酔ってんのよ、飲んで無いのに。
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