砦へ向かう
「オホンッ。少し熱くなってしまいましたな。しかしこれがエリクサー。しかも蘇生まで出来る……」
「死亡後、十五分以内に摂取しないとダメですけどね」
と、説教から解放された私は、また何も考えず発言してしまったら、ナージンさんに鋭い目で睨まれた。
「その十五分ですら凄まじい効能なのです! そもそも蘇生の出来る薬など聞いた事がない!」
「ヒィッ、申し訳ない。って、何で謝ってるんだ?」
「トコ様のはスゴいよね! アタシが作ると普通のになっちゃうもん」
「そうでした、ユエさん。オリさんについても詳しくお聞かせ頂きますぞ!」
その後、ロッテントークへ渡ってからの事、ハン族やオリちゃんについてなどを話していった。
そして、私が世界樹のセージュさんの事を広めたい事も。
「もはやどこから聞いたらいいものやら……」
「あ、セージュさんの写真はこれです。とっっっても綺麗ですよね! ちなみにこの写真を撮ったのはヒースさんです!」
「っ!? シャ、シン? ヒース殿?」
「ああ、私もこの魔道具には驚かされてばかりだ__」
セージュさんの写真をナージンさんに見せると、目を大きく見開き、その後すがるような目でヒースさんに声をかけた。
でもね、ナージンさん。
ヒースさんに写真の事を聞いたらダメなんですよ。
カメラ小僧はその後、一時間カメラについて喋り続けた。
きっとナージンさんが聞きたかったことではない話を延々と。
私とオリちゃんはその間お菓子を食べながら、言語習得用の絵本を読んでいた。
「……ナージンさん?」
一通り話し終えて満足そうなヒースさんは置いておいて、途中から抜け殻になっていたナージンさんに声を掛ける。
「ユエさん……私はもう疲れました。聞きたい事は全て後日に致します。まずは、これからの事を話しましょう」
そう言ったナージンさんの顔には、疲れが色濃く出ている。
重ね重ね申し訳ない。
でも、小言を言いながらもエリクサーは仕舞うのね。
自分のアイテムボックスに。
しかも写真まで。
しかし、エリクサーを仕舞う時、心なしか震えていた気がする。
そんなナージンさんから、現在のモジンバル帝国の動向を聞いた。
モジンバル帝国は、ムガド国に攻め込みながらメズラム侵略を進めていたらしく、現在メズラム国とモジンバル帝国の国境近くで攻防戦が繰り広げられているらしい。
ただ、モジンバルはムガド侵略へ多く兵を振っていたので、今はなんとかメズラムが耐えている状況。
だが、それも時間の問題で、ムガド侵略に派遣されていた賢者と兵が、今メズラム側に向かっているそうだ。
メズラムは隣接する国に応援を要請し、兵を派遣してもらっているが、それが間に合うかどうかが怪しいところなんだとか。
「あのぉ……その賢者って本当に私と一緒に召喚されたカジさん何ですか?」
「情報から、十中八九そうですな」
「本当に何やってんだあの人は……」
「何か事情がおありなのかもしれません。しかし、ユエさん。その賢者と対話を試みるならば、紛争の最前線へ行く必要があります。覚悟はおありか?」
「……正直出来てません。でも、私の選択肢には行くしかないです」
「……そうですか。では、明日の夜明けと共にこの街を出なければなりません。馬を飛ばして賢者より先に着けるかどうか……話は移動の休息時に。急ぎましょう。まずは馬を借り」
「あの……」
「どうしました?」
「ここからその国境までどの位かかります? カジさんの到着はどの位の予想なんですか?」
「ポロポから離れてますので、早くて七日と言ったところでしょうか。賢者の進軍は、兵も引き連れておりますので、七日から十日以内の到着を予想しております」
「ちょっとスミマセン。オリちゃん、グンちゃんは四人を運べる?」
「平気だよ!」
「グン……グン……はっ! グリフォン! そうです!」
「えっ?」
「そのグンちゃんとはグリフォンなのですよね?」
「え、ええ」
「グリフォンを従えるとは、やはり只者では無い。先程の殺気もそうですが、私よりお強い」
「オリちゃんはあの過酷な環境のロッテントーク出身ですから。先程も言いましたが、世界樹を守る部族の時代長ですし」
「……そうでしたな」
オリちゃんもファンさんみたく、左右で毛色が違い神秘的な印象はあるけど、小ささも相まって可愛さの方が際立つ。
しかも七歳。
まさか、自分より強いとは思わないだろう。
そんなオリちゃんがグリフォンという希少な魔物を従えているんだから、驚くのも無理ないよね。
で、グンちゃんが私たちを運べるなら、二、三時間で現地に着けるのではないかと私が言うと、これまた目を大きく開けて驚くナージンさん。
そりゃそうだ。
七日かかる道のりを二、三時間って、驚くわ。
「……はぁ……私はこれから各所に手紙を出しますので、明日商人ギルド前で待ち合わせとしましょう」
「わかりました。色々心労をかけてスミマセン……カールさんにも言います?」
「もちろんです。恐らくユエさんが関わっているとは他国に知られないでしょうが、何が起きるかわかりませんからな」
「ですよねぇ……って、今更ですが、ナージンさんも一緒に来てくれるんですね?」
「もちろんです! 本当に何が起きるか分かりませんから……(特にユエさん)」
「え? なんて言いました?」
「いえ、我々ヤヴォンも他人事ではございませんから」
さっきの後半声が小さくて聞こえなかったけど、ヤヴォン国も他人事では無い。
徐々にモジンバル帝国の侵略が進んでいけば、いつかはヤヴォン国にも襲いかかってくる。
ならば最前線で情報を得る事は不可欠と言えよう。
ナージンさんが付いてきてくれるのは必然か。
そして、ナージンさんの退出間際。
「言い忘れましたが、この部屋の奥に寝室も完備されております。どうぞお寛ぎ下さい」
「えっ!? ナージンさん!!」
私の言葉を聞かず、部屋を出ていったナージンさん。
この豪華な部屋の寝室って、とてもありがたいけど、絶対嫌がらせだ!
「トコ様! お部屋広くてキラキラしてるよ!」
「……」
「……私は応接室のソファで休むとしよう」
奥の寝室は大きなベッドが二つ備え付けられていた。
やはり、怒っておられましたね。
結局私とヒースさんは今更だし、オリちゃんもいるって事で、私とオリちゃんで一つのベッドを使い、隣のベッドをヒースさんが使う事に。
一応ベッドとベッドの間には衝立も置いた。
夕食を食べ、寝るまでに少し時間があったので、オリちゃんとエリクサーを作る事にした。
セージュさんからもらった葉は千枚を超えている。
浄化をしていた日々、毎日毎日たくさんの葉が落ちてきて、ハン族の皆さんと分け合い、その半分以上をもらっていたからね。
二人で四本のエリクサーを作り終えた所で、ベッドに横になる。
そして、明日からの事を考え気が沈み、眠れないかなと思ったけど、思いの外疲れていたのか気を失うように意識を手放した。
♢♢♢
翌朝。
「ナージンさん、おはようございます。部屋の用意もありがとうございました……」
「ゆっくり休めましたかな?」
「おかげさまで、薬を四本作れましたよ」
「……まさか、あの薬を?」
「ええ」
「……それは、それは」
朝から、ナージンさんと言葉の裏側にある嫌味の応酬を笑顔でこなし、『ポロポ』街を出るため、門に向かう。
そこは既に、街外へ出ようとする人の列が長蛇となっていた。
最後尾に並び、待つ事何と二時間。
私達の番になるが、検問のチェックがとても厳しかった。
身分証のチェックはもちろんだが、街を出る理由を聞かれたり、持ち物の検査に至るまで細かく、一人一人の時間がとても長くかかった。
ようやく街を出てしばらく歩き、人気のない森林に入る。
「長かったですねぇ……」
「皆早く国境を越えたいと必死ですからな」
「皆さんこれから山を越えて他国に行くんですもんね?」
「ええ、本来なら隣国の街まで四日はかかりますから」
「何か、スミマセン……」
「ハハハ、ユエさん。今更ですな」
「アハハハ……オリちゃんお願い……」
「はぁい!」
他の人達からしたら、私達の移動手段はズルだからね。
申し訳ない気持ちになったけど、だからと言ってその手段を使わないという選択肢はない。
オリちゃんに呼ばれたグンちゃんが姿を表す。
そして言葉を失うナージンさん。
私は特に声を掛けず、ストレージから籠を出し目の前に置く。
オリちゃんはグンちゃんに、今回運んでもらう人数が増える事と、大まかな方角を伝えていた。
「グンちゃん今回も宜しく。この方はナージンさんだよ」
「よろ、しくお願いします?」
「グルゥゥ」
辿々しく挨拶をするナージンさんの姿は新鮮だ。
グンちゃんは目を細め頷いたので、許可してくれたんだと思う。
籠の扉を開き四人とも乗り込むと、グンちゃんがゆっくりと籠を持ち上げ飛び立った。
そしてあっという間に上昇していく。
「これは! 何と素晴らしい景色なんでしょう!!」
「ナ、ナージンさん! そんなに乗り出したら危ないですって!!」
ナージンさんが初めての飛行にも関わらず興奮している。
しかも身を乗り出して。
ヒースさんは初めあんなに……いや、人には向き不向きがあるからね。
ナージンさんは高さも速さも大丈夫みたいで一安心だ。
思わぬ所で幼い姿を見たナージンさんは置いておき、グンちゃんは進む。
椅子が置けなかったから全員立ったままだったけど、飛行時間は大凡二時間半。
すぐ着いてしまった。
「着いてしまいましたか……」
「降りますよナージンさん。また帰りも乗れますから……」
名残惜しそうに籠から降りるナージンさん。
絶叫系好きかい!
「しかし、上空からであれば、争いの場所がすぐ分かりましたな」
「ええ……」
「今も煙が上がっていたな」
私たちが降り立ったのは、紛争が起きている場所から十キロほど離れた場所。
グンちゃんが見つかると攻撃されかねないから。
ここから戦場へは歩いていく。
今いる場所にも爆風が届いているのか、焼けるような匂いがしている。
微かに爆発音のようなものも聞こえ、向かいながら気持ちが落ち込んでいく。
「ユエ、大丈夫か?」
「……はい。まだ何もしていないですから。終わったらまた色々聞いて下さい……」
「ああ、わかった」
私の変化に気づいたのか、声をかけてくれたヒースさん。
でも、私はまだ何もしていない。
なのに戦場が怖いだなんて誰に言えるだろうか。
弱音を吐いている場合ではないと、自分を奮い立たせる。
そして、紛争が起きている国境の砦に徐々に近づいていく。
私達はメズラム国側の地上に降りたので、砦内側から向かっていた。
「止まれ!!」
私達がいきなり現れたからか、砦裏口で警戒に当たっていた恐らくメズラム国兵士に怒鳴られた。
兵士は一人や二人ではない。
二十人はいるだろう兵士たちが一斉に武器を構えている。
「敵ではありません! 支援しにまいりました!」
ナージンさんが両手を上げ、敵意がないことを告げる。
それに倣い私達も両手を上げる。
そして、近づいて来た兵士に身分証を提示し、モジンバル帝国民でない事を確認してもらう。
もちろん真偽の水晶に手を当て証明もした。
「物資も運んで参りました。どちらにお持ちすれば?」
「感謝する、こっちだ。アイテムボックス持ちか?」
「ええ、私とこちらの者が」
ナージンさんが私を指すので、会釈をして答える。
ここまで大体ナージンさんが対応してくれている。
彼に任せていれば間違い無い。
そして、案内されたのは大きな倉庫。
「ここに物資を置いて貰えるだろうか? 食糧があると非常に助かるんだが……」
「沢山お持ちしましたよ。一番必要でしょうから」
「っ!? ありがたい! 国からの物資が遅れていたんだ」
ナージンさんは自分のアイテムボックスとは別のアイテムバッグに、『ポロポ』への道中に立ち寄った街で、こうなると予想して沢山購入していたそうだ。
流石ナージンさん。
私は、買い溜めしていたものを放出した。
仕切りに案内してくれた兵士達が感謝をしてくれるので、ギリギリ耐えていたんだろうと心が痛んだ。
「……負傷した人がいるなら……」
「ユエさん」
「でも……」
「ナージン殿、恐らく止めても一人で行くだろう」
「トコ様?」
負傷者がいることなどわかりきっている。
恐らくそこは私が耐えられない場所かもしれない。
それを心配してかナージンさんは止めるような目を向けてくるが、ヒースさんは止めない。
これまでも、魔物の被害にあった重症者は見てきた。
それが人による被害だと思うと足がすくむのは何でだろう。
「行きます。あの、負傷者の手当てをお手伝いしたいので、案内してもらえますか?」
「……それは助かるが。大丈夫か?」
兵士の一人が、震えた私の肩を見てそう言った。
「はい、お手伝いさせて下さい」
「わかった、こっちだ」
ナージンさんは呆れたような目をし、ヒースさんは特に顔色は変わらない。
オリちゃんは私も手伝うと張り切っている。
徐々に鉄のような匂いがしてくる。
「ここだ」
「……ッ!!」
むせ返るような血の匂いと何かが焦げた匂い、医療班とおもしき人たちが絶え間なく走り回るそこは、戦場だった。
世界の情勢が見え隠れして、投稿を悩みました。
この物語は当たり前ですが、実在する団体・会社・人物とは関係がありません。
ここまでお読みくださりありがとうございます。




