渡し逃げしました
222の日。
バステト様に会いたいです。
「ユエ様……やはり隊長の仰っていた事を……」
「えっ?」
「実は、ナージンは恐らくユエ様がその様に仰るのでは無いかと申しておりました」
「えぇ……」
確かにそう言ってしまったけど……まさかナージンさんに読まれていたとは。
いや、私の思考が単純で分かり易すぎるのか?
「ですので、もしユエ様がその様に仰ったら、今ナージンはメズラム国の『ポロポ』に向かっている途中ですので、そちらで落ち合えないかと」
「ハハハ、ナージンさんは凄いな……それにしても今メズラム国に向かっているんですか? 次に狙われる国じゃ無いんですか?」
「そう予想されていますが、ムガド国を抑えたと言えど流石にモジンバル帝国も無傷ではありません。直ぐに他国へとはいかないと言うのが大方の見立てです」
「そうですか……じゃ今のうちに近づいた方が良いのか……あっ、」
言っていて今更気づく。
確かに戦争に勝ったとしても、犠牲がゼロなわけない。
お花畑の私の思考では考え及んでいなかったが、それこそ両者合わせて数えきれない犠牲が出てるはず……それにこれからも出るだろう。
それなのに、説得しに行きますなんて簡単に言った私はやはり馬鹿か。
魔物に殺された人の体を見て吐くぐらいの私が、戦場に行って正気な状態でカジさんと話せるのか?
もしかしてさっきヒースさんが言い淀んだのは、それを考えていないだろうから心配してくれた……?
「うっ、ぉぇっ……」
「ユエっ!」
「トコ様!!」
思わず魔物に襲われ倒れたクレインさんの体を思い出して、嘔吐いてしまった。
最近は大丈夫だと思っていたけど、やはりあの体験は私の中でトラウマだ。
「厳しい事を言う様だが、ユエに戦場は耐えられないだろう」
「っ……」
わかってる。
自分がどれだけ甘えていて情けないか。
日本にいた時だってどこか他人事。
そんな私が関わろうと決意しただけでどうにかなるはずない。
戦場に行ったらすぐ動けなくなり、倒れるのなんて目に見えてるんだ。
何も考えず関わらずにいられたらどれほどいいか。
中途半端に善意が残ってる分とてもタチが悪い。
でも……
「ダメかもしれないのは自分でも分かってるんです。行かなければ良かったと思うかもしれないです。でも、何もしないで何か引っ掛かったままでいて後悔するより、私は倒れたりする方がまだ良いです」
「そうか」
「ユエ様……」
「トコ様にはアタシが付いてるよ!」
「ふふ、オリちゃん。ありがとう」
オリちゃんは平気そうな顔をしていて、むしろ私の心配をしているぐらいだ。
私何かよりも生と死と向き合ってきてるに違いない。
あぁ、本当情けないな。
「でも、オリちゃん付き合ってくれるの? 戦争だから危険だよ?」
「うん、大丈夫!」
七歳のオリちゃんがこんなにも頼もしい。
「勿論私も共に行く」
「えっ、いやヒースさんは……良いんですか?」
「ああ、どの道ワンド国へ行くのだろう?」
「……はい」
お察しですな。
絶対何もしないなんてヒースさんの中には無いだろうと思ったけどさ。
でも、てっきりヒースさんは先にワンド国へ行くかなと思ったから、ここから別行動を想定してた。
結局は私もワンド国に行くから、共に来てくれるならそれほど心強い事はない。
「二人共、迷惑掛けると思うけど、宜しくお願いします」
立ち上がり、二人に向かって深く頭を下げる。
「うん! 任せて!」
「こちらこそ」
ああ、連れ達が頼りになり過ぎる……
一人じゃ無いだけでも幸せなのに、恵まれてるなぁ。
「て、事になりましたので、ナージンさんに三人で向かうって伝えてもらっても良いですか?」
「かしこまりました。移動手段が確保出来ましたら宿へご連絡致します」
「えっ!? いや、自分達で用意しますよ!」
「いえ、ナージンからはユエ様が『ポロポ』に向かって下さるなら必ず用意せよと申し付かっております」
んもー!
ナージンさんは先手先手を打ってるんだから!
なんか他にも道中の宿とか取ってくれちゃいそうだから怖いんだけど……
「まさか、道中の宿まで取ってくれるとか言わないですよね?」
「はい、その様に申しております」
「……んもー! この国の税金を私に使わないで下さい! これは譲りません! 私が勝手に決めた事なんで自分の事は自分でします!」
「ですが……」と食い下がるカイラさんと「自分で」と言う私との話を遮り、
「グンちゃんに運んでもらえるよ?」
と、オリちゃん。
「しかしオリ、グンは人を三人乗せるほど大きくは無かったと記憶しているが?」
「うん。だからいつも籠に乗って、それをグンちゃんに運んでもらってたよ?」
「籠に人が乗るの?」
「うん!」
「オリちゃん、その籠ってどんなのか描ける?」
グリフォンのグンちゃんは体格も良いんだけど、流石に大人二人と子供一人を乗せられる程背が広いわけでは無い。
だけど、爪が大きく握力もかなりのものなので、人を三人乗せた籠を余裕で持てるとはオリちゃん談だ。
そして、グンちゃんがグリフォンであると告げた時のカイラさんは、「グ、グリフォン……?」と言って暫く固まってしまった。
カイラさんの様子を見たヒースさんが、目を閉じウンウンと頷いていたのは、何か共感するところがあったのかも知れない。
それ程までにグリフォンと言う種が珍しく貴重なのでは無いかと予想できたけどね。
そして、私がストレージから紙と鉛筆を出し、オリちゃんに里で使ってた籠を描いてもらった。
その際に渡した紙と鉛筆に、三人共興味津々だったのは言うまでも無い。
話がまた逸れそうだから、説明はしないけど。
それにしてもオリちゃんの絵はなかなか独特で、口頭での説明と合わせて何とか理解できた。
イメージは気球の下についているようなバスケットだ。
これなら直ぐに作れると、カイラさんが職人に伝え、作成する事を請け負ってくれた。
移動手段や宿の手配を拒まれたので、これくらいはさせてくれと懇願されてしまったからね。
ちなみに、ヤヴォン国の王都からメズラム国の『ポロポ』までは、途中山を越えるので馬車なら一月程かかるらしい。
でも、グンちゃんなら一直線で行けるから、二日程度で着いちゃう計算だ。
空には障害物もないし、移動速度が桁違いだからね。
ナージンさんへ手紙を届けるのと籠作成に時間が必要なので、また宿に連絡してくれる事となり、今日はお開きとなった。
帰り際のカイラさんは、オリちゃんに話を聞きたそうだったが、まずはやる事が多いから落ち着いたらという話でまとまった。
♢♢♢
それから三日。
籠が出来たのでとある商会に来てくれと宿に連絡をもらった。
三人で指定された商会に向かうと、そこはとんでもなく大きな商会だった。
しかも、王都の一等地と呼ばれる貴族街と商業地区との境目のとても良い立地に構えている。
建物の高さは四階の様だが、横にとてつもなく長い。
一階の入り口が三箇所あり、どこから入ったら良いか三人で迷ったほどだ。
三箇所ある真ん中の入り口に進むと、待機していたドアマンが扉を開けてくれた。
高級ブティックか!と叫びたくなったのを堪えながら中に入り、近くにいた店員さんが声をかけてくれたので、私が名乗ると裏手に案内してくれた。
案内された裏手には、庭と言うには広すぎる空間が広がっていて、その手前にカイラさんと、背の高い中年男性とその横に籠らしきものが見える。
「ユエ様、ご足労頂き有難う御座います。こちらはワリ商会のハリオ・ワリ会長です」
「ご紹介に預かりました当商会の会長をしておりますハリオと申します。以後お見知り置きを」
「しょ、商会長さん直々!? 申し遅れました、ユエと申します。こちらは私の友人のヒースさんとオリちゃんです」
「冒険者を生業としているヒースだ」
「オリ七歳! トコ様の護衛もしてるよ!」
「あ、トコとは私の愛称です。よろしくお願いします」
まさか、こんな大きな商会の会長さんが直々に引き渡しに同席するとは思わず、失礼なことしてないかなと冷や汗が出そうだった。
ハリオさんは、背が高く痩せ型だが目つきが鋭く、何だか私の内側まで見透かされている様な気がするのは気のせいだと思いたい。
きっと今私を品定めしているのかも……
取り敢えず、一通り無難な挨拶を済ます。
いや、私の職業も何も言ってないから無難ですらないかもだけど。
「ヒース様とはどちらかでお会いしたことがございますでしょうか?」
ハリオさんが、そうヒースさんに問うが、当のヒースさんは「いや、私は初めて会うな」と一言。
これだけ大きな商会の会長さんだ、もしかしたらワンド国でヒースさんを見ていたのかも知れない。
それでも、ワンド国元近衛隊長とは紐づいてはいないようだ。
今のヒースさんはどう見ても冒険者ですって形だからね。
「そうですか。では早速ですが、こちらがご所望の籠ですが如何でしょうか?」
「わぁ! 似てる似てる!」
「おお、扉もしっかりしてるんですね」
オリちゃんは里にあったものと似ているようで喜び、私は乗り降りする扉の施錠がしっかりしている事に感心する。
造りも頑丈で、そう簡単には壊れないだろう事がわかる。
中の広さも申し分なく、三人分の椅子も置けそうだ。
グンちゃんが持つ部分も太くがっしりしているので安心出来る。
「何の文句もありませんね! ありがとうございます! おいくらですか?」
「既にカイラ様よりお支払いは頂いておりますのでご安心下さい。お気に召して頂けて何よりでございます」
「カイラさん……」
「ナージンの申し付けですので」
にっこり微笑んだカイラさんは、ここの支払いは一歩も引きませんからね、って感じがありありと出ている。
「……ありがたく頂戴します……」
そうカイラさんに言って、ハリオさんにも一言お礼を言い、籠をストレージにしまった。
流石にここでグンちゃんを呼んで運んでもらうには目立ち過ぎるし、グリフォンが来たとなったら王都を騒がせてしまうかも知れないからね。
「ほお、ユエ様はアイテムボックス持ちでらっしゃる。羨ましいですな」
「容量は然程多くないんですがね」
と言った私をヒースさんとカイラさんが酷い目つきで見てくるけど、シカトします。
「あ! そうだワリさんに何のお礼もしないのは申し訳ないので、良ければこれ何かに使えますか?」
そう言って私がストレージから出したのは、ロッテントークでバオさんから譲ってもらったエルダートレントの枝の一部。
枝の一部と言ってもその枝自体が太く大きく、細い木の幹ぐらいはあるだろう。
「ユエ様、色が通常の木ではない様ですが、こちらは何の木でしょうか?」
「エルダートレントの枝です」
「エルダートレントですと!? しかし色が私の記憶しているエルダートレントと違う様ですが……」
「ああ、ロッテントークのエルダートレントだからですかね?」
「ロッテン、トーク……?」
「あっ」
やばい、これ言っちゃダメなヤツだったかも。
ハリオさんも以前のカイラさんの様に固まってしまった。
なら、今のうちに。
「カイラさん、『ポロポ』についたらどこに行けば良いですか?」
「え、あ、ええ……『ポロポ』の商人ギルドでナージンへ言付けください……」
「わかりました。色々お世話になりました。そうだ、これ一本は“カール”さんに渡して頂けませんか? もう一本はカイラさんの分です。では、またこの国に来たらご挨拶に伺いますね! 行って来ます」
「えっ、ユエ様! これは何の液体なのでしょ__」
「バイバーイ!」
失礼だが、カイラさんが言い終わる前に、ハリオさんはまだ固まったままだが、三人で庭を後にした。
ヒースさんは会釈し、オリちゃんは歩きざま後方に向かって挨拶をした。
今カイラさんに渡したのは、私が作ってセージュさんに状態保存の魔法をかけてもらったエリクサーだ。
一本はカールさんもとい、ヤヴォン国王へ。
もう一本はカイラさんへ。
混乱中のどさくさに紛れて渡したけど、鑑定の魔道具で後で調べてくれると思う。
鑑定したら少しびっくりさせてしまうかも知れないけど、お世話になった二人には元々渡すつもりだったし。
雑な渡し方だったかもだけど、それは後で謝ります。
いや、ナージンさんに会った時に怒られそうな気がしないでもないな……
ここまでお読み下さりありがとうございます!
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そして、何となく記念に、2022年2月22日22時22分に投稿したくなりました。




