思考が飛びがち
投稿が遅くなり申し訳ないです。。
同行してくれたハン族の皆さんと大広間で夕食を取り、私の部屋と言われたキングサイズ以上の大きさのベッドがある部屋に戻ってきた。
下に敷かれた絨毯の刺繍も細かく、置かれたソファも脚は無いもので、部屋の明かりは蝋燭と、なかなか古風な作りだけど、アジアのリゾートっぽい雰囲気がとても居心地良い。
植物が無いのと、一人で使うには広すぎることだけが残念な部屋だ。
いつも通り“予定”スキルでお風呂を呼び出し、ゆっくり浸かる。
今日改めて感じたのは、世界樹の尊さだ。
昼は荘厳であり圧倒的な存在感を放ち、夜は淡い光に包まれた神秘的な姿。
思い出すだけで、涙が出そうだ。
ただ、他の大陸の人達はこれ程美しい姿を拝むことは難しい。
もしかしたら、私の浄化が上手くいって他の大陸から人が上陸できる程になるかもしれない。
だからと言って、他の大陸からかなり離れているこのロッテントークには簡単に来られるものではない。
バステト様のように空を飛んで移動できる手段があれば別だけど、未だにそんな話をこの世界の人から聞いたことがないから、現実的ではないと思う。
だとすると、やはり世界樹の存在を他国にいる人が知ることは難しいのではと思った。
現にロッテントークは未踏の地と言われるぐらいだから、世界樹の事すら本には載っていなかったし。
世界樹の尊さを肌で感じ、せめてこの存在だけは知って欲しいと思ってしまった。
使命でも何でもないけど、私ができる範囲でこれから伝えていけないかな?
信じてもらえないかもしれないけど。
いや、ちょっと待った。
むしろ世界樹が他の大陸で知られることの方が危険なのか?
簡単にはロッテントークへ来られないとしても、世界樹を求めて侵略しようとする者達が出てくるかもしれな。
ファンさんやバオさん達ハン族の人達は、他の大陸の人よりも遥かに強いから心配する必要はないかもしれない。
だけど、数で押されたらどうなるかわからない。
そんな事を考えると、私が勝手に広めて良い話かどうかわからなくなってきた。
そして、ちょっと考えすぎとお風呂に浸かりすぎでのぼせてきた。
お風呂から出て冷たいお茶を飲みながら、体の火照りを冷ます。
結局一人で悶々と考えても正解に辿り着ける気がしないし、勝手に私が進めて良い話でもないから、またヒースさんに相談しよう。
それに、世界樹の話なんだから神様やファンさんにお伺いを立てた方がいいよね?
勝手に広めてこの大陸にいる人達や生き物に迷惑がかかるかもしれないしね。
って、また世界樹の浄化以外に気を取られてるよ。
ヒースさんに浄化に集中した方が良いって言われたばかりなのに。
思考があちこちに飛ぶのも悪い癖だ。
一旦、世界樹の存在普及とか、この大陸の食料問題とか置いておこう。
自分にできる事なんて限られてるんだから。
起きてたら一人で解決出来ない事ばかり考えそうだから、歯を磨いて今日はとっとと寝よう。
♢♢♢
一夜明け、ノックの音と共に目が覚める。
「トウコ様、お目覚めでしょうか?」
「ん、ん。おはようございます。今起きました。スミマセン、準備します」
「おはようございます。ご準備はゆっくりで構いません。整いましたらお声がけ下さい」
恐らくスーリさんが起こしに来てくれたんだろう、扉越しに会話をする。
部屋の木の窓を開けると、外はまだ薄暗い。
そもそもこの大陸は瘴気に覆われているから、朝でも薄暗いままか。
スマホで時間を確認すると、六時二十分だった。
世界樹の浄化が進めば少しは朝も明るくなるかな?
そんな事にまた思考を飛ばしながら、洗面所で準備を終える。
部屋から出ると、スーリさんが扉脇で待っていてくれた。
「スミマセン、お待たせしました」
「とんでもない事でございます。朝食の準備も整っておりますのでご案内致します」
そう言って、昨日みんなで食べた大広間でなく、食堂に案内してくれた。
そこには既にファンさん、バオさんがテーブルの脇に立って待っていた。
「またお待たせしてスミマセン! 先に食べてて良いのに……」
昨日のファンさんのお屋敷でもそうだったが、私が来るまで皆さん立ったまま待っててくれるんだよね……
呑気にぐっすり眠っていてごめんなさい。
「とんでもない! トウコ様より先に頂くなど畏れ多い事でございます。屋敷内で最も高位な方が召し上がられてから、他の者が頂くのがハン族の習わしです」
習わしって言われちゃ何も言えんがな。
これがこれから三日に一回あるってことなのかな?
いつもより早起きする様にしよう……
渋々席に座り、朝食を頂く。
今日の朝食は炒めた米の上にお肉が乗っていた。
ちょっとタイ米っぽい細いお米。
初日の夕食にも見つけて、ちょっと嬉しかったんだよね。
お肉の味付けは朝らしくさっぱりしたもので、少し酸味があって美味しかった。
「ヒース様はまだご到着されておりませんが、本日世界樹の根元へご案内させて頂いてもよろしいでしょうか?」
ファンさんからヒースさんの未到着を告げられたが、彼を待たず世界樹の根元への案内を提案される。
確かにファンさん達からしたらヒースさんを待つ必要はないんだけど、私が一人だと不安なんだよね……
「……そうですよね、早く浄化に取り掛かった方が良いですもんね……」
ファンさん達に、ヒースさんがいないから不安だと弱音を言えないのが辛い。
きっとファンさん達が付き添ってくれるだろうけど、ヒースさんがいてくれる安心感には代えられないんだよね。
うーん、だからと言ってヒースさんが来るまで行かないとも言えないし……
「多分倒れると思うんですけど……私の運搬をヒースさんにお願いしてたので……」
「僭越ながら、私が承ります」
バオさんが名乗りを上げてくれた。
あっ、ちょっと一昨日のバオさんにされた横抱きを思い出してしまった。
今は仮面を外している状態だから、キリッとしたバオさんの顔を見て顔から火が出そうだ。
獣人だからか顔も毛で覆われているんだけど、目鼻立ちはしっかりわかるので美形であることはわかる。
もちろんスーリさんの可愛さもバッチリわかる。
「あ、ありがとうございます。ご迷惑おかけします」
「光栄に存じます」
そんなこんなで、私の運搬はバオさんにお願いし、朝食を食べ終えると世界樹の根元への案内が開始された。
「ふぁぁぁ……」
「私共は日頃こちらで浄化を行っております」
もうね、屋敷から出てすぐ間近で世界樹を目の当たりにして、うわぁって言って、近づく度神聖な何かが体に流れ込んでくるのを感じて、巨大な根の前に来たらこんな声しか出ないですよ。
一つの根が、世界遺産認定の島にある、有名な樹齢千年以上の杉の幹ぐらいありそうなんだもん。
あまりに世界樹が巨大すぎて太い幹にまで到達するのにも時間がかかりそうだ。
だからなのか、幹よりも根に浄化をかけた方が効きがいいのかわからないが、いつも浄化を行っているのは根の部分らしい。
しかも同じ一箇所に行っているそうだ。
てっきりいろんな箇所を周って行くもんだと思っていたけど違うみたいだ。
世界樹の根や幹は全体的に黒みの強い焦茶色だけど、ファンさん達が浄化している一箇所は、他と比べ浄化が進んでいるからか、百メートル程くすんで少し赤みのある茶色をしている。
取り敢えず初回は皆さんと同じやり方でやってみよう。
まずはファンさんが見本を見せてくれると言うので、黙ってその様子を見る。
「日々の守りに感謝を『浄化』!」
ファンさんが色の違う根元の一箇所に跪き、しばらく無言だったんだけど、いきなり立ち上がり根に両手をつき魔法を唱えた。
魔法を唱えた直後、ファンさんの両手から青白い光が根に向かって注がれているのがわかった。
クリーンではなく、浄化と唱えても良いんだね。
なんて呑気な事を思っていたら、根の色が変わっているのがわかった。
浄化をかける事で、赤みがかった茶色の範囲が広がっている。
二、三十メートル位の広がりだろう。
だが、高さウン千メートルはあるだろう世界樹の全体からするとかなり少ない範囲だ。
毎日ハン族の方が浄化を行っているにも関わらず、これくらいの浄化範囲となると、増え続ける瘴気のせいで浄化が追いついていないと言っていた意味がすごくわかる。
ファンさんが根元から手を離し、こちらに戻ってくる。
次はスーリさんの番で彼女が向かった。
毎日、聖属性に適性のある四名が代わる代わる行っていて、今日はファンさん、スーリさん、あともう一人同行した白ハン族の男性、それと私だ。
スーリさんがファンさんと同じように“浄化”と唱え、根の色の変化は十五メートル程広がった。
そして次に白ハン族の男性が向かい、これまた十五メートル程焦茶色だった根の色が明るくなる。
「では、最後にトウコ様お願い致します。我々のように祈祷を捧げずとも、トウコ様の思うように手を当て、浄化魔法を根に放って頂けますでしょうか」
ああ、根に手を当てる前に跪いていたのは、祈祷をしていたのか。
祈祷って祈りを捧げれば良いのかな?
「やってみます」
そう言って、皆さんが手を当てていた根の部分に近づく。
うん、やはりすごい。
根を目の前にして、その存在感は増しているし、圧倒される私。
取り敢えず跪こう。
目を瞑り、世界樹へ向かって祈りを捧げる。
(カマック様、メル様、バステト様、これから世界樹の浄化を始めます。お見守り下さい)
『頼んだぜ』
『助かるわ、頑張って』
『もうちょっとで着くの〜』
「えっ!?」
いきなり頭に響いた声にびっくりして、目を開け勢いよく上空を見上げた。
世界樹の枝と葉が茂っている。
教会での祈りのように、神界に呼ばれたわけではないようだ。
今のは若干神託チックだけど、神々へ声が届いたって事で良いのかな?
「トウコ様、如何されましたでしょうか?」
私が上空を見上げて止まっているもんだから、ファンさんから声が掛かった。
「いえ、何でもないです。続けますね」
「宜しくお願い致します」
ファンさんに声を掛けられて気づいたが、仮面を付けたバオさんが私の斜め後ろに控えていてくれた。
そんなバオさんに会釈をして、世界樹へ向き直る。
よしやろう。
「貴方の頑張りに感謝しています。“クリーン”!!」
両手を根につけ、取り敢えず慣れた“クリーン”を唱える。
すると両手から、目に見えて魔力が世界樹へ移っていくのが分かる。
ファンさん達の様な青色ではない、少し金色の混じった白色の光だった。
「わぁぁぁ……」
この綺麗な光が自分から出ているなんて嘘みたいだ。
前回クリーンを自分にかけた時はこんなに綺麗な色じゃなかった気がするけど、まあいっか。
しかし、どんどん私の中から魔力がなくなっていく。
あれ?
世界樹に私が送っているつもりだったけど、世界樹に吸われている様な気がするのは気のせいかな?
「あ……や、ばい……」
「トウコ様!!」
恐らくバオさんの声が遠くに聞こえて、私は意識を手放した。
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