世界樹の存在感
ヒースさんに助言を貰った翌日、シンプルな朝食を頂き、豪華な駕籠に乗り世界樹の元へ出発した。
確かバステト様が、集落から世界樹まで一日ぐらい離れてるって言ってた気がする。
でも、ファンさんは今日から世界樹の側に作った屋敷でって……ん?
屋敷?
小屋や家とかじゃなく、昨日屋敷って言ってた?
まさか、ファンさんのお屋敷の様な広さのものが用意されているとかじゃないよね?
いや、そんなことはきっと無い。
信託されたのがいつかは知らないけど、そんな簡単に家は建たない。
しかも屋敷と言う程の立派なものなど、建つのに年単位でしょ?
きっと、この里では家のことを全般的に屋敷と言うのだろう。
そうだ、そうだ。
そんな私が屋敷問題に悩んでいる間も、駕籠は進む。
しかもかなりのスピードで。
ヒースさんはついて来れているかな?
体力お化けのヒースさんだけど、この大陸の人はそれを遥かに上回る体力お化け。
ま、バステト様が付いていて下さるから大丈夫だろう。
駕籠のスピードが落ち、一瞬の浮遊感を感じた。
「トウコ様、一度休息を挟んでもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
バオさんから声が掛かる。
休憩を取るにも私の許可を得るとか、律儀だなぁ。
駕籠から降り、周りを見渡し、その光景に驚愕する。
まだ世界樹からは遠い距離にも関わらず、その大きさ、生命力、存在感は半端ない。
周りに生えている木々はほとんど枯れているが、目の前に聳え立つ世界樹だけは生き生きと輝いて見えた。
「トウコ様! 如何されましたか!?」
「えっ?」
ファンさんがこちらに駆けてきて、私の前に膝まずいてそう言った。
どうしたんだろう、急に。
「お加減が悪いのでしょうか? 駕籠の乗り心地が__」
「いえ! 全然何とも無いですよ!」
「では、その、何故落涙されていらっしゃるのでしょうか」
「らく……え?」
ファンさんに言われ、目元をなぞると、手が濡れていた。
その濡れた手を見て、私は自分が泣いている事にようやく気づいた。
「……これは、世界樹に圧倒されたんだと思います」
「左様で御座いますか」
ファンさんがホッとした顔をする。
紛らわしくて申し訳ない。
しかし、自分が泣いている事にも気づかないほど、世界樹に魅入られていたのは確かだ。
瘴気に侵されながらも、力強く生き続けようとしている様に見えた。
それが感動なのか、この世界を一手に背負わせてしまっている罪悪感なのか、何とも言えない感情だけど。
この世界樹のお陰で、今も多くの生命が守られている。
生きていることが辛い環境もあるかもしれない、けれどそれすらも瘴気に飲み込まれて仕舞えば、無いモノとなる。
しかし、これだけ世界を守っている世界樹を、その存在自体を皆知らないと思ってしまったら涙が止まらなかった。
いや、知っている者もいるかもしれない。
けれど、存在を知っていても姿を確認することは難しいだろう。
私は、多くの生命ある者にこの世界樹を知って欲しい、知るべきであると感じた。
ファンさん達が近くにいるが、私はスマホの“買い付け”アプリを開き、日本でウン十万する一眼レフカメラを購入した。
これは仕事上SNSの中の人をやっていた時に、会社経費で購入した物だ。
私生活では絶対使わないような高級カメラ。
これの購入許可が降りた時は、会社も本気だなと思ったね。
だから、めちゃくちゃ中の人を頑張った記憶がある。
お陰でまあまあ使い方は覚えた。
流石に初っ端からヒースさんにこれは渡しません。
ストレージ⦅買付空間⦆の商品リストの中から今購入した一眼レフを取り出す。
電源を入れると起動してくれたので、充電は問題ないようだ。
「と、トウコ様そちらは?」
「景色を記録する道具です。この世界樹を他の大陸にも知ってほしくて」
「その様な道具が存在するのですか」
「私しか使えないんですけどね」
「貴重な道具で御座いますね」
ファンさんと話しながら、世界樹の姿を写真に収めていく。
ファインダー越しでも世界樹の生命力は凄まじいな。
でも、私が撮るよりヒースさんが撮った方がいい気がする……
浄化が一段落したらヒースさんにお願いしてみようかな。
きっとデジカメで撮ってるだろうけど。
あれ?
そう言えば、世界樹にばかり気を取られていたけど、ヒースさんはどこだろう?
「ファンさん、ヒースさんとバステはどちらにいます?」
「申し訳ございません。ヒース様は私共にお気遣い頂き、先に進む様進言下さいました」
「あら……やはり皆さんはスゴイですね」
「勿体なきお言葉、ヒース様と共に黒ハン族が数名おりますので、ご安心下さい」
「ありがとうございます」
ヒースさんが一人じゃなくて良かった。
勿論バステト様がいらっしゃるから瘴気に関しては何の心配もしていないけど、この大陸の魔物は相当強いみたいだからね。
大量の魔物に囲まれたらヒースさんでも厳しいだろうし、黒ハン族の人がいてくれたら安心だ。
それに食料や野営装備もあるそうだ。
流石、準備万端だな。
ヒースさんの無事も確認し、休憩も終え出発した。
それからもう一度休憩を挟み、世界樹の元に着いたと駕籠の外から声が掛かった。
いや、早過ぎだよね。
一日以上かかるって言ってたのに、全員走ってきたんだよね?
駕籠を運んでくれている人の息遣いすら感じてなかったんだけど、どうなっているんだろうか彼らの体は。
駕籠の簾が上がると、外は暗くなっていた。
だが、世界樹が薄らと発光しているからなのか、周りが見える。
そしてまた驚く。
樹では無い、もう山だ。
ここからでは端が認識出来ない。
ただ、上空を見上げると枝がいくつも折り重なり、光った葉がとても綺麗だった。
風が吹き、葉が揺れ動く姿に息を呑む。
「はあぁぁぁ」
「いつ見ても美しい光景です」
私の感嘆のため息にファンさんが同調してくれた。
そして、私はまた自分が泣いている事に気づく。
何だか私が浄化されている様にすら感じた。
この涙は汚れたものが私から流れ出ているって勘違いしそうだ。
それくらい神秘的と言いたい。
一瞬カメラを構えたが、これだけ近くだと写真に収めても何が何やらだろう。
明日にでも少し離れた位置から写真に全体を収めようと誓った。
「本日は遅いので、明日世界樹の根元へご案内致します。ささ、こちらへ」
いつの間にか手に松明を持ったバオさんが隣に来ていた。
バオさんの後ろには松明を持った他のハン族の皆さんがいるので、明かりはバッチリ。
だから、ハン族の皆さんの後ろにある“屋敷”もバッチリ見えた。
世界樹とは違う衝撃を受ける。
「あ、あれですか? 小屋じゃない……」
「トウコ様がお過ごし頂くのです、小屋などあり得ません」
「い、いや力入り過ぎでしょう……」
私の目が捉えたのは、ファンさんのお屋敷よりも大きな屋敷。
松明である程度は見えるが、全貌は確認出来ないほど横幅が広い平家。
奥行きをここからでは確認できないが、絶対広いだろう。
「大きすぎる……」
「御神託を頂きましたのが一月ほど前でしたので、いつお越し頂いても良いよう急ぎ作りました。こちらは仮説の寝所ですので、本殿完成まで今しばらくこちらでお過ごし頂けますでしょうか」
「えっ!? これが仮設!? いやいや、十分です! 私には勿体無い!」
ちょっと、これが仮設ってどう言うこと!?
一月でこんな立派な屋敷が完成するわけ?
しかも本殿ってなに?
頭の中が混乱しながらも、バオさんに促され、屋敷の中へ。
これまた立派でしたよ。
平家なんだけど、天井は高いし、お風呂は無いけどそれ以外は全て揃っていたよ。
思った通り奥行きがかなりありましたよ。
寝室のベッドも大きかったし。
大広間もあり、今日はそこで同行してくれた人達と夕食をとった。
はぁ、早くヒースさん到着してくれないかなぁ。




