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復元

 翌朝、研究者は三つの資料群を年代順に並べた。


 研究院側の復元事業記録。


 行政側の初期運用規程と改定記録。


 王城側の警備記録。


 昨日までは、認証器なら認証器、物理鍵なら物理鍵と、項目ごとに必要な箇所を読んでいた。


 今日は、同じ時期に何が動いていたかを見る。


 最初に置いたのは、何度も読んだ復元事業の実施要領だった。


 原構造を再現できない場合、判明した機能を当時利用可能な技術や制度で実現する。


 その横に、最初期の試行記録を置く。


 古代の Authenticator を人工物とする整理。


 当時の技術では、その構造を再現できないという評価。


 利用者本人を確認する機能を、既存の本人確認と警備の運用へ配置する案。


 認証器を人と読み替えた記録はない。


 装置を作れない。


 機能は必要だと判断した。


 だから、すでに人が行っていた確認業務へ置いた。


 そこまでは、以前にも確認している。


 研究者は次の日付へ進んだ。


     *


 王城での試行記録が続く。


 通常の警備。


 既存の本人確認。


 認証済みであることを後段で確認するための証票。


 高位区画で行われていた王族による直接確認。


 どれも、古代認証技術の復元より先に存在していた。


 復元事業側は、それらを廃止して古代の仕組みへ置き換えてはいない。


 利用できるものへ、判明した機能を足していた。


 本人確認は門番へ。


 後段での確認は、既存の証票運用へ。


 高位区画の直接確認は、後に Physical Security Key との機能上の対応を与えられる。


 その間に、試行結果が研究院へ戻っていた。


 確認項目が多すぎる。


 担当ごとの差が出る。


 記録の形式を揃える必要がある。


 対象者が通常の方式を利用できない場合の扱いが必要になる。


 研究者は、行政側の規程を一つ後ろへ置いた。


 試行時の改善要求と、後の規程の文言が対応する。


 さらに後ろには、教育項目の追加がある。


 その後に資格登録。


 実施可能範囲の記録。


 代理口の初期規程。


 保護技能の導入。


 一度に並んだものではなかった。


 試す。


 問題が記録される。


 規程が変わる。


 教える内容が増える。


 資格で確認する範囲が増える。


 また運用記録が増える。


 研究者は、昨日作った「復興期」の見出しの下へ順番だけを書いた。


 まだ本文にはしなかった。


     *


 昼前、一か所で年代が途切れた。


 研究院側の記録には、王城で認証運用の試行を開始したことがある。


 行政側には、その後の標準化された規程がある。


 間にあるはずの変更が、研究院側の記録では要約されていた。


 方式追加。


 適用条件の整理。


 王城側からの改善要求。


 行政規程への反映。


 順序を確定するには足りない。


 以前、物理鍵を調べたときに見た王城側の索引を確認した。


 試行期間の運用記録が残っている。


 今回必要な記録の一部は、高位区画側の閲覧対象だった。


 物理鍵認証が要る。


 申請を追加した。


     *


 王城の受付で、申請内容と閲覧範囲を確認された。


「この先の記録ですね」


「はい。試行開始から行政規程へ移るまでを確認したいです」


 担当者が予定表を見た。


「本日の物理鍵担当は王女殿下ですが、現在、認証を行えません」


「では、別日に改めます」


 申請票を戻しかけたところで、奥から声がした。


「何の閲覧だ」


 受付の職員が立ち、礼をした。


 研究者も振り返った。


 王だった。


 研究者も立って礼をした。


 職員が申請内容を短く説明する。


「復興期の認証試行記録です。物理鍵認証が必要な区画の資料を含みます」


 王は申請票を見た。


「ならば私が認証しよう」


「よろしいのですか」


 後ろにいた侍従が予定を確認した。


「次のご予定まで、時間はございます」


 王がうなずいた。


「資格は有効だ」


 受付の職員が資格記録を確認する。


 物理鍵。


 標準認証。


 標準認証(第三認証)。


 必要な保護技能。


 次に、今回の適用条件を確認した。


 王が研究者を見る。


「標準認証には慣れておるな」


「はい」


 王は確認事項をもう一度見た。


「ならば第三認証で対応しよう」


「恐縮です」


 案内された。


 扉が閉じた。


     *


 扉が開いた。


 必要な記録が終わると、研究者は閲覧区画へ進んだ。


 最初に確認したのは、王城での試行日誌だった。


 試行開始時の対象区画。


 担当配置。


 認証済票の扱い。


 王族による直接確認を残す区画。


 運用中に変更された確認項目。


 行政側へ送られた改善要求。


 思想を説明する文書ではない。


 いつ、何を試し、何を変えたかが残っていた。


 研究者は、研究院側と行政側の資料番号を横へ置いた。


 日付がつながった。


     *


 第三認証の最初の記録は、試行開始時にはなかった。


 初期の運用記録には、後の標準認証に当たる方式だけが記されている。


 その後の改善記録に、別方式の検討が現れた。


 通常方式だけでは、適用できる条件と運用上の選択肢が限られる。


 別の方式を検討する。


 その検討資料に、古代資料の参照番号が並んでいた。


 技術資料。


 出土品の記録。


 身体利用に関する文化資料。


 成人向け出版物。


 研究者は、参照された評価書を読んだ。


 古代の生体認証や User Verification を、そのまま別方式の手順へ変換したものではない。


 当時の研究者も、技術資料だけでは具体的な方式を確定できないとしていた。


 その一方で、身体利用を示すと解釈された資料が複数ある。


 既に採用していた方式とは異なる記述が、複数の出版物で反復している。


 評価書には、検討会の記録が付いていた。


「一冊だけなら、創作上の表現として除外できます」


 最初の資料から、短い一節が引かれている。


 ――「違う。そこじゃなくて、もう一つの方」


「この文だけでは、何を指しているか確定できません」


「こちらにも同種の記述があります」


「著者は」


「別です。刊行時期も異なります」


 さらに別の資料番号が続く。


「身体構造の記述と断定するのは早い」


「では、候補として残します」


「追加資料が出るまでは、それ以上には扱わないでください」


 その検討記録では、既採用方式とは異なる身体利用の候補を整理するため、暫定的に「第三の身体利用」と呼んでいた。


 「第三」は認証方式の追加順を示す番号ではない。


 成立期の記録にも、「第二認証」に相当する制度名称は確認できなかった。


 後の試行記録では呼称が短くなり、標準化の過程で「第三認証」が制度名称として残っている。


 当時の整理では、著者が異なり、刊行時期にも幅のある複数の出版物を、それぞれ別の文化資料として扱っていた。


 それでも、そこから直ちに現在の第三認証が決まったわけではない。


 方式候補の検討。


 限定的な試行。


 適用条件の整理。


 運用記録。


 教育項目への追加。


 実技確認。


 後の規程で、標準認証(第三認証)として位置づけられる。


 研究者は順に日付を付けた。


 現在使われている方式は、その過程の後にある。


 最初の評価書に完成形が書かれているわけではなかった。


     *


 午後、年代表の空欄はかなり減った。


 復元事業が機能を抽出する。


 既存の警備と本人確認へ置く。


 王城で試す。


 運用記録が戻る。


 方式を増やす。


 例外処理が必要になる。


 代理口が整えられる。


 安全上の問題から保護技能が加わる。


 記録と教育が揃えられる。


 資格で実施可能範囲を確認するようになる。


 その後にも改定は続いていた。


 研究者は、年代表の最初と最後を見比べた。


 どこにも、現在の認証制度を一度に設計した記録はない。


 各時点で扱われているのは、その時点の問題だった。


 復元できない機能をどう置くか。


 試行で出た問題をどう直すか。


 誰が実施できるかをどう揃えるか。


 通常方式が使えないときにどうするか。


 安全条件をどう標準化するか。


 その判断が、次の運用の前提になっている。


 復元。


 運用。


 改定。


 標準化。


 また運用。


 「復興期」という見出しの下に置くべきものは、一度の復元事業ではなかった。


 古代資料は、何度も参照されている。


 既存制度も、何度も使われている。


 その上で、古代資料に直接の典拠を持たない制度も増えていた。


 同じものを写したとは書けない。


 無関係だったとも書けない。


 昨日よりは、その間を書ける。


     *


 研究者は、第三認証の評価書へ戻った。


 方式そのものの成立経路は追えた。


 次に再編纂稿へ書くなら、根拠として使われた資料の扱いも書く必要がある。


 参照番号を抜き出した。


 成人向け出版物は複数ある。


 当時の研究者が、反復する記述を一つの作品だけの表現とは見なさなかった理由も分かる。


 当時資料上、その判断は不自然ではない。


 ただし、複数あることと、独立した証拠であることは同じではない。


 研究者は出典欄を確認した。


 本文の題名。


 著者。


 推定刊行時期。


 発掘記録への参照。


 一覧を作る。


 次に確認するのは、内容ではなかった。


 出典だった。


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