第二章 勇者としての役割と最初の違和感
王城の回廊は、静かに冷えていた。
召喚の間から移動するあいだ、憐斗は王女エリシアと
数名の護衛に囲まれて歩いていた。
壁には古い絵画が並び、どれも゛魔王との戦い゛を描いてる。
勇者が剣を掲げ、魔王を討ち、王国に光が戻る
ーーそんな典型的な構図だ。
(……物語のテンプレートみたいだな)
憐斗は心の中で苦笑した。
死の直後に異世界へ召喚され、勇者として期待される。
それは、あまりにも゛出来すぎている゛。
まるで誰かが用意した舞台に、憐斗が無理やり
立たされているようだった。
「こちらが、勇者にお泊りいただくお部屋です。」
案内役の騎士が扉を開ける。
大きなベット、暖炉、窓からは王都の町並みが見える。
「……ありがとうございます。」
憐斗は丁寧に礼を言った。
勇者としての仮面は、すでに自然に馴染んでいる。
騎士たちが下がり、部屋に憐斗と王女だけが残った。
エリシアは、少し躊躇うように口を開いた。
「勇者様…突然の召喚で、混乱しておられるでしょう。
ですが、どうか信じてください。あなたは、
この国のとって希望なのです。」
憐斗は微笑んだ。
優しく、安心させるように。
「混乱はしています。でも……あなた達を助けたい気持ちは本物です。」
その言葉に、エリシアは胸を撫で下ろした様だった。
……だが、憐斗の心は別のとこにあった。
(この王女……嘘はついていない。
でも、知らされていないことが多すぎる)
召喚陣の改変。
死の闇で聞こえた囁き。
そして、王国の説明の穴。
憐斗は、王女の瞳を静かに観察した。
怯え、焦り、期待ーーそのどれもが本物だ。
だが、彼女は゛何かを知らされていない側゛の人間だ。
(この国の上層部……腐っているな)
直感だった。
だが、憐斗の直感はよく当たる。
◆
夕食の席で、憐斗は王と対面した。
王は威厳ある姿をしていたが、その目の奥には
疲労と焦燥が滲んでいた。
魔王の脅威、国境の崩壊、民の不安ーー王は
それらを語りながら、憐斗に期待を押し付ける
ような視線を向けた。
「勇者よ。どうか我が国を救ってほしい。
魔王を討ち、この世界に平和を取り戻してくれ。」
憐斗は静かにうなずいた。
「……わかりました。できる限りのことをします。」
王は満足げに頷いたが、憐斗の心は冷えていた。
(できる限りのことね…)
憐斗は王の言葉の裏を読む。
魔王の脅威は本物だろう。
だが、王国の危機は魔王だけが原因ではない。
王の声には、どこか゛責任逃れ゛の響きがあった。
(この国は、魔王がいなくてもいずれ崩れる)
憐斗は確信した。
そして、王の視線が一瞬だけ揺れた。
憐斗の眼を見た瞬間、王はわずかに怯えたように見えた。
(……気づいたか?
俺がただの勇者じゃないって)
憐斗か微笑んだ。
王はその笑顔に安心したように見えたが、憐斗の瞳は冷たかった。
◆
夜。
憐斗はベットに座り、召喚陣の記憶を思い返していた。
(あの線……あれは王国の魔術じゃない。
むしろ、王国の魔術を上書きするように刻まれていた。)
誰が、何のために?
憐斗を呼んだのは本当に王国なのか。
ーー選ばれた。
死の闇で聞こえた囁きが、再び脳裏に響く。
憐斗は目をを閉じ、静かに息を吐いた。
(この世界……やっぱり、どこかがおかしい)
勇者としての役割を与えられたその日、
憐斗はすでに勇者の物語から外れはじめていた。
彼は英雄ではない。
救世主でもない。
ーー観察者。
ーー侵入者。
ーーそして、いずれ黒幕となる男。
憐斗はゆっくりと目を開けた。
(まずは、この国の情報を集める。
王国の腐敗、魔王の動き。
そして……召喚の裏のいる何者かを)
静かな夜の中で、憐斗の決意だけが鋭く光っていた。
勇者の物語は、まだ始まったばかり。
だが憐斗はすでに、別の物語を歩き始めていた。




