29 金曜日と修羅場
おさらい。帰ってきたのは詩織だった。
「やっぱり居たね?」
「...っ」
左肩に重さが掛かり、思わず息を呑んだ。振り返ると、満面の笑みの詩織が。
「靴があんたのだもんね?何してたのかな?」
やはり、無理があった。
相変わらずの満面の笑みを維持し、視線を外すことなくこちらを見つめてくる詩織に、全身がゾワッとした感覚に襲われた。
「えと、はい...あの...綾香に...サボろうって...言われて...」
「ふーん、それで?」
喉に言葉が詰まってしまい、声量が小さくなってしまう。
「公園に行ったり...したり...」
「したり?」
『普段の竜司じゃない。何かあったんじゃないか』と思ったのか、詩織は目を細めて口角を上げた。
俺はそれを見て、心臓がバクバクと大きく脈を打ち、それと同時に足が震え始め、息が浅くなっていくのを自分自身で感じた。
「学校をサボった幼馴染の行動を把握するっていうのが、やっぱり幼馴染の役目っていうかさ?それが幼馴染としての――」
「え、あ...え...」
急な饒舌に、戸惑って言葉が詰まった。詩織は、呼吸をしているのかどうなのかという状態で言葉を続け、俺は幼馴染について何故か語られていた。
「怒ってる...?」
「怒ってないよ?」
「ごめんなさい」
詩織の話を遮るように恐る恐る質問したが、間髪を入れずに即答された。そして、言葉に棘があった気がしたので、すぐに謝った。
「...あ」
不意にドアが開く音がし、視線をそちらへ向けた。綾香だ。おそらく、無事に帰ったのかを確認しようと思ったのだろう。この有様だけど。
詩織は綾香にチラッと視線を移し、俺に再び戻して表情を観察した後、また綾香に視線を移した。
「綾香、公園に行っただけ?」
「う、うん...」
「こいつの表情からして、何かあったみたいだけど?」
綾香は口をつぐんで視線を逸らした。そして、決心したように口を開いた。
「恋人繋ぎしちゃった」
「...はっ?」
静寂が押し寄せた。詩織の表情が段々、曇っていく。その静寂を、さらに濃くするように綾香は付け加えた。
「...ほっぺにキスしちゃった」
「はぁっ!?」
詩織は目を丸くし、事実確認をするように俺に向き直った。
「それ本当?」
「...はい」
詩織は金魚のように口をパクパクとさせ、頭から湯気が出そうな勢いで顔が赤くなり始めた。そして、俺の肩から手を離して一歩後退り、一言。
「昼休みあんたと話せなくて辛かった!!」
「...え?」
捨て台詞のようにそう言い放ち、そのまま部屋の中に入って行った。
「...あ」
「え?」
「詩織ちゃん行っちゃったね...」
頭の中が一瞬、真っ白になり、無意識に片手で口を覆っていた。
「じゃ、じゃあな...」
「あ、うん...また学校でね...」
逃げるように玄関へ向かい、外に出た。太陽の光が押し寄せる。帰り道の途中で、詩織の言葉が頭の中でリフレインした。
その後、詩織の部屋では「...馬鹿」や、「ほんとサイアク...」と聞こえていたらしい。どこぞの一ノ瀬情報である。
主な登場人物
住田竜司:主人公。紫陽花高校1年1組。
福留結希:紫陽花高校1年2組。
水月心寧:紫陽花高校1年2組。
一ノ瀬綾香:紫陽花高校1年2組。
桃瀬詩織:紫陽花高校1年2組。
途中でデータ飛んだのが許せません。めっちゃいい感じで書けてたのに!!!!!




