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九の段 決戦(一)

  酒呑童子と玉藻の前、舞台奥に顔を向けて立っている。玉藻のひと振りで舞台奥の引き割幕が開く。



酒呑  四神相応なんて言われてた京の都の霊的守護も大したことなかったねえ。なーにが「永遠の帝都平安京」だよ


玉藻  先ほど首をねじ切った貴族はん、あれ、藤原道長はんやったろうかなあ。ふふふ、たぁくさん殺しまくってまったからに、あんじょうようわからんわぁ


酒呑  まだまだ、これだけじゃまだ足りない。もっともっともーっとたくさん殺して殺して殺しまくって、そいつらの肉を吊るして肉の林にして、そいつらの血を絞り尽くして酒の池にして、その中で君と二人でダンスを踊るんだ。楽しいなあ、きっと楽しいだろうなあ


玉藻  ああ、その光景を思い浮かべるだけでもう蕩けてしまいそうやわぁ。旦那様ぁ、はよう、はよう


酒呑  うん。ではいざ参らん、酒呑童子のラストステージ、はっじまっるよ~ん


頼義  そうはさせんぞ、鬼め!



  頼義、金平、季春登場。三人共走りづくめで息も絶え絶え。



頼義  はあっ、はあっ・・・天下に仇なす悪鬼羅刹よ、ここから先には進ません、この左衛門(さえもんの)少尉(しょうじょう)、源頼義がここで貴様を討ち果たす!


酒呑  あらお嬢ちゃ~ん☆遅かったじゃな~い。もう、あんまり待たせるもんだから、先に行ってみんな殺しちゃうよお、悪いねえ


金平  なめんじゃねえぞゴルァ!前回は不覚を取ったが、今度は負けねえ!


玉藻  まったく、ヒトの恋路を邪魔しはるいけずは、馬に蹴られて死んでしまいおすえ。旦那様ぁ、ここは玉藻がお相手しますよって、はよう帝の素っ首取ってきておくれやす


季春  いいや、帝のもとへは行かせませんし、お二人に手出しもさせませんぞ


玉藻  !?


季春  南無、泰山府君(たいざんふくん)来臨(らいりん)訃形(ふけい)急々(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)如律令(にょりつりょう)



  雷鳴と共に幕が降り落ち、舞台の形が変わる。玉藻は幕に隠れて見えなくなる。舞台には酒呑童子と頼義、金平、季春。



季晴  これぞ、軍師諸葛孔明が使いし「奇門遁甲、八門金鎖の陣」なり!生門、景門、開門、傷門、驚門、休門、杜門、死門、いずれを通っても外界に至るに(あた)わず、このままこの亜空間に永久に閉じ込められるべし、酒呑童子!


酒呑  (ウロウロするが、出られない)貴様!


季晴  恐れ入ったか鬼どもめ、拙者とてただのモブではござらぬぞデュムフフフ


金平  なにがデュムフフフだバカー!これじゃ俺たちも出れねえじゃねえか!


季晴  あ


金平  「あ」じゃねえよ!まあいいや、後で考える。とりあえずは・・・コイツだ!


酒呑  玉藻!玉藻!助けて!玉藻がいないと僕はダメなんだ!


金平  はあ?さっきの威勢のいいのはどこ行きやがったんだコラ


酒呑  だって、玉藻がいないと、カッコいいところ見せる相手がいないじゃないか


金平  ふざけんな!そんな理由で強い弱いが決まってたまるか!


酒呑  あわ、あわわ


頼義  逃がさんっ!


酒呑  わあっ!



  頼義に回り込まれて情けなく膝をつく。なおも逃げ回る酒呑童子。



季春  都に仇なす悪鬼羅刹よ、今こそ滅ぶべし!



  季春、酒呑童子を小太刀にて刺し貫く。酒呑、大げさにのたうち回って死ぬ。沈黙。



金平  ・・・や、やったのか?えらく、あっけなかったなオイ


季春  こやつ・・・


頼義  季春どの?いかがなされ・・・


季春  近づかれるな!まだ終わってはおりませぬ!


頼義  えっ!?


季春  刀を打ち込んでみて分かり申した、こやつは・・・



  言おうとした瞬間、後ろから刺されたような反応。



季春  ぐはっ!



  季春、脇腹らを刺されて膝をつく。幕の合間から玉藻の手だけが伸びている。



玉藻  旦那様ぁ、生きてはりますかぁ、なんとか手ぇだけ突っ込んでみましたけど、ああんもう、いけ好かん術やわあこれ



  酒呑童子、何事もなかったように起き上がる。



酒呑  わっはっは。わっはっは


頼義  ば、馬鹿な!確かに・・・


酒呑  ひどいじゃないか、大事なステージ衣装に穴があいちゃったよう



  酒呑童子、季春の小太刀を奪い取りそれを季春に突き立てる。



季春  ぐあっ!ぎゃああ!


酒呑  痛い?お前も「痛い」って言うのか?(さらに突き刺す)ねえ、「痛い」ってどういうこと?ねえ「痛い」ってどういう気持ちなんだよ?(えぐる)


季春  ぎゃあああああ!


金平  やめろ、てめえ!



  酒呑童子、季春を盾にする。すでに季春は事切れている。



酒呑  あれ?死んじゃったよ。あ~あなんだよう、もう壊れちゃった


頼義  !?



  季春の仕掛けていた「奇門遁甲」の陣が解けて幕が元に戻る。玉藻が再び姿を現す。



玉藻  ああ、ようやっと元に戻ったわあ。あら旦那様ぁ、ま~たオモチャ壊しはりおったんどすかぁ。もう、あきまへんえ、そんなに簡単に壊しはっては


酒呑  えへへ、ごめんなさ~い。でもいいや、こんな小汚いオッサンより、こっちのオモチャの方が楽しそうだしねえ


頼義  き、貴様・・・


酒呑  さ、君はどんな風に遊んであげよっかなあ。壊れちゃったらごめんねえ


金平  うおおおおおお!(マサカリを振り回す)許さねえ、てめえは殺す、ぜってえ殺す!(振り回す)


玉藻  (呪符をかざし)「坂田金平は動かない」(金平再び硬直)ほほほ、ほんに文字通りの「猪武者」じゃわいなぁ。おんなじ術に何度も引っかかるなんて


金平  ぐっ、くそうっ!


玉藻  ()()()()()()()()()()()()()()()()


頼義  う・・・


酒呑  形勢逆転ってやつだねえ。まあ本当はこんな奴の攻撃なんか屁でもなかったんだけどさ、少しは相手側にも花を持たせてあげないと、ほら、僕はスターだからねえ


玉藻  旦那様ぁ、少し()()()が過ぎますえ、あんまし世話焼かせんとおくれやす


酒呑  あはははごめんごめん。じゃあ遊びは終わりにして殺すとす・・・



  頼義、酒呑童子に斬りつける。術にかかっていない



酒呑  おおっ?



頼義、酒呑童子を斬りつけた反応から何かに気づく。



頼義  !?貴様、まさか・・・そういう事・・・なのか


玉藻  なっ!?馬鹿な、なぜ術にかからん!?


頼義  金平どの、気を確かに!その程度の術にやられているようでは、季春どのの仇は討てませぬぞ!


金平  こ・・・の(動かそうとする)ムチャ・・・いいやが・・・ってぇ!!



  金平、力任せに無理矢理術を破る。



酒呑  呆れたヤツだなあ、なんて馬鹿力だよあははは


玉藻  いややわぁ、これだから脳筋は嫌いやわぁ


金平  ぜぇっ、ぜえっ、へへ、悪かったなあ、馬鹿力だけが自慢でねえ


頼義  待って、金平どの・・・酒呑童子、ひとつ聞く


酒呑 ん、なあに?


頼義 そなた、()()()()()()()()()()()のではないか?


金平  はあ!?


酒呑  そう、それだよそれ。「痛い」ってなに?みんなさあ、殴ったり傷ついたりするたびに「痛い、痛い」って叫ぶじゃん、あれなんなのさ?肉が切れたり血が流れたくらいでまるでこの世の終わりみたいな苦しみ方しちゃってさあ、そりゃあやりすぎちゃったら死んじゃったりするけどさ、いちいち大げさだと思わない?


頼義  ・・・・・・


金平  な、なあガキんちょ、コイツはなにを言ってやがるんだ?


頼義  簡単なことです、こやつは・・・()()()()()()()()のです


金平  なっ!?


頼義  死んでいるから、「痛み」という感覚を知らないのです。それで合点がいきました、もとより痛みを知らないこやつは、当然他人の痛みも想像できない。だからこそこれ程までに冷酷で残虐なことが行えるのです


金平  なんだとお・・・?


玉藻  (頼義を襲う)おしゃべりが多すぎますえ、余計なことベラベラ言わんと、はよう死んでおくれやす


金平  (頼義をかばって)珍しくムキになるじゃねえか、そんなに知られちゃまずいことだったかい


玉藻  くっ・・・


金平  タネさえわかりゃこっちのもんだ、要はアレだろ?普通に斬っても死なねえんなら、二度と生き返らねえくらいまで切り刻んでやりゃあいいんだろ、来やがれ!てめえら二人共、今度こそ本当にぶっ殺してやるぜ!


玉藻  ・・・ほほほ、ほほほほほ


金平  なにがおかしいんだこのやろう!


玉藻  いいえぇ、死ぬるんは妾ではありまへんえ


金平  ああ?



  金平の背後にいた季春の死体が静かに動き出す。金平は気づかないが、頼義それを見て



頼義  金平どの!



  頼義の声に反応して金平振り向く。季春の死体が金平の腹を刺す。

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