九の段 決戦(二)
金平 ぬおおおおおおおお!
玉藻 ほほほ、これぞ道家仙道「反魂殭屍の術」!友の手にかかって死ね、小僧!
金平 ぐはっ!(引き離す)
頼義 死体を・・・操るだと?まさか、酒呑童子も貴様が操っているのか!
酒呑 はあ、なに言ってんのお前?確かに生き返らせてくれたのは玉藻だけど僕は僕さ、生きてようが死んでようが、僕は僕としてここにいる。玉藻にも、誰にも操られてなんかいるものか!
頼義 う・・・
季春 きんぴら・・・うじぃ
金平 季春・・・
季春 ここは・・・さむい・・・いたみは・・・えいえんに・・・つづく・・・「しぬ」というのは・・・こんなにも・・・くるしい・・・もの・・・なのか・・・
頼義 季春、どの・・・
季春 くるしい・・・くるしい・・・くるしい・・・くるしい・・・
金平 季春よぉ・・・
季春 だから・・・だから・・・すこしでも・・・くるしくないように・・・
金平 すえ・・・
季春 肝をくれええええええ!
金平 うおおおおおおおおおおおおおおおお!
金平、襲い掛かる季春をマサカリで斬り伏せる。季春の死体、倒れてもなおバタバタともがいていたが、玉藻が指を鳴らすと沈黙。
酒呑 あーっはっはっはっは、あーっはっはっは!自分で殺してやがんの、友達なのにひどいなあ
金平 おおおおおおおお!あああああああああああああ!
酒呑 ねえ今どんな気持ち?自分で大事なお友達切り刻んで今どんなお気持ちですかあー?あははははは
頼義 外道!
頼義、逆上して酒呑童子に斬りかかる。
頼義 貴様だけは・・・貴様だけはぁ・・・許さないっ!
なおも斬りかかろうとするが、不覚にも酒呑童子と目を合わせてしまう。頼義、またしても術中に陥ってしまう。
酒呑 よ~うやく、僕の眼を見てくれたねえ、もう、恥ずかしがり屋さんなんだから☆
頼義 あ・・・ああ・・・
酒呑 もう離さないよ、愛しいひと・・・君はもう僕のものだ
頼義 う・・・やだ、やだ・・・!
金平 く・・・
酒呑 怖がらなくていいよ、もう君は自由だ。男の振りなんてしなくていい、背伸びして武士の真似事なんて、君には似合わないさぁ。さ、その刀をお下げ
頼義、振り上げていた刀を下ろし、脱力。
酒呑 そうそう、いい子だねえ。さあ、これから君は新しく生まれ変わるんだ、その美しい「魔の瞳」でもって全ての男どもをひれ伏させる鬼の女王に・・・そのためにもまずそこにいる死に損ないを・・・殺せ!
金平 !
頼義、ゆっくりと金平のほうへ向き、刀を構える。
金平 ガキんちょ・・・
玉藻 ほほほほ、憎からず想うておった女子の手にかかって死ぬるのじゃ、それはそれで幸せな最期でありんすなあ
頼義 うああああああああああ!
金平 頼義ぃ!
頼義、金平にではなく自分の目を切り裂く。一同、一瞬のことで即座に反応できず呆然・・・
玉藻 なっ・・・!
頼義 (苦痛に耐えながら)私は・・・私は誰も支配したりなんかしない!お前になんか絶対に屈しない!暗闇だって・・・怖くない!
金平 ガキんちょ・・・!
頼義 金平どの・・・お怪我は
金平 馬鹿!お前の方が重症だってぇの!馬鹿野郎ムチャしやがって!
頼義 えへへ、金平殿、私、負けませんでしたよ、私・・・
金平 ああ、わかってる。お前は立派な・・・俺たちの総大将だ!
頼義 金平殿どの・・・
酒呑 ・・・・・・なにそれ?お前つまんないぞ!なんだよせっかく僕がここまで場を盛り上げてやったのに!あ~あやる気なくしちゃった。もういいや、もう殺す、お前も、もういらない!玉藻、やっちゃえ!
頼義 ・・・酒呑童子、お前はかわいそうなヤツだ。今ならわかる
酒呑 あ?
頼義 「女を支配する魔の瞳」だと?笑わせるな、お前は・・・「支配する」という形でしか女と向き合えない、ただの臆病者だ。お前は・・・弱い!
酒呑 なんだそりゃ、僕を挑発してるつもり?
頼義 いいや・・・ただただ、お前を哀れんでいるのだ酒呑童子。お前は臆病で、弱くて弱くて、弱い自分に耐え切れなかったから鬼になったのだろう。鬼になって、痛みも優しさも切り捨ててしまわなければ、自分の弱さに押しつぶされてしまうから、お前はそこにいるんだろう、鬼よ、哀れな鬼よ
酒呑 なにを・・・はは、わかったような口を
頼義 だから・・・大丈夫、私がお前を見てあげる、この見えぬ眼で、お前のことを真正面から見返してあげる、だから・・・
頼義、金平の手を握る。金平、頼義の杖代わりに支えながら、二人で刀を構える。
頼義 せめて、人として・・・逝きなさい!
酒呑 玉藻―!
玉藻 動くな、金平!頼義!
二人、一瞬動かなくなる。玉藻刺し殺そうとするがその腕を動けないはずの金平に掴まれて驚愕する。
金平 おうよう、俺っち自分でもすっかり忘れてたんだけどよぉ、よく考えたら俺「金平」って名前じゃねえんだわ
玉藻 な、なに!?
金平 耳の穴かっぽじってようく聞きやがれ、俺の名前はなあ「坂田公平」っていうんだよ!
金平と頼義、玉藻を袈裟斬りにする。
玉藻 馬鹿な・・・でも、なぜ頼義まで・・・
金平 バッカかおめえ、「頼義」ってのは、男装してる時の名前だろうが
玉藻 あ・・・!(倒れる)
酒呑 玉藻?・・・玉藻!
頼義 酒呑童子、最後に私の本当の名前を教えてあげる。私の本当の名前はね、「すゞ子」っていうの
酒呑 あ・・・ああ
頼義 ふふ、子供のころはね、こんな女の子っぽい可愛らしい名前、私は嫌いだった、叔父上のような、立派な男の武将になりたかった。私は、自分の名前も、女である自分自身も嫌いだった。でも私は・・・
頼義、酒呑童子を斬る。
頼義 女である自分からも、もう逃げない・・・
酒呑童子、崩れ落ちる。突然苦悶の表情を浮かべ苦しみだす
酒呑 ぎゃああああああああああああ!
なおも苦しみ続ける。
酒呑 なんだよ、なんだよこれ!?焼ける・・・?く、苦しいよ、なんだよ、なんだよこれぇ!ぐあああああ!
頼義 わかりますか酒呑童子。それが・・・「痛み」です
酒呑 「痛み」・・・?これが、これが「痛み」?・・・痛い、痛い痛い痛い、痛いよ、苦しいよ、助けて、助けて玉藻・・・玉藻ぉおおおおおお!
初めて味わう苦痛にのた打ち回る酒呑童子。玉藻、息も絶え絶えに近づいていく
酒呑 助けて・・・またいつものように生き返らせてくれよう・・・あの時みたいにさあ・・・助けて、助けてよ玉藻・・・
玉藻 旦那様ぁ・・・かんにん、かんにんなあ
酒呑 え・・・
玉藻 もうあかんわぁ、もうかないやしまへん・・・
酒呑 そんな・・・やだ、やだよう、死ぬのはいやだぁ・・・
玉藻 鬼の主さんならなんぼでも生き返らせてあげましょ。でもなぁ、「痛み」を知ってしもうたらもう鬼には戻れやしまへん。だってそうやろう、「痛み」を知ってしもうたら、人は優しうなってしまいますよってに・・・
酒呑 あ・・・
玉藻 だから・・・せめて最期の時までは、こうして一緒にいてあげますえ
酒呑 たま、も・・・
玉藻 かんにん、かんにんなあぼうや、私の、ぼうや・・・
酒呑童子、死ぬ。
玉藻 ・・・昔なあ、ずっとずっと昔の話やわ、赤ちゃんに死なれてしまって泣きはらした母親がおってん。母親は泣いて泣いて、それでもあきらめきれずに死んだ赤ちゃんを取り戻そう思うて禁忌とされていた「黄泉返りの術」を使うたんよ。でもなあ、母親の未熟な術で黄泉がえった赤ちゃんは、どこかが
欠けておってなあ、結局、その子は鬼になってしもうたんよ。母親はそれでも子供をかばってかばって・・・自分も鬼に成り果てていたことにも気づかずになあ、ずーっとその鬼になった子供を守り続けていたんよ・・・
頼義 ・・・・・・
玉藻 かんにん、ほんにかんにんなあ・・・でも安心しいや、地獄に落ちても、ずーっと主さんをお守りしますえ。だから、もう少しだけお待ちおくれやす(豹変)そうじゃ、貴様らも聞けい!これなるは玉藻の前、白面金毛九尾の茶吉尼天ぞ!たとえ何百年かかったとしても必ずや蘇って、この子を奪われた我が恨み我が憎しみ晴らしてくれようぞ!その時こそこの日ノ本四十八州ことごとく呪い尽くし、殺し尽くしてみせるわ!
背景が光に包まれる。
金平 うおっ!
玉藻 「オン キリ キリ カク ソワカ」「オン キリ キリ カク ソワカ」ははははははは、はははははははは!
光と轟音が渦巻く中、玉藻と酒呑童子、消えていく。やがて暗転。黒子登場。
黒子 かくして、よみがえりし酒呑童子の物語はここに閉幕いたしまする。本よりこの物語は「偽典」、正史にあらざるなれば、ここにて描かれていることごとくははかなき夢幻にござりまする。史実によれば、源頼義公はこの後奥州鎮守府将軍として「前九年の役」にて豪族安倍氏を平定し、その子八幡太郎義家、新羅三郎義光といった英雄豪傑もまた数々の武功を上げ、いわゆる「河内源氏」の祖となり、直系の子孫である源頼朝公によってついに武士による支配体制を確立するに至ったのであります。しかし、それはまた、別のお話。それでは最後にもう少しだけ、その後の物語にお付き合い下さいませ
黒子退場、暗転。




