第16話 スキルゲット!
「あらあら、随分と珍しい剣を提げていますね」
一旦ギルドに戻った俺達。
そのマスターの第一声がこれだった。
「マスター、知ってるの?」
「私も詳しく知ってるわけじゃないんですけどね。以前の魔王を倒した聖剣エクスカリバー」
「おぉ!」
マジか!
俺、大当たり引いちゃったんじゃね?
「……かもしれませんが、そこらの武器屋に売ってるとは思えないのですが」
思わずずっこける。
まぁ、確かにその通りなんだが……
もしかすると、この剣に呼ばれた気がするのも、気のせいなのだろうか。
「これだけ有名だとイミテーションはいっぱいあるみたいなので、何とも判別しづらいところです」
「うっ……やっぱ偽物もあるのか」
「そうなりますね。ただ、本物だろうと偽物だろうと、その判別は出来ないと思いますよ」
「えっ、何で?」
「剣は使用者を選ぶ、とでも言うんでしょうか。噂によると、全てのステータスがS判定でないと、真の実力を発揮しないとかどうとか」
「……そんな人間、今までいたの?」
「残念ながら、私は見たことがないですね。以前の魔王を倒したという人も、今となっては伝説レベル。当時のステータス記録も残っていないので、もしかしたら、本当にただの噂話なのかもしれません」
「そ、そうなのか……」
この感じ。
もしかしたら、騙されたのかもしれない。
そして、女の子2人の視線が痛い。
「でも、剣そのものは、私が見る限り、結構な業物だと思いますよ。どうですか、ハルナちゃん?」
「ま、まぁ……いいんじゃないでしょうか」
珍しくハッキリした答えをしないハルナ。
それを見て、満足げに笑うマスター。
その意図はなるほどよく分かった。
この剣は、実際見事なものらしい。
「でも、そのくらいの剣なら、1万リムも出せば鍛冶屋で作れます。あんな法外なお金を払わなくても……」
「あらあら、おいくらだったんですか?」
「50万リム」
「な、なるほどぉ」
明らかに引きつった笑いを見せるマスター。
……やはり、騙されたのか。
「ま、まぁ何だ。これで戦力の補強は出来たわけだ。リザの武器が出来次第、ダンジョンに行こうぜ!」
「いえ、まだやるべきことがあります」
ハルナが、強い口調で言う。
リザも、それに併せて頷いた。
「スキルスクロールを買いましょう」
「お、そうか。それもいいな。誰のを買う?」
「もちろん、ユウジのものです。どうあれ、高いものを買ったんです。それに見合うだけの活躍はしてもらわないと」
笑顔で、ちょっと皮肉を込める。
ただ、その声色に嫌味はなく、さっぱりした言い方だった。
まあ言われてみれば、それもそうだ。
高いもの買っておいて、何も出来ませんでした、ではどうしようもない。
「マスター。今あるスキルスクロールは?」
「ちょっと待ってくださいね」
後ろにある棚からリストを出して、俺達に見せてくれる。
スマッシュのような戦士系のものから、ヒールやファイアなどの魔法の類、剣を飲み込むなどという隠し芸のようなスキルまで。
色々載ってはいるが、全体的に結構値段が張る。
「とりあえず、剣を買ったわけですから、スマッシュは必要ですね」
「そうですねー。あ、あとこれはどうです?」
そう言って指をさしたのは「スナイピング」。
興味津々に見るのは、リザ。
「弓スキル、ですか」
「強化と相性がいいかもしれません。それに、スナイピングは、弓だけじゃなく、投石も含まれますよ」
「そうか、石投げか!」
今まであまり気にしてなかったが、風を切るだけであの威力を誇る強化スキルだ。
当然、運動エネルギーも強化されるはず。
であれば、石を投げるだけでも、かなりの威力を発揮するに違いない!
「よし、その2つを貰おう。おいくら?」
「3万リムですね」
「……結構するな。初期のスキルなんだよね?」
「スキルスクロールは、かなりの貴重品ですからね。なかなか安くは売れません」
マスターの声に冗談の音色が消えた。
「このスクロールは、人からスキルを吸い上げて作られます。つまり、吸われた人は、そのスキルを忘れてしまうのです。自身が積み上げた戦闘スキルを糧にしてお金を得る。そんな断腸の思いが、このスクロールには込められているんです」
「なるほど、それは確かに安く売れないな」
自身の経験を、そっくり売るようなものだ。
そんな思いを安く売るのは、その人に対して失礼だろう。
「それじゃ、3万リム」
「はい。では、まずスマッシュをどうぞ」
お金を渡すと、スクロールを渡してくれる。
「使い方は簡単です。紐を解いてください。それだけで、解いた人にスキルの使い方が身体に染み込みます」
「なるほど……よし」
俺は、スクロールの紐を解く。
その瞬間。
全身に走る電撃。
筋肉に、神経に、骨にまで通っているかのような電流。
肩から指先、戻ってきて胸、胴、脚、足先まで来たと思うと、一気に逆流し、最後は脳にたどり着き……
パン!
弾けた。
その瞬間。
スマッシュというスキルの、すべてを悟った。
「な、なぁ……ちょっと剣を振ってもいい?」
「はい、どうぞ」
興奮覚めやらぬ俺は、思わずそう言う。
マスターが快諾すると、俺は即座に剣を抜く。
その抜く仕草からして別格だった。
抜く早さ。
構えまでのタイムロス。
何より、この安定的な構え。
今までの俺とは別人だ。
「はぁ!」
剣を振る。
いや、振るだけじゃない。
手首のスナップの効かせ方。
切る一瞬の握力。
何よりも腰の入り方。
今までのへっぴり腰だった俺の剣筋とは大違いだ。
「おー……すごいですね」
思わずハルナ唸っている。
正直なところ、剣技でハルナにこんな声を出させるのは、俺自身も嬉しい。
「よし、次はスナイピングだ!」
俺は、続いてスクロールを使い、スキルをゲットしたのだった。
翌日、何ともすごいことに、リザのメイスが完成した。
鍛冶屋曰く。
「ま、この程度なら何とでもしてやるぜ」
とのこと。
この世界の鍛冶師、恐るべし。
そして何よりも。
「お、重すぎる……!」
奥から持ってきたメイス。
当然のごとく、台車に乗せられ、大の男2人掛かりで運んできた。
息を切らせている男を余所に、リザが片手で持ち上げる。
あまりの光景に、眼を丸くする男たち。
「うん、いい感じです。ミスリルも入ってるから魔法も使えますね」
その言葉に反応したのはハルナ。
「はっ? ミスリルなんて入れたんですかっ?!」
「それはそうです。純粋な鉄製じゃ魔法が使えないじゃないですか」
しれっと当然のように言う。
より怒りを露わにするハルナ。
そして、どういう意味なのか、よく分かっていない俺。
「まぁ、とりあえず、これで戦力の補強は出来たわけだ。さっさと行こうぜ」
「むーーーー…………ゆ、ユウジがそう言うなら」
かなり納得がいってない様子。
一方のリザは、勝ち誇るように吐息を漏らす。
そんな2人はさておき、外に出ようとすると。
「おっと兄ちゃん。お代がまだなんだがな」
「あ、そういえばそうだった。おいくら?」
「ほれ」
請求書を見せつけられる。
そこには。
「40万リム……?」
「ま、ミスリル10%配合で総計100キロにしたんだ。これでも随分安くしたんだぜ?」
チラッとハルナを見る。
何か言いたげだが、我慢しているようだ。
ここは、黙って払えと眼で訴えている。
「……まぁ、払うよ」
「おう、毎度あり」
当然といった表情で、親父は金を受け取った。