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深夜の密談

深夜、静まり返った部屋のドアが微かにノックされた。

ピピンが事前に伝えておいてくれた通り、リアムが「形式的な」夜の挨拶に訪れたのだ。


「セシリア様、お呼びでしょうか。夜分に失礼い――」


「……っ、いいから入って!」


私は半開きのドアから廊下の気配を素早く伺うと、驚いて固まっている彼の燕尾服の袖を掴み、力任せに部屋の中へと引きずり込んだ。


「せ、セシリア様!? このような振る舞いは、レディとして――」


「静かにして、リアム。……見て、これを見せたかったの」


ベッドの上で楽しそうに図鑑を眺めていたピピンが「お待ちしてましたぁ!」と跳ねる。私はクローゼットから、あの「甘い氷菓の剣」と「肖像画の破片」を取り出し、彼の手に握らせた。


リアムは、実体のないその指先で、壊れ物を扱うようにそれらを撫でた。


「……ああ、やはり懐かしい。この冷たさ、この感触。……ですが」


「何か感じない? あなたがこれを手にしていた時のこと、何か思い出せないの?」


私が身を乗り出して尋ねると、リアムは寂しげに首を振った。


「いいえ。何も感じません。ただ、昔はこの剣で『巨大な星をスライスして、朝食のサラダに入れた』ような……そんな空虚な記憶が浮かぶだけです。……申し訳ございません」


まただ。彼の記憶は、まだアルカード様の歪んだ魔法に塗りつぶされている。

がっかりして肩を落とす私に、リアムは少しだけ申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに私を見つめた。


「ですが、セシリア様。あなたが私のためにこれを探してくださったこと……そのお心遣いには、感謝の言葉もございません」


私はたまらず、彼の形の定まらない体を、そっと抱きしめた。

「来てくれてありがとう、リアム。……必ず、あなたを取り戻してみせるわ」


リアムも、戸惑いながらも優しく私を抱き返してくれた。その手触りは風のように淡かったけれど、去り際の彼の背中は、いつもの形式的な執事よりもずっと、生きた人間のように見えた。


リアムが去った後。


「……さあ、ピピン。行くわよ、あの扉へ」


私は証拠品をクローゼットへ戻すと、銀の鍵を握りしめた。ピピンは「密偵ごっこ開始ですぅ!」と、口元に指を当てて忍び足の構えをとる。


夜の城は、昼間とは全く違う顔を見せていた。

廊下に飾られた歴代の肖像画たちは、闇の中でその瞳を爛々と輝かせ、私たちが通り過ぎるのを執拗に追いかけてくる。まるで、裏切り者を見逃さないと誓っているかのように。


「くすくす……セシリア、見てください! あの絵のおじさん、鼻提灯出してますよぅ!」


ピピンは相変わらず恐怖を知らず、影の中でクスクスと笑いながら跳ねている。彼女の明るさが、今の私には唯一の救いだった。


ついに、あの書斎の扉の前に辿り着いた。

私の心臓は、薄い胸を突き破りそうなほど激しく脈打っている。私は震える手で銀の鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回した。


カチャリ。


冷たい金属音が響き、あんなに頑固だった扉が、吸い込まれるように奥へと開いていく。

私はピピンを連れ、一歩、その禁忌の闇の中へと足を踏み入れた。

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