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砂の本

開かれた書斎は、意外なほどに清潔で、温かな光に満ちていた。

高い天井まで届く本棚、そして壁を埋め尽くす肖像画。その中の一枚、顔の部分だけが剥がれ落ちていた肖像画に、私は迷わず手元の破片を重ねた。


(……やっぱり、これだったのね、リアム)


正しい場所に戻されたリアムの顔は、どこか安らかに見えた。そして、その並びの最後に飾られたアルカード様の新しい肖像画。他の見たこともない前任者たちの肖像画からも、なぜか懐かしい温もりを感じるのは、彼らもまた、かつてはこの場所で「人間」として生きていたからだろうか。


「……ピピン、アルカード様の言っていた『砂』を探しましょう」


部屋の中を驚きつつ、散策していると……。

本棚の側にある、本の山をが目に止まった。本の山をかき分けると、一見するとただの装飾品のような大きな水槽を見つけた。中にはサラサラとした黄金の砂がたっぷりと満たされている。


(砂に書かれた文字……。泳ぐ本棚……。もし、本そのものがこの砂の中に沈んでいるのだとしたら)


私は意を決して、ひんやりとした砂の中に手を突っ込んだ。

指先に硬い感触が当たる。砂を掻き分けて引きずり出したのは、装丁もタイトルも存在しない、一冊の不思議な本だった。


急いでデスクへ戻り、ページを捲る。

どのページを捲っても、そこには何も書かれていない。

「……えっ、白紙?」


困惑が広がり、ピピンと顔を見合わせたその時――。


――カツン、カツン。


廊下の向こうから、冷徹なまでに正確なリズムの足音が近づいてくる。


「っ! ピピン、隠れて!」


私は咄嗟にデスクの陰に身を潜め、ピピンも棚の隙間へと滑り込ませた。心臓の音がうるさすぎて、見つかってしまうのではないかと気が気ではない。


扉がゆっくりと開き、現れたのはミレーヌだった。

彼女は手に持った燭台を高く掲げ、鏡のような瞳で部屋の隅々を鋭く見渡している。


「……おかしいわね。扉が開いていたような気がしたけれど」


ミレーヌの視線が、私がついさっきまで触れていた『砂の本』が置かれたデスクの上をゆっくりと通り過ぎる。彼女の足音が、隠れている私のすぐ近くまで迫ってきた。


(見つかる……!)


私は息を止め、祈るように目を閉じた。

その時、足元でピピンが、何かを仕掛けようと身を乗り出すのが見えた。

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