秘密の隠匿
(リアムに見せなきゃ……。この肖像画に、彼はなんて答えるかしら)
私は懐に隠した肖像画の破片を握りしめ、雪のドームを飛び出した。けれど、廊下に出たところで、壁に掛かった大きな鏡……ミレーヌが、鋭く光を反射させた。
「あら、セシリア。そんなに血相を変えてどこへ? 公爵様が、あなたをお探しよ」
「ミレーヌ……。ええ、今すぐ向かうわ」
心臓が早鐘を打つ。アルカード様が私を探している? まさか、この探索がバレてしまったの?
冷や汗が背中を伝う。私は咄嗟に判断した。この「証拠」を持ったまま彼に会うのは、あまりに危険すぎる。
「ピピン! さっきの秘密基地に戻りましょう! 忘れ物をしてしまったの!」
「わぁーい! かけっこですねぇ! 負けませんよぅ!」
状況を理解していないピピンは、楽しそうに先を走っていく。
「ピピン、お願いがあるの。この巨大なシダの葉の前で待っていてくれる? 私、奥まで探し物をしてくるから。アルカード様には……内緒よ?」
「秘密のミッションですねっ! 了解ですぅ! ピピン、ここを一歩も動きませんよぅ!」
ピピンは短い手をビシッと挙げて、見張り役を買って出てくれた。彼女が自分の秘密基地を大切に思っているのが、今は幸いだった。
私は秘密基地まで急いで戻り、ゴミの山の中、マダムの靴やリアムの剣が埋もれていた場所へ、さらに深く肖像画の破片を押し込んだ。汚れた布きれやガラクタを被せ、一見しただけでは分からないように隠す。
私は一息つき、汚れを払ってシダの葉を掻き分けた。
――その、目の前に。
「こんなところで、何をしているんだい? セシリア」
「……っ!!」
すぐそこに、アルカード様が立っていた。
いつものように完璧な微笑を浮かべ、けれどその瞳は、私の背後にある「秘密」を透かし見ようとしているかのように、深くて暗い。
「アルカード様……。ええ、その、ピピンと探検ごっこをしていたのですわ。少し、道に迷ってしまって」
私は精一杯の笑顔を作った。心臓の音が、彼に聞こえてしまうのではないかと思うほど激しい。
背後でピピンが「シダの葉に隠れてアルカード様を驚かせる作戦」だと思い込み、気配を殺してくれているのが、今はただただ有り難かった。
「そうか。あまり奥まで行くと、埃でその美しいドレスが汚れてしまうよ」
アルカード様は私の頬にそっと手を添えた。その指先は、雪のドームよりも冷たく感じられた。
「自由にしていいと言ったけれど……。少し、君に頼みたいことがあってね。私の書斎まで、付いてきてくれるかな?」
「頼みたいこと……?」
「ああ。君にしかできない、とても重要な『お仕事』だよ。……さあ、行こうか」
拒絶を許さない優雅な手つきで、彼は私の手を取った。
私は一度だけ後ろを振り返ったけれど、シダの葉は静かに揺れているだけだった。
アルカード様の歩調に合わせて歩きながら、私は確信していた。
あの肖像画のリアム……あの傲慢な瞳。
もし、リアムがかつての「城主」だったのだとしたら。
アルカード様が私に頼もうとしている「仕事」とは、一体何なのか――。




