表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/69

冬の向日葵

ピピンの「秘密基地」から持ち帰った、噛み跡だらけの儀礼剣。

私はそれをドレスに隠し、廊下で給仕の準備をしていたリアムを呼び止めた。


「ねえ、リアム。……これ、見覚えはないかしら?」


影のような彼の前に、歪んだ剣を差し出す。

姿なき執事は、中身のない頭部をわずかに傾け、冷ややかな、けれどどこか遠い場所を見つめるような気配を見せた。


「……おや。懐かしいですね、セシリア様。私の記憶の中にある『甘い氷菓の剣』によく似ています」


「これ……あなたのものだったんでしょう? 誰がこんなにボロボロにしたの?」


私の問いに、リアムは感情の読み取れない声で淡々と答えた。


「さあ……。ただ、懐かしいとは感じますが、同時にひどく虚しい。何かが、決定的に足りないのです。……思い出というものは、これほどまでに味気ないものでしたかな」


リアムの反応は、拒絶というよりは「空洞」だった。

私は剣を引っ込め、胸の鼓動が速くなるのを感じた。


(懐かしいけれど、足りない……。ヴェノマさんも、赤い革靴の話をした時に、同じような『欠落』に怯えていたわ)


リアムの言っていた言葉を、必死に思い出す。

『冬に咲き誇る向日葵の下で、家族と苺の収穫をした』


常識で考えればあり得ない光景。けれど、この城の主であるアルカード様なら、そんな矛盾した絶景さえ、箱庭の中に作り上げているはずだわ。


「ねえ、ピピン。このお城に、向日葵が咲いている場所はないかしら?」


「向日葵ですかぁ? ありますよぅ! でも、あそこはとっても寒くて、ピピンの綿が凍っちゃうから嫌いです!」


ピピンに案内させたのは、庭園のさらに北端。

そこには、巨大な硝子細工のようなドームが聳え立っていた。


中に入った瞬間、突き刺すような氷の洗礼を受けた。

一面の雪景色。けれど、その降り積もる雪を突き破るようにして、背の高い向日葵が爛々と黄金の輪を広げている。

そしてその根元には、不自然に赤々と熟した苺が、氷の粒を纏って実っていた。


「……あったわ。リアムの言っていた、矛盾の庭」


私は震える手で、向日葵の影に隠された雪を掘り返した。

すると、そこには一枚の古びた**『肖像画』**の破片が埋まっていた。

描かれていたのは、騎士の礼装に身を包み、この城の玉座に堂々と腰掛ける――今よりもずっと傲岸不遜な瞳をした、生前のリアムの姿。


「……うそ。リアムが、玉座に?」


その瞬間、手首の「蛇の痣」が、これまでにないほど激しく脈打った。

頭の中に、アルカード様ではない「誰か」の嘲笑が響く。


『次は、お前の番だ』


「セシリア様ぁ? 何を見つけたんですかぁ? ピピンにも見せてくださいよぉ!」


背後からピピンの声。私は咄嗟に肖像画を隠し、作り物のような笑顔を浮かべて振り向いた。


「なんでもないわ、ピピン。ただ……少し、この苺が美味しそうだと思っただけよ」


私は凍りついた苺を一つ摘み、口に放り込んだ。

甘みなどしない。ただ、鉄のような血の味と、圧倒的な「敗北」の味がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ