検察審査会の人々10
JR高槻駅に向井さんと望月さんを送ってから俺はまた有馬さんのシエンタの助手席に乗り込み、有馬さんの家にまたお邪魔する。
先週約束していた学祭のビデオを皆で鑑賞するのと、直純君に宿題にしていた旅行プランの打ち合わせをすることになっている。
直純君が行きたい所を連絡してくれたのは翌日だった。
「はやっ!」と思わず返信したら、「海外ダメならスノボだよ!」と秒で返ってきた。
「じゃあ、良さそうなところ探してみるよ。いくつかピックアップしておくからお父さんと決めて」とやり取りをしていた。
二人が揃ってから俺の提案を話すことになっている。
審査会も緊張したけど、これからのプレゼンも緊張する。
滑るように静かに運転する有馬さんは徐にカーステレオに手を延ばした。
流れる曲はクラシックだった。
……何の曲だっけ?
「この曲、よくTVのBGMで使われてますよね」
「そうですね。高山君はTVもみるんだね。直純はずっとスマホばかりで殆どTVは見ないんだが」
「TVの方が画面が大きいから旅番組で景色がちゃんと分かるので。……ああぁ、この曲本当になんだっけ? 高校の音楽鑑賞で聞いて覚えたのに出てこない」
「パッフェルベルのカノン」
「…カノンですね、覚えておこう。いい曲ですね。なんか気持ちよくなれる? リラックス出来て、落ち着く」
リラクゼーション効果があって、気持ちが静まって優しくなれる音楽だ。
……効果がありすぎて寝てしまいそうだ。
「落ち着いてくるかい?」
「はい……」
「それは良かった。向井さんたちと別れてからまた緊張してきているのかなと思って。……直純の旅行プラン、頑張ってくれていたみたいだね。ありがとう」
運転しながらお礼を言われて俺は焦った。
「そんな、とんでもない! お陰で勉強になってます。身内じゃない人に初めてプラン提供するんで、何が好きで何が苦手か、移動手段とか他にもいろいろ聞いておきたいことがいっぱい出てきて。凄く、楽しかったです! 俺に機会を与えてくれて、ありがとうございました! 直純君に気に入ってもらえるかは不安ですけど、がんばります」
高槻から守口まではだいたい三十分ほどの移動時間で到着できた。
その間に直純君が普段どんな生活をしているのか聞いていた。
「あ、学祭のビデオですが、取り敢えず三本持ってきました」
「ありがとう。すまないね、息子のために」
「いえ、だって、知らないより知っていた方が学祭楽しめるじゃないですか。そのためだったらいくらでも貸しますし、説明もするし、相談だって受け付けます」
「それを聞いて安心したよ。夕飯食べていかないか? カレー作るって言ってたから」
「え、悪いですよ」
「いいんだよ。大勢で食べる方が楽しいから」
「はぁ。…ん? 大勢?」
「直純が今日のことを友達に話したら何人か集まったらしい。それと彼は今、本格的なカレーに凝り始めているんだよ。食べてやってくれるかい?」
「本格的なカレー? 本格的…何が入ってる? スパイスに凝ってるのか? 入れる野菜か?」
有馬さんが言う本格的カレーに俺は思考を取られた。
有馬さんが玄関ドアを開けて帰宅を告げると中から「おかえり」と直純君の声が答えた。
カレーの香りと「高山さんいらっしゃい」がおまけでついてくる。
「高山君も一緒に食べてくれるよ」
姿が見えてないままで靴を脱ぎながら会話が続いた。
それにしても、玄関には靴が多い。メンズサイズの靴たちが所狭しと犇めいている。
直純君の友達の靴。
何人いるんだろ?
「はい、あがって」
俺は促されて有馬さんの後に続いてリビングに向かった。
「お邪魔します、直純君」
部屋には六人の少年が俺の母校の制服を着てそれぞれが好きに寛いでいた。
「お邪魔してます!」
全員揃って有馬さんに挨拶をして「高山さん初めまして」と「お久しぶりです!」が俺に向けられた。
「お? こんにちは。直純君の友達? 見た事のあるヤツもいるな…?」
「はい、そうです。あ、オレと同じ高校から入学したのが前田で、鍋をかき混ぜてくれてる。後は全部中学組のヤツら」
キッチンで作業中の直純君が、物凄くテキトーな紹介をしてくれた。
「おいこら。なんつー紹介の仕方すんねん! 友永です」
「ほんまや。宮原です」
「信じられんわ。田中です」
「適当過ぎや。長尾です」
「去年の実行委員で高山先輩とお仕事一緒にしてました、山守です」
「そうそう、山守君だ。皆元気だな」
勢いのある自己紹介をポンポンと熟してしまうノリの良い友達だ。
「はい、めちゃ元気です! ナオがあの高山右近と知り合いやとは思わんかった! 本物のやん!」
茶色い髪の田中君が目をキラキラさせて叫んだ。
「あぁ…? あの高山ってなに?」
俺は首を傾げて不思議に思った。
「学校で先週の話をしたらクラスで大騒ぎになって。家に来るよって言ったら自宅訪問争奪じゃんけん大会が始まってさ。ウチのキャパ六人だから、そのチケット捥ぎ取るために五時間目の授業が遅れたんだよね」
直純君は話しながら計量スプーンで何かを慎重に量っている。
「実質チケット三枚やったし」
眼鏡をかけた友永君が渋い顔で文句を言った。
「しょうがないやん。高校組を最優先なんは分かるけど、学祭実行委員もいつの間にかちゃっかり数に入ろうとしてたら意見が出るて」
「実行委員の特権やろ」
「ズルいズルくないの議論が白熱して、実行委員の交代にまで話が飛んで行ったねぇ……」
鍋の前から離れない前田君がのんびりと会話に参加した。
「……先生が可哀そうやった」
「うん。冬木センセ授業妨害されてため息ついてたなぁ。あれは酷かった。完全無視」
「冬木先生かぁ。懐かし」
「おれたちの担任。遅れた分は終礼の後にギュッと詰め込まれてるから大丈夫!」
「あは、変わってねー」
有馬さんは実はキャンパーという設定。
審査会のメンバーの日常生活を描けるようにしたいです。
そして、いつの間にか読者さんがいてビックリです。
感想まで頂いて本当に嬉しいです。思わず深夜に大きな声を出してしまうところでした。
ありがとうございます。
素人が書いているので拙く説明不足な文章ですが、どうぞよろしくお願いいたします。




