第8話
最初の頃はエリーザ自身も戸惑っていた。けれども、次第に覚悟は固まっていった。
たまたま自分に備わっていた、歌唱という才能。
偶然、自分が熱中していたことだった詩歌の創作。
それらがこんな機会をもたらしてくれたのだから、活用しない手はない。
サヴァツキ家の親類や重臣たちからの期待が日増しに高まっているのも感じられて、もう後には引けなかった。
お茶会や晩餐会での話題についていくため、エリーザはいままで以上に教養を身に着けようと必死になった。
古今東西の古典を読み漁り、文学から科学まで、どんな話題でもついていけるようになった。外国語を勉強して、どんな場面でも洒脱な言い回しができるようにした。詩歌の創作も続けて新作を発表し続け、ダンスの腕も磨いて舞踏会での立ち回りを改善した。
ヨハン王子に気に入られている謎の存在。
最初の頃、社交界おけるエリーザの評判はそれだった。
しばらくすると、徐々に実力が名声に追いついてきているという噂が立ち始めていく。
エリーザも自分自身の信じられないような成長を感じていた。
いつしか、エリーザは高級貴族と変わらない扱いを受けるようになり、当初は乱心だと批難されていたヨハン王子の評判も才女を見抜く慧眼を持った王子としての評判に変わっていった。
あの娘、サヴァツキ家のエリーザがヨハン王子の結婚相手になる。
そんな憶測がまことしやかに囁かれるようになるまでに時間はかからなかった。
そんな噂に対して、アネットとその一族が強い対抗意識を燃やしていることは誰の目にも明らかだった。王室に自分の娘を送り込み、少しでも王政に影響を与えたいという、そのぎらぎらとした欲望をマリナ家の人々は決して隠そうとしなかった。
アネットは才女として知られていたし、アネットの親類たちも貴族として教養溢れる人物ばかりだったから、マリナ家の野望に対して嫉妬や羨望の視線は向けられても、未来の王太子妃とその一族としての資質を鼻で嗤う人間はいなかった。
ヨハン王子はどうするつもりなのだろう。
彼の真意がいつ公にされるのか、それが社交界において最も耳目を集める話題だった。
その頃にはもう、エリーザもヨハン王子と結婚したいという欲望を隠さないでいた。
その理由にはもちろん、王室に近づいてサヴァツキ家を盛り立てたいという気持ち、親類や家臣たち、騎士団や領民たちが豊かで幸せな生活が送れるようにしてやりたいという気持ちもあった。
でも、それ以上に、エリーザはヨハン王子のことが好きだった。




