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第33話

だから、微妙な表情のままで笑い続けるエリーザをじっと見つめていた。

アネットは何の前触れもなく、ふと笑顔を引っ込める。


「『アネットはアネットのままじゃだめだ。まずは金遣いの荒さを直さないといけない。王国には持て余せるようなお金なんてないんだから、贅沢を謹んで、軍備の増強や生産力の拡大にお金を遣わなくちゃいけない。貴族が心を入れ替えて、自分の所領で軍事や農業や経済に投資しないといけない。俺たちはその模範にならないといけないんだ。でも、やれと言われたってアネットにはそのやり方が分からないだろう? 農民がどうやって小麦を育てているのか、商人たちがどうやって商品を仕入れているのか、俺たちが下っ端の歩兵や砲兵にどれくらいの給料を払っているのか、どんな武器や軍服を支給しているのか、1000人の兵士が10日行動するのに必要な食糧はいくらか。アネットは知らないだろ。そんなこと、気にしたこともないだろ』


アネットはエリーザのことなどお構いなしにヨハン王子の真似を続けて、「気にしたこともないだろ」で言葉を切ると、今度は突然、自分自身の声に戻って話し始める。


「だって仕方ないじゃない。そういうことを気にさせないように育てられてきたのに。父上や母上の態度を見ればわかるわ。そういう煩雑な政務とは切り離された場所で、ひたすら高級貴族の娘として立派であるよう育てられてきたのに」


アネットは俯いた。頬にかかる影の形が歪んで、その陰翳がアネットの横顔をますます美しく魅せる。


もう一度、ヨハン王子のはきはきとした物言いにアネットの口調は戻る。


「『アネットには悪いけど、アネットとしての人生を歩いてきたアネットには悪いけど、これからはエリーザみたいになって欲しいんだ。そのための努力を惜しまないで欲しい』」


アネットは再びアネットの声に戻って、今度は、耳を澄まさなければ聞き取れないくらいぼそぼそと話し始めた。


「わたしも田舎の貧乏貴族に生まれればよかった。好きな人に好きになってもらえるように生まれたかった」


それから、とても長い沈黙がバルコニーを支配した。


こんな話をされた後に、「田舎の貧乏貴族に生まれればよかった」なんて言われてしまったらエリーザからは声をかけづらい。それなのに、アネットは口を真一文字に結んで俯いたまま黙している。


待って、待って、待ち続けて、もう限界だとエリーザは決意した。

上手い言葉を選べる自信はないけれど、何かを言わなければならない。


アネットを救ってあげられるような言葉を発さなければならない。

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