第12話
エリーザの身体はすぐにヨハン王子に抱きとめられて静止する。
夜の帳の下で、エリーザは王子に抱きかかえられていた。
どうやら地面に相当近い位置で足を滑らせたらしい。
「勇気を出してくれてありがとう」
ヨハン王子はエリーザを見下ろしながらそう言った。
王子の背後では三日月が後光のように輝いている。
エリーザは状況を悟ると、自ら王子の抱擁を振りほどいて草の上に跪いた。
「こちらこそ、命をお助け頂きありがとうございます。一生の恩義であります」
「遠慮することはないんだ。俺たちは結婚するんだから」
ヨハン王子は膝をつき、エリーザに手を差し伸べた。
でも、エリーザはどうしてよいか分からない。頭の中が真っ白だった。
こんなところでそんなことを言われたらしまったら。
王子の言葉が信じられなくて、口がぽかんと空いてしまって、全身が震えている。
「さぁ早く。誰かに見つかったらいけない」
王子に急かされ、エリーザはぼんやりとした思考のまま震える指先で王子の指に触れた。
ヨハン王子はエリーザの手を握り、ぐっと力を込めてエリーザを立たせる。
そのまま、ヨハン王子に手を引かれ、エリーザは王宮を囲む木立の中を歩いた。
湿った土と木の根っこのせいでとても歩きづらい。
エリーザが躓かないように、王子は巧みにエリーザの身体を支えていた。
「小さい頃はよくこのルートで脱走したんだ」
ヨハン王子は問わず語りにそう言った。
木立を抜けると、そこには一頭の馬が待っていた。馬の横には男性が立っていて、エリーザたちの姿を確認すると、手綱を右手に持ちながら膝をついた。
「乗ったことある?」
「いつも自分で手綱を引いて領内を巡回しています」
「さすがだ。頼りになる。アネットじゃこうはいかない」
ヨハン王子はにやりと笑い、先に乗るようエリーザに促した。
エリーザは鐙に足をかけ、ヨハン王子に身体を支えられながら馬に跨る。
ヨハン王子もすぐに続いて、エリーザの後ろに跨った。
王子はエリーザの左右から手を回して手綱を取る。
ヨハン王子の胸がエリーザの背中に密着する。
「ありがとう。恩に着る」
王子は男性にそう言うと、熟練の手綱さばきで馬を駆けさせた。
しばらくは王宮に沿った道を進み、やがて右折して街路に入ると、王宮は瞬く間に遠くなった。
「さっきの人は誰なの?」
「シュタイン卿の従者だよ。シュタイン卿が協力してくれてるんだ」
シュタイン卿は数少ないエリーザ派の高級貴族だった。
そして、ヨハン王子はどこまでも馬を駆けさせた。
王都は遠影に消え、黒い毛並みの駿馬は夜の街道をとんでもない速さで駆けている。




