8話 『鉄血』
「エリックがんばれよ~」
ハルはエリックに声をかける。鉄血さんが何をするかわからない以上、一番手はやりづらいだろう。
「まかせておけ」
が、恐れも見せずにそう言ってエリックは前に出る。
エリックは長剣(の木剣)を使うようだ。
鉄血さんも長剣だし実力が分かりやすくていいな。
エリックが踏み込み、距離を詰めて大上段から斬りかかる。
鉄血は容易に回避する。
エリックはそのままの勢いで何度も切りつけるが全て回避か受け流されてしまう。
長剣を暴風のように軽々振り回すエリック。かなり鍛えているようだ。
一端距離をとったエリックだが、一息つくと再びまっすぐ鉄血さんに向かって突撃する。
間合いに入る一歩前、エリックの足の下の地面が発射台のように鉄血さんに向かって盛り上がり、その勢いも利用して一気に加速する。
「ふむ」
鉄血さんも思わず声が出たようだ。
「でやぁぁぁあ!」
当たるかに思われた迅速な一撃はすんでの所で鉄血さんに回避されてしまった。
「悪くない。ではこちらからもいくぞ」
そう言うと鉄血さんは、斬りかかり続けるエリックの攻撃を回避し、又は受けながら、合間に、コン、コン、と木剣でエリックの体をつついていく。
「うっわ…えげつねぇ…」
どれだけ攻撃し続けても一発も当てることさえできず、その合間にここが隙だ、と言わんばかりに優しく木剣で撫でられる。
あまりにも大きすぎる実力差。
「よし、もういいだろう。試験終了だ」
この地獄のような試験は鉄血がそう言うまで10分程続いた。
「…くっ…ありがとうございました…」
疲労困憊、意気消沈した様子のエリック。
あれはきっついなぁ。全員ドン引きしてるぞ。
「よし、次の受験者!前に出ろ」
まさか…と思ったが、案の定、他の受験者も同じように、どの武器で挑んでも結果は同じで死屍累々となった。
「無理だろこれ…」「駄目だ…精進が足りぬ…」色々な声が受験生から聞こえてくる。
「よし、次が最後だな。出てこい」
お、俺の番か。
「ハル、迂闊な攻撃は隙になる、気を付けろ」
エリックが声をかけてくれた。
「ありがとよ!エリック、お前の敵は俺が討つぞ!草場の影で見ていてくれ!」
「勝手に殺すな!やっぱやられてこい」
エリックは呆れた顔で手を振っている。
「ハルです。よろしくおねがいします!」
言うや否や、俺は駆け出した。
「はっ!」
喉を目掛けて突きを放つが回避される。
「……。」
鉄血は瞬きもせずにかわす。
さらに足払いから切り上げ、突きと連続で放つが全て余裕をもって回避される。
隙をみて、牽制で炎のナイフを投げてみるが打ち払われてしまった。
間合いを覚えてもらえたかな…?お得意のアレやってみるか
再度斬りかかり、回避される直前に、炎の魔法で剣先を伸ばす!
「くらえっ!」
「むっ!」
体を捻り、なんとか回避する鉄血さん。
くそっ、アレもかわすか…すげぇな。急に動き速くなったぞ。どーしたもんかな。
あ、でも鎧に少し焦げ目ついてる。3ミリくらい。
「こちらもいくぞ!」
ドSモード始まった!こっからがやべぇ!
攻撃し続けるも、当たらない。
だが、鉄血さんの攻撃もなんとか回避するか受けられている。
「ほう」
鉄血が声を漏らす。
回避してるぞアイツ…
すげぇな…
他の受験生も驚いているようだ。
そらそうだ、
「とにかく最初は防御からだ。回避しろ、受けろ、一発もくらうな。一発くらったら終わりだと思え」
って師匠に耳にタコができるほど言われ続けてそればっっっかやってたからな。
回避と受けだけは自信あるぜ!
攻撃しあい、回避しあう状態は数分続いた。が、
「疲れてきたか?乱れてきたな」
徐々に木剣をもらい始めている。
「…ふむ。よし、ここまでだ」
くそっ、一発だけでもクリティカルいれてやりたかったのに!
「…はっはっ…ありがとうございました!」
「無理だろコレ…」「トラウマになりそう…」「全員ダメか…」「鉄血ってそーゆー意味なのか…?」などと様々な声が聞こえ、肩を落としながら全員ギルドに戻っていった。
意気消沈した受験生がギルドの中で休憩していると鉄血さんとギルドマスターが入ってきた。
鉄血さんが口を開く。
「さて、受験者の皆お疲れ様。では早速結果発表といこうか。無事、全員合格だ」
「「「…え?合格?」」」
絶対不合格だと思ってたのに…あのえげつねぇのはなんだったんだよ!?
「まぁやり方は多少乱暴だが、ドラン君のような高ランク冒険者に教えてもらえる機会はそうそうないぞ?よかったな?それとCランクで狩猟に出れば命の危険は一気に跳ね上がるからね。常に精進を忘れないように。ってことで全員合格!おめでとう!」
久々に見たなギルドマスター。
「あぁ、全然うれしくねぇぞ…まんまとやられた…」
なんだろうこのやるせない気持ち…しかし強かったな…もっと頑張らないと。
狩猟解禁されて無茶して死ぬ奴がいるから釘刺したってとこか。
「ハル、君が一番戦えていたな。私も精進するよ」
エリックがハルに声をかけてきた。
「俺は順番最後だったからな、動きを見れてたのが大きかったのさ。お互い頑張ろう!」
そう言って握手をしてエリックと別れた。やっぱいい奴だったな。
なんて考えていると
「終わったかー?」
眠って少しすっきりした様子の師匠がやってきた。
「合格しましたけど一発も当てることができませんでした。すごいですね」
「そらお前、受験生の鼻を折るのが目的だからな。だから合格は問題ないって言ったろ?」
当然だ、といった顔をしている師匠
「それもよく分かりましたよ…」
個人的にはもう少しやれるかと思っていただけに悔しい。
「悔しそうな顔してんな?お前は防御はマシだが攻撃が雑だからなぁ。まだ当てれないだろうよ」
「それもよくわかりました。あ、でですね、武器と防具欲しくて、お金稼ぎたいんですけどクエスト受けてもいいですか??」
「そういやお前ギルドの装備だったもんな。Cランクだからもう貸与してもらえないし丁度いい。今から見に行くぞ」
そう言って歩きだす師匠。
あぁ、Cランクからは借りれないのか。あれ、でも…
「師匠、俺あんまりお金持ってないっすよ」
そう、街中で雑用してたときのお金が少しあるだけで、森にこもってたからお金ないんだよね。
「大丈夫だ、お前が魔物倒した報償金がまだ残ってるから」
「なるほど、…ん?…はぁー!?それ聞いてないぞオイ!あっ逃げやがった!」
「ガキが金持ってもろくなことにならんだろ!ハッハッハ!」
次話、ようやくロボット初登場です!