60話『たまり場』
ギルドマスターの部屋を出て一階に向かうハル。
階段を降りる毎に喧騒が近づいてくる。
まさかもう始まってるのか…?さっきギルドマスターに聞かされた所なのに。
一階に降り、恐る恐る酒場の方へ顔を出すと、
「やっと降りて来やがった!」「遅いから始めてんぞ!」
ハルに気づいた何人かが大声をあげる。
「えぇ~…ギルドマスター待たなくていいんですか??主催でしょ??」
いきなりの熱量にはハルもたじたじだ。
宴会が始まってしばらく経っているのだろう、既に出来上がっているようだ。
「ギルドマスター?なんも聞いてねぇぞ~お前のかみさんと話してたらこれが楽しいのなんのって、いつのまにか宴会が始まったんだよ!」
男の一人がいきさつを話してくれた。
どうやらギルドマスターの予定とは別に、勝手に始まった宴会らしい。
なんともまぁ、ここの人達らしい…
「あっはっは!ギルドマスターが聞いたら驚きますね!俺も参加させてください!」
笑いが止まらなかった。マイペースで賑やかで、いつも変わらない。
「よし、せっかくなんだ、雷神の話を聞かせてくれ!世話になった奴も多いしな」
つり目の男がハルに言う。
「そうですね。そうしましょう!」
と、近づいてくる、見慣れた人…
「ハル君、セキチクぶりだね!」
「ロカビリーさん!セキチクでは助かりました」
セキチクに救援に来てくれたロカビリーがいた。
いや、ロカビリーはニアフォレストがホームの冒険者なので居て当然だろう。
「いやいや、ハルくんの力がなければどうなってたか分からないよ。本当にありがとう。で、いつ結婚したの?綺麗な女性だね、ミナさん。おめでとう!」
ロカビリーが自分の事のように嬉しそうに尋ねてくる。
「い、いや、結婚はしてないっすよ…若干困ってます」
ぎこちない笑顔でハルが答える。
「えぇ!?ミナさん、すごく丁寧に『ハルがお世話になってます…』って挨拶して回ってたよ!?」
「いやー…はっはっは…」
ハルも笑うことしかできない。ミナは行動力がありすぎてさらにそれが早すぎる。
「あ!ハル!!戻ってきたんなら声かけてよね!」
ミナがハルに気付いたようで近づいてくる。
「ちょっとミナ!?なんかある事ない事言ってない!?」
ミナに詰め寄るハル。
「予定だから、予定。大丈夫。本当になれば嘘じゃないわ。嘘つきにしないでね♪」
ミナは楽しそうにウインクしてくる。
いやそんな予定もないんですけど…
「みんなー!主役が来たから乾杯するわよ!!あなた、音頭をとって!」
ミナがハルの隣にいたロカビリーに話を振る。
「む、私か。いいだろう!全員、グラスを持ったかな??では、『竜』の撃退と、『雷神』への感謝と、『炎刃』の昇格のお祝いに、乾杯!!」
「「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」」
一斉に声があがり、グラスがぶつかる音がする。
そこからはもう、飲めや騒げやの大盛り上がりだ。
「炎刃!竜はどんなだった!?」と聞きにくる者もいれば、「俺は昔『雷神』に助けられてよぉ…」と昔話に花を咲かせる者。
その場の皆が、お互いに。それぞれに、楽しく話し合った。
このギルドの仲間たちと出会えて本当に良かったと、ハルは思うのだった。
さらに、途中からのギルドマスターの参戦と、無礼講飲み比べ対決で一層盛り上がるのだった。
◇
深夜近く。宴も終わり、半数は帰り、残り半数はそのまま酒場の床を暖めている。
ハルはミナを背負って宿に向かっている所だ。
さすがにミナを床に置いていく訳にはいかない。
「ハ~ル~♪良かったねぇ~♪」
背中のミナが幸せそうに呟く。
「どうしたのー?」
ハルが問いかけると、
「皆いい人そうじゃない。あなたとアルフレッド様の周りはいい人ばっかりね。人望よ、人望」
「そうかな。…そうかも。ありがと」
ハルは笑って答える。ミナもそうだしね、と思ったが、あえて言わなかった。
楽しそうなミナの鼻唄が夜空に吸い込まれていった。
◇
宿屋に着き、部屋へ行くハル。
扉を開けると…
「やっぱりベッド一つかよ!!予感はしてたけどさ!おかみさん信じちゃってるじゃねぇか!」
ツッこみを入れずにはいられないハル。
だがハルは焦らない。
ミナは既に酔いつぶれて寝てるので安全だし、自分も眠すぎてそれどこじゃない。
二人で野宿も一緒にしたし、ボディタッチで多少免疫も付いてきたものだ。
「ふはは!未だ負け知らずよ!おやすみ!」
そう言ってミナをベッドに寝かせると、自分も隣に寝転ぶ。
楽しかったな、久しぶりに皆に会えて。ロカビリーさんも受付のお姉さんもギルドマスターも元気でよかった。
そして、師匠がどれだけ愛されていたのかを知ることができた。
よかった。
と物思いに耽っていると、隣で向こうを向いて寝ていたミナが寝返りをうち、ハルの方に向く。
さらに「にゃ」と一言言うと、ベッドの上で猫のように丸くなる。
端正な顔立ちに、さらさらの髪。ピクピクと動く猫耳。
………少しくらいなら大丈夫か。
いつもやられてるし、たまには仕返しもいいだろう。
ハルは静かに、そっとミナの頭に触れる。
髪を撫で、猫耳を撫でる。
あぁ、…気持ちいいなこれ…適度にモフモフだ…最高…
実家で飼っていた猫を思い出す。
ここ好きだったよな…と、ハルは耳の付け根後ろ辺りを優しく掻く。
「…にゃ……ん…ぁっ……」
ミナの口から吐息が漏れる。
くすぐったかったかな?起こしたら可哀想だからもう止めておこう。
コタツで猫を撫でてる時の懐かしい感覚を思い出した。
たまに寝てるときに触らせてもらおう。
そう考えながら、ハルの思考は睡魔に飲まれていくのだった。
◇
誰かの頭の中
(よし、自分から触ってくれた!触ることに抵抗は無くなってきてる。もう少しね…)
猫はニヤニヤしながら再び眠りに付くのだった。
明日は朝9時です!よろしくお願いします。




