3話 『遭遇』
あれから一月ほどでDまで上がることができた。
ここまでは誰でもできることなのでランクアップも早かった。
バイトみたいな雑務やお手伝いも多かったが、少しずつ要領も分かってきたし、Dになってからは採種や小動物の狩りや駆除なんかもやった。
とりあえず生きるだけならなんとかやっていけそうにはなってきた…と思う。知り合いもできたし。
初めての街の外での薬草採集などでは上のランクの人が指導に付いてくれたし、週に一回のギルドでの勉強会と戦闘訓練にもとてもお世話になった。
本当に教育がしっかりしている。
依頼が終わるとブレスレットも非常に微かにだが光るので、微量ずつでも貯めれているようだ。
しかし、いつまでかかるかも分からないで、できるだけ早くランクをあげて大きな依頼をこなせるようになりたい、のが本音である。
そんなことを受付のお姉さんに言ったら
「Cランクの狩猟系からは報酬も上がりますけど、危険度も高くなるので複数でパーティ組む方がいいですよ~。同じような人がいるので声かけてパーティマッチングしておきますね♪」
とのことだった。ありがたい…。こんどなんかおみやげ持ってこよう。
とりあえず今日は街の外、西側の森での薬草採集に勤しむ事にした。
が、三つほど年下のルーキーグループが既に居たので、仕方なく南の方で薬草を探すことにした。
「よし、なんとか依頼の規定数は採ったな。少し早いけど戻ってもう一件なんかやろうかな~たまには肉食いたいし」
薬草を持ち、帰り支度を整え歩き出そうと踏み出す。
…ガサ…
森の奥からなにか音が聞こえる。
…この付近は大きな動物はいないはず。
ギルド貸与のナイフを片手にゆっくりと様子を伺う。
ギルドの初心者講習では、大きな動物や魔物がいたら戦わずにとにかく逃げる、できたらなにがどの辺りに居たかギルドに報告できれば花丸、と教えられた。
動物かもしれないし確認だけしてみよう。
小動物なら晩御飯が豪華になる!肉!!
◇◇
…なんて考えた自分を殴りたい…。
簡単に言えばデカい、カマキリ。2メートルくらい?
どー考えても無理!!だってほら、木を斬ったよアイツ!?
カマキリの鎌って挟むもんだろ!?なんででかい木が豆腐みたいにスパスパ切れてるんだよ…
それに引き換えこっちはナイフ一本。…豆腐サバイバーかよ。
鬼の子なら倒すかもしれんが俺はもちろん逃げ一択に決まってんだろ!!
どう考えても倒せる相手ではない。
さて方針は決まったので、すぐ逃げてギルドに報告して鬼の子にでも来てもらおう
と、移動を始めようとした瞬間、
パキッッ
枝を踏んでしまったらしい、乾いた音が響く。
……大丈夫だ、まだあわてるような時間じゃない……
そーっと振り返り、カマキリを見ると、がっつりと見つめ合ってしまった。
一歩後ずさると、カマキリは一歩踏み出す。
「くそぉぉぉぉおぉぉぉおぉ!!!!」
とにかく全速力で走る。とにかく逃げる。森ではでかい図体が邪魔して
かギリギリ追い付かれないスピードで逃げれている。
街への方角とは違うが、追い付かれて貪られるよりはマシだ。
今はなんとしてもアイツを撒かないとまずい。
走っていて目の前が明るくなったかと思うと、大きな川にでた。
いきなり地面が1メートルほど低くなっており、飛び出した勢いでそのまますっころぶ。
…この場所はまずい…ひらけてるし逃げ場ないし…
なんて考えながら慌てて起き上がり振り返ると、案の定カマキリは
臨戦態勢で、こちらに突っ込んできた。
すばやく横っ飛びをしてなんとか突進を回避する。
おぉ、ちゃんとギルドの基本戦闘訓練行っててよかったな…
体で覚えた事は咄嗟に動けるもんだ。
なんて考えながらナイフを抜き小さく構える。
とりあえずちょっと斬って怯んだら逃げる。これしかないな…
カマキリの右腕の袈裟斬りを踏み込みながら横に回避し、
横腹に斬りつけようとした瞬間、カマキリが拡げた羽に視界を遮られる。
勢いのまま切りつけるがゴムのような質感で羽を斬ることはできなかった。
離れようとするが、時計回りに旋回するように鎌の峰で背中を打たれ、数メートル吹き飛ぶ。
「がっ!っは…」
木に叩きつけられ全身が痛いが、体勢を立て直して逃げなければまずい。
立ち上がろうとなんとか顔を上げると、今まさに鎌を降り下ろさんとするカマキリが見えた。
「くそぉぉぉ!」
もう終わり?妹達を助けるために神様まで出て来て、大したこともできずに死んで終わり?
いやだ…いやだ、いやだ!
カッ!!
視界に光が見えたかと思うと、突然巨大な炎の渦がカマキリを飲み込む。
さらに間髪いれず追い討ちをかけるように、空から蒼白い雷がカマキリへと突き刺さる。
炎の渦による熱風と、雷の轟音。閃光と焼ける匂い。
ギチギチと音を立てながらカマキリは倒れた。
「…助かった…のか…?今のは一体…」
訳が分からず呆然としていると、森から1人の男が出てきた。
「今のは……ん、なんだてめぇは…?」
そこでハルの意識は途切れてしまった。