一話 『始まり』
読んでいただいてありがとうございます。
Zzz…
風が頬を撫で、揺れた草が耳を擽る。
「…ん……ん?」
晴俊はあまり寝起きがよくない。いつも妹に起こされていた。
「はっ!…どこだここ?」
起きて辺りを見回すが一面原っぱで、小さな林のような場所にいるらしい。
「ってことは夢じゃなかった訳だ…」
とりあえず周囲は…なんにもないな。拓けてるからなんか来れば分かるかな。
持ち物は…ゲーム機に入ってた時の格好だから何にも持ってないか。
裸一貫サバイバルなんてできないし、できるだけはやく街に行かないとまずいなぁ。
自分が死んだら全て終わりだ、元も子もない。気を付けないと。
食べれるもの探しながらとにかく街を探そう。
その辺の小石を数個ポケットに入れ、適当な長さの木っ端を握る。ないよりはマシ…と思いたい。
よく言えば楽天的、悪く言えば物事を深く考えない俺はそれなりになんとかなるだろうと行動を開始した。
が、行けども行けども森が続く。
幸いなのはリンゴに良く似た果実を見つけ、どうやら食べれそうな事と、川にたどり着き、(平気かどうかは別にして)飲み水を確保したことだった。
川沿いには町や村があるとどこかで聞いた気がしたので川沿いに下って行くことにした。
暗くなってきたので動くのを止め、火を付けれないかとかなりの時間チャレンジしたがついに付けることはできず、薄暗い林の中で、川の音を聞きながら木の根を枕に眠った。
火も布団もなく硬い地面は寝にくい事このうえなかったが、満点の星空を見ていると不思議と落ち着いた気分になった。
それから丸1日、歩き通し、
「道っ!!!道だ!街道か!?てことはこれ行けば町がある!」
ようやく見えた希望に、自然と足が早くなる。疲労は忘れてしまっていた。
そして、しばらく歩いていると…。
「君、こんなとこで何してるんだい??」
後ろから、馬車に乗った40歳くらいの人の良さそうなおじさんが話しかけてきた。
「人!人だ!助かった…」
感動と安堵で思わずしゃがみこむと、おじさんは心配そうに話しかけてくる。
「大丈夫かい!?なにがあったんだ!?」
「魔法の事故に巻き込まれて気付いたらこの林にいたんです。場所もわからず食べ物もないのでとにかく人のいる所に行きたくてさ迷っていました」
これは来たときから考えていた。神は剣と魔法の世界と言っていたから魔法があるのは間違いないだろう。
記憶喪失パターンも考えたがボロが出そうなのでこっちにした。何より、ほとんど真実だし。
「それは大変だったな、それほど大きな魔法を使えるものなのか?何という国だい?」
「ニホンと言う、小さな島国です。」
「聞いたことない国だな。まぁ事情はわかった。ここはファンテジア王国だよ。聞いたことあるかい?」
「残念ながらないですね」
「そうか…これからどうする??」
「もしお邪魔でなければ次の町まで同行させてほしいです。仕事を探したいです」
「もちろん構わないよ!話し相手が欲しかったんだ!」
かわいいおじさんだなオイ。だけど親切な人で助かった…一時はどうなるかと思った…
「じゃあ乗って!あとこれあげるよ」
乗り込むとおじさんが大きなパンをくれた。
「お金持ってないんです…」
「いいよ!サービスサービス。あ、名前聞いてなかったね。私はトーマスだ。君は??」
「ありがとうごさいます。晴俊です」
「おぉ!うちの息子はハルって言うんだ!偶然だねぇ」
「じゃあハルでいいですよ!トーマスさん、本当にありがとうございます。よろしくお願いします」
「ちょうどうちの息子も同じくらいの年なんだよね!ほっとけなくてさぁ」
…やっぱいい人だな、この人。
「あ、この国、この大陸の事できるだけいろいろ知りたいんですけどいいですか?」
「もちろんさ!知ってる限り教えてあげよう!」
そうして馬車は進んでいく。楽しい空気と希望と共に。
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