第037話 呼集
王都東門に飛び込むラン。
どうやらバイクは事前に隠す程度には頭は冷えているらしいが…
そのままの勢いでメイン通りを爆走し冒険者ギルドの扉を文字通り体から突っ込み破壊寸前の大きな音を立ててギルドに飛び込んでくる。
「あら、ランちゃん早かっ…」
“カーリさん!
ギルドに依頼出す方法って教えて!!”
どうやら帰ってくるまでに「ギルドに報告する」から「ギルドに依頼して救出する」に頭の中ではなっていたようだ。
「ランちゃん落ち着いて!
いったい何があったの?」
カーリの落ち着いた声にようやくある程度冷静になったようで『ファミアス森』の出来事を話し出す。
「ちょっとまって、それギルドからの依頼のないようだね?」
その声になぜ森まで遠征したのか思い出すラン。
どうやら完全には頭はさめてなかったようである。
「ちょっとまっててね、ギルド長読んでくるから。
その間に落ち着いてね?」
そう言うとカーリは奥に行きギルドマスターの部屋に繋がっている通話機でギルドマスターを呼び出す。
普段あれほどのランの慌てた姿を見たこと無かった他の冒険者達もギルドから逃げ出すのをやめてランの周りに集まりだした。
ちなみにランがギルドに来ると高確率で馬鹿な新人や何も知らない者がランをからかうため騒動が起きる、そのため基本ランがギルドを訪ねるとギルドから逃げ出しておくのが最近の冒険者達の行動だったりする。
おかげでギルド周りの飲食店はランが帰るのを待つ冒険者達で繁盛するためランを商業神扱いする者まで出始めていた。
◇◆◇◆◇◆
カウンターの上に羊皮紙を置き簡単なファミアス森の地図を書いて説明するラン。
カウンターの向こう側にはギルドの職員達がそしてランの方にはランを囲むように真剣な顔をした冒険者達が集まっていた。
“ほぼ森の中央部に魔眷属の村らしいものがあります。
そして周辺の森の中には確認できただけで魔物やゴブリン・オークなどの魔眷属が160~170体ほど…”
「そんにいるのか…」
「「「ガヤガヤガヤ…」」」
ランの説明に驚く冒険者達。
“それだけじゃありません。
中央の村らしい場所に『コボルト』族と『ケット・シー』族らしい獣人の方々16人を確認しました。
恐らく汚れた姿や首輪からみてどこからか奴隷として連れて来れられたのだと思います。”
「「「!!!」」」
さすがにこの言葉には冒険者達も言葉をなくした。
この国では奴隷は公式には『犯罪奴隷』しか存在しない。
『犯罪奴隷』とは罪を負ったものが一定期間国に奉仕することが義務付けられた服役者のことだ。
別に終身奴隷をするのではなく服役期間のみである。
言ってみたら国家の与える仕事が刑罰であり『奴隷』の言葉は使われていてもきちんと個人の保障はされている。
ただ世の中文字通りの『奴隷』も存在している。
多くは違法行為である。
当然この国はそのような『奴隷』を認めていないため捕まれば問答無用で即死刑である。
規模によっては一族全員が適用されることもある重犯罪だ。
それでも『奴隷』というものはなくならない。
ある意味それを求めるものがいる限りなくならないのであろう。
ただそれらの犯罪は全て人が行ったものである。
魔眷属が行っているとなると話は別である。
かれらも『奴隷』を『労働力』として使うことも多いが『家畜』と見ているものも多い。
だからそれを知っている冒険者達が言葉をなくしたのだ。
“この集団の中心となってる敵の種族は『グリーム・オーガ』種です。
数は90体前後、正確には数は確認できていません。”
ランのこの言葉が止めとなった。
ギルドマスターのロイドはランの報告に即座に決断する。
「アルドマン!
現在依頼を受けてない王都在住のランクB以上の冒険者達に対して緊急呼集をかけろ!
ミケルは王室にこの件を報告しろ。
ラフドマンは班の全員を使ってギルト部隊を編成しろ!
一時間後までに準備を終わらせろ!」
ロイドの指示でギルド員達が慌しく動き出す。
そしてそれは冒険者達も同じであった。
『冒険者ギルドに所属する冒険者は緊急ギルド要請に理由無き場合は極力参加』
冒険者になる時サインした宣誓書に書かれているこの一文にしたがって冒険者達も動き出す。
◇◆◇◆◇◆
1時間後ギルドカウンター前は冒険者達で溢れかえっていた。
戦闘は高ランク限定でも低ランクでもやることはいっぱいある。
ゆえに手空きの王都在住の冒険者達が軒並み集まった状態になっていた。
ランはあの後一度広場に行き簡易携帯食になるものや道具の一部を仕入れていた。
そして今回ランの格好はいつもと違っていた。
普段はこの世界で購入した皮の装備一式か自衛隊の迷彩服装装備である。
だが今回はゲーム時代の格闘装備身にまとっていた。
皮装備ならランク的には合っているのかも知れないが今回の敵には不十分な装備レベルでしかない。
かといって自衛隊装備人に見せるのは不味すぎる…。
特に銃火器にいたっては…。
その為今回はゲーム時代の装備を使うことに決めたのだがここでもランはモフモフが奴隷にされていたことに頭に血が上っていたようで大ポカをかましていた。
ランが着ている装備は格闘術やナイフ戦闘を基本とした超至近距離戦を意識されて作り上げた防具である。
しかもゲーム時代の高レベル対応のハイスペック装備である。
エンチャントされたステータスブースト系も大概な物でもあるがその素材が問題だった。
『ミスリル』・『ミスリル・シルバー』・『アダマンタイト』の3種から出来ておりこの世界では『ミスリネ・シルバー』を除いて製品化できる技術は一般からは失われていた。
ごく一部で秘伝中の秘伝として伝えられているらしいが世に出てくるのはほとんど遺跡からの発掘品であるAFのみである。
ましてや今彼女が装備しているような強力なエンチャントが付けられている物は軒並み『神話』時代の遺跡の物でありそのほとんどが各国の国宝である。
『ミスリル・シルバー』
別名『聖銀』。
銀を特殊な方法で神(魔力の光属性)の祝福を与え魔法属性を強化した金属。
祝福の仕方は各神殿の秘中とされまたその祝福された銀を加工する方法もドワーフの秘中とされているためほとんど作り出されることは無い。
一部の教会を除き聖職者とドワーフはなぜか仲が悪い。
『ミスリル』
別名『灰色の輝き』
ミスリル・シルバーのモデルとなった金属。
ミスリル鉱石その物は銀採掘の時稀にあたることがある。
ただ大魔法時代よりしばらくしてから後精製方法が失われ現在では鉱石が見つかっても精製して加工する技術が存在しないといわれている。
ただ、たまに新品の物がどこからとも無く登場する(それを使っている者はどこで手に入れたか絶対に口にしない)ため精製方法を伝える者達がいるのではないかとうわさされている。
ただ一度精製した物なら現在でも高ランクのドワーフなら武器などを作れるらしいがそもそもミスリルの素材そのものが各国の王室がほとんど保管しており出回らない。
『アダマンタイト』
別名『飼い馴らせない鉱物』
魔力伝導率は『ミスリル』にわずかに劣るものの硬度においてはダイヤモンドに匹敵する硬さを持つ。
古代には硬さで劣らぬ上にダイヤと違い成型可能な金属であったために重宝される。
ただやはり『ミスリル』と同じく大魔法時代崩壊時にその技術は失われ現在では加工技術は伝わっていない。
火山性地質から『アダマン鉱石』が取れるのは有名だが現在は加工技術が無いため取引されることも無い。
ただ『神話』・『大魔法時代』の遺跡から出土する装備は全て高価な金額が付くものの全て各王国が抑えている。
ただし不明情報ながら一部個人で使用しているとの情報もある。
こんな伝説級の素材を使った装備を身にまとって登場したのだから『鑑定』技能持ちは驚く。
もっとも何で出来ているかわかっただけでほとんどが『???』状態のものである。
これはランの装備が高レベル鑑定技能持ちぐらいしか鑑定できないものでありそれよれなおさら伝説旧装備と判定される原因にもなっている。
全体的には白を基調とした服とズボン。
布は『ミスリル』を溶かして絹の糸に浸透させて作られた『ミスリル糸(II)』で織られた物でありその表面に同じようにして作られた『ミスリル・シルバー』の糸で精密な花柄模様が縫われている。
ただしこの花柄よく見ると細かなサンクリット文字で書かれた魔法陣になっており全体に強固な防御系魔法が施されていた。
また篭手と脛当て(レガース・シンガード)はアダマンタイト製。
しかもこれも裏宛の布地とアダマンタイトそのものに魔法陣が描かれ複数の魔法が付与されている。
胸当てと靴もアダマンタイト製らしくこちらも小細工がされている。
さらに胸当てにはナイフの装備用の鞘が逆さ付けに取り付けてある。
見た目はかなりの軽装ではあるがなにしろ作ったのがラン本人である。
ギミックも当然複数付けられている上に魔法のエンチャントもこれでもかと取り付けられている。
しかも付与魔法によりステータスブーストも鬼のようなブースト数値である。
もっともこれらの数値はこの世界の人間にはスキルレベル不足で『???』状態のオンパレードでしか見えないだろうが。
ただそれでも見る者が見れば詳細はわからなくてもとんでもない装備品だとは判るものだ。
そしてギルド職員は目の肥えたものばかり…
さらに冒険者もランクAにもなると今までの経験上からスキルはなくても目が肥える。
そういった者からすれば今のランの装備は国の宝物庫から出てきたといっていいような状態であった。
モフモフ至上主義のランちゃん、既に若干切れてます。(笑)
『ミスリル・シルバー』・『ミスリル』・『アダマンタイト』
上記の金属の設定をVR編とは変更してあります。
また『ミスリル・シルバー』と『ミスリル』を若干こちらの都合で別の金属として設定しなおしました。
『ミスリル・シルバー』は『ミスリル』と同じ効果を狙ってミスリルの精製方法を失った後世の人々が銀を使って開発したものと思ってください。




