3 バーナードの帰還
明けて1月25日。
ラクリマはまた早朝の祈りに出かけ、Gは屋根の上で歌った。Gはこの朝、無理をしすぎて変に喉を痛めてしまった。
ヴァイオラもまた、河原の坊ちゃん塚に石を積みに行った。石を積んで帰ろうとしたところ、宿からバカ殿の一行が出て行くのを目撃した。説得は失敗したらしい。バカ殿は朝からバカっぷりを発揮し、「だれがリーダーだと思っているんだ!」などと喚いていた。
あの男につける薬はないな、と、思った瞬間、ダルヴァッシュと目が合った。律儀な彼は、ヴァイオラに対して非常に済まなそうな顔をした。ヴァイオラは黙って彼に礼をした。彼らが無事に戻ってくることを──バカ殿のためではなくセロ村のために──神に祈った。
朝食の席で、Gの声が出ないらしいことに皆気づいた。ラクリマはGの喉を診て、「いったい何をしてこんなに痛めちゃったんですか」と尋ねたが、Gは口をパクパクさせるだけだった。何しろ声を出したくてもちょっとも出ないのだ。
「はちみつでもあると良かったんですが…」
ラクリマがそう言うのを聞いて、アルトが「ちょっと待っててください」と立ちあがった。彼は「森の女神」亭のウェイトレス、ヘレンに器を借りて離れへ向かった。それから少しして、器にいっぱいのはちみつを持って皆のもとへ戻ってきた。
キャントリップだな、と、セリフィアとヴァイオラは察した。小魔法のなかに甘いものを作り出す手があったのを、セリフィアは思い出した。実際、アルトはそれを使ったのだった。わざわざ離れに戻ったのは、小魔法を使うところを不用意に人目にさらしたくなかったからだ。
「ありがとう、アルトさん」ラクリマは喜んでこの贈り物を受け取り、Gにいくらかでも食べるように勧めた。「直るまで無理して声を出そうとしちゃだめですよ。きっと明日には声も出るようになりますから」
Gはコクコクとうなずいた。その脇で、ラクリマは今日も薬草採りに出かけたい旨を伝えた。セリフィアはまた護衛につくと申し出た。
「あ、あのう、ボクもご一緒させていただいていいでしょうか?」
と、同道を申し出たアルトの横で、Gも口をパクパクさせた。ラクリマがGに「一緒に行きます?」と訊くと、コクコクと首を縦に振ったので、4人で森へ入ることになった。全員、ヘレンにお弁当を頼んだ。
ちょうどそのとき、村長の息子ベルモートが現れて、ヴァイオラに「次の護衛は明日からお願いします」と告げた。木こりたちは明日から3日間、森へ入るらしい。ともあれ今日は終日フリーだということだ。ヴァイオラはロッツに「盗賊ギルドに古文書をばらまいている奴がいるみたいなので調べて欲しい」と頼んだあと、かねてから気になっていたことを確かめるべく、ガギーソンのところへ話をしに行った。
「ちょっと訊きたいんだけど」とヴァイオラは尋ねた。「ここって『そっち』の斡旋もしてるの?」
宿の若主人ガギーソンは、諾とも否ともとれる返事しか返さなかった。
「女性のあなたに必要とは思われませんが」
別に咎めだてしようというわけじゃない、と、ヴァイオラは肩をすくめてみせた。
「何かあれば力になります。彼女たちのために」
仮令ガギーソンが信頼できる雇い主であったとしても、所詮男である。同性でなければ言えない悩みも痛みもあるだろう。そうした折には少しでも自分を役立ててほしいというヴァイオラの本心が伝わったのか、ガギーソンは少し構えを解いたようだった。彼はとつとつと、だれに語るともなく語った。
「もともと彼女たちはその役込みで、同意のうえで引き抜いた。それに将来のことを考えて、村人たちには内緒にしてある」
もう一言、ガギーソンは思い出したように付け加えた。
「君たちのリーダーは勘違いしていたようだが」
冷ややかな声を聞いて、坊ちゃんのことだな、と、ヴァイオラは推察した。ありそうな話だ。坊ちゃんのくせに妙なところで勘が良かったから。
「何かあったら声をかけてください」と言い置いて、ヴァイオラは離れに戻った。
冬晴れの日差しは、枯れ枝を通り越してGたちの上にさんさんと降り注いだ。うっかりすると日焼けしそうなくらい、今日は天気が良かった。森のとば口に当たるこの近辺では、まだ上空を遮るような木々もごくまばらにしかなく、そのうえ葉のすっかり落ちてしまった木が多いために、十二分に太陽の恵みを感じることができるのだった。
「あ、あった…」
アルトは目的の、やや大ぶりの低木を見つけた。一年を通じて緑の葉を絶やさない木で、夏にはうす桃色の花をつける。満開の様子はそれは美しい。アルトは花弁が5枚の一重咲きの花しか見たことが無かったが、もっと濃いピンクで八重咲きの種類もあるという話だ。いずれにせよ、共通しているのは、その葉や茎や幹に強い毒の成分を含むことである。間違って口にすれば、人間の大人でも数分で心臓が止まるという。
アルトは手袋をはめてから、低木の緑の軸を採取しだした。後ろからGが何をしているのか聞きたそうな顔で覗き込んできたので、「吹き矢に使うんです。あの、危ないですから、Gさん、折ったところは素手で触らない方がいいですよ」と丁寧に受け答えした。Gはコクコクと頷いて、おとなしくアルトのやることを眺めた。
ラクリマは木ではなく地の草を探していた。運良く、腫れ物によく使う薬草を見つけたので採取した。
(これがあればGさんに湿布を作ってあげられる…)
量としては4回分くらいだろう。今晩と、明日2回と、明後日の朝1回もあれば十分だろうと見当をつけ、次は血止めの薬草を、と、ギザギザの柔らかい葉を探しだした。
ラクリマがせっせと薬草を採っているのにはわけがあった。彼女は次に皆がフィルシムへ行くとき、自分はそこでみんなから離れて、もとの修道院へ帰るつもりだった。非力な自分が抜けたところで大して影響はないだろうが、怪我をしたときの回復役が減ってしまうことは確かだ。それで、今のうちに自分が残せるものを残そうと、毎日薬草の採取に励んでいたのだった。
そんなこととは知らず、セリフィアは見晴らしのよいところに腰掛け、ラクリマやGやアルトを見守っていた。気の緩む瞬間もなくはなかったが、周囲に目を配り耳を配って、危険に備えた。戦士であり男である自分がみんなを守らなければ。口にはしなかったが、一つの死を経て、彼の中で戦士としての自覚と責任感とが明確なかたちを取りだしていた。
夕方、バーナードたちが帰還した。
ちょうどヴァイオラが離れから本館へ夕食を食べに行くところで、疲れた様子の一行が向こうからやってくるのが目に入るなり、彼女は密かにディテクトマジック〔魔法を見破る〕とディテクトイビル〔悪を見破る〕の呪文を唱えた。イビル、つまり敵対心の探知はだれも引っかからなかった。魔法の探知のほうは、もともと魔法の品の潤沢な一団でそこかしこが輝いていたが、シーフのウィーリーが着ている革鎧は新顔だった。今回の戦利品らしい。
「お帰りなさい」
ヴァイオラが寄っていくと、途端にジャロスが嬉しそうな顔をした。
「立ち話は俺がしてるから、ブリジッタをとにかく休ませないと」
確かに、彼女は疲れた顔つきをしていた。ジャロスは、バーナードも含めた他のメンバーを先に宿に入らせてからヴァイオラに向き直り、「会いたかったよ」と明るい声で言った。
「その後どうだい? みんな無事か?」
「…いえ。一人、亡くなりました」
「そうか…」
ジャロスはヴァイオラをじっと見つめた。
「立ち話するようなことでもなさそうだな。入らないか?」と腕を差し出したので、ヴァイオラは素直に手を取られ、二人して「森の女神」亭へ入っていった。カウンターが彼らの定位置だった。
「そちらの成果はどうでしたか」
「ああ、割に時間がかかったけど、戦利品はそこそこだし」と、ジャロスはテーブルで食事しているウィーリーを指し示した。「魔法の鎧でね。あれ一つきりだが、まあまあだろ。それに…」
「それに?」
「今回のヤツはブリジッタが腕を上げるのにちょうど良かった。彼女にはいい経験になっただろう」
相変わらず、仲のいい一団だと感じながら、
「どの辺りに行ったんです?」
と、ヴァイオラが尋ねると、ジャロスはちょうどハイブコアのあるだろう方角を指した。ヴァイオラは脳裏に閃くものを感じて、「まさかと思いますが、エイトナイトカーニバルに行ったんですか?」と軽く訊ねた。
「ああ、そうだよ」ジャロスも軽く答えた。「君たちも行きたいのかい?」
まさかバーナードたちまで……ヴァイオラは複雑な心境だった。こんなにもエイトナイトカーニバルの影響力があろうとは。
「…バーナードさんに話をしたいんですが」
ヴァイオラは向こうのテーブルを見やりながら、ジャロスに告げた。バーナードとブリジッタは部屋にでもいるのか、テーブルにはシーフのウィーリーと、魔術師のレイと、僧侶のスコルしかいなかった。
「俺じゃあ駄目かい?」
「リーダーの方にお話ししたほうがいいと思うので…」
「伝言なら伝えとくぜ」
ジャロスが妙に食い下がるのを無視して、ヴァイオラは「明日にします」と、話を終わらせようとした。
「俺じゃ役不足か…」
ジャロスは実に残念そうに杯を飲み干した。
と、扉が開いて、件のバーナードとブリジッタが入ってきた。バーナードはカーレンを背負っていた。察するに、キャスリーン婆さんから幼い息子を引き取ってきたらしい。
余計なおまけもついてきた。村長の息子で、ブリジッタの弟にあたるベルモートである。彼はブリジッタの疲れた様子も気に留めず、「姉ちゃん、無事だったんだ! 心配したよ。どうだった? 大変じゃなかった?」などと他愛ない話をさんざん仕掛けていた。ブリジッタは怒るでもなく、「これが私の選んだ道だから」などと、いちいちまっとうな答えを返している。
(やれやれ)
ヴァイオラは心中、溜息をついた。他人に対しては気弱なくせに、身内に対しては無神経とは、村長もいったいどういう躾をしたやら……この息子が村長の跡を継ぐのはどうにも難しそうだ。村長が、ブリジッタを跡取りにと思っていた理由も、なんとなく理解できたような気がした。
食事の間中、ベルモートはブリジッタにつききりで話しかけていた。
やがて、「ブリジッタ」と、スコルが、「カーレンも眠いようだから、3人とももう部屋へ上がったほうがいい」うまくベルモートとの間に割って入った。
「あっ、疲れてるのに、ごめんね、ねえちゃん」
ベルモートは全く悪びれた様子もなく、反省のかけらも感じさせない声音で言った。定石どおりに発言してみただけのようだ。
「いいのよ。じゃあ、悪いけど先に休ませてもらうわね」
ブリジッタは立ちあがり、カーレンとバーナードとともに階段へ向かった。
ヴァイオラは咄嗟にバーナードのそばに寄り、「明日、お話ししたいことがあるのでお時間をください」と丁寧に頼んだ。が、バーナードはけんもほろろに「こっちには用がないが」と返してきた。それでも一応最後に「わかった」と言ってくれたようではあった。
ヴァイオラはカウンターに戻って、「よほどお疲れなんですね」と口にした。
「そうか? いつもあんなだぜ?」
「でも、この間、うちの坊主にはあんなに愛想が良かったのに」
セリフィアに対しては、バーナードは愛想良くいろいろ話していたようだったので、ヴァイオラがそうこぼすと、ジャロスは「ああ、あれは特別。俺だってあれには驚いてるんだ」と言い訳するように言った。
「それより、バーナードに何を話すんだ? 俺じゃだめ?」
ジャロスはなおも食い下がってきた。
「だいたい、次に何をするか考えるのは、俺とレイがやってるんだぜ」
「あなたとレイが?」
ヴァイオラはちょっと驚いて訊き返した。
「ああ、そうだ。だいたい俺やレイがいろんなネタを仕入れて、あれこれ考えて絞り込むのさ。バーナードはその中のどれにするかを決めるだけだ。ま、奴が選んだ仕事はたいがい縁起がいいというか、ハズレがないし、本当に危ない目にも遭わずに済んでる。それで縁起を担いで、決めるのはバーナードに頼むが、実際に切り回してるのは俺とレイなんだぜ」
ジャロスは誇らしげに語った。ヴァイオラは羨ましかった。バーナードは本当にいいリーダーらしい。そんなリーダーに恵まれてみたいものだ…。と、こんなところでないものねだりをしても仕方ない。とりあえず、ジャロスに話してみてもよさそうだと彼女は気を変えた。
「お二人ともお疲れですか?」
「いいや、ちっとも。やっと話してくれる気になったのか?」
ジャロスは嬉しそうに言って、ヴァイオラをレイのいるテーブルに誘った。
レイとジャロスを前にして、ヴァイオラは彼らの留守中に起こったことをかいつまんで話した。レイはいちいち大仰に驚いてくれ、ジャロスは熱心に聞いてくれた。
「それで、どうしても一度フィルシムへ行きたいんです。もしあなた方に差し迫った予定がなければ、しばらくの間、セロ村に滞在していただけないでしょうか?」
ヴァイオラがそう頼むと、拍子抜けするくらい簡単に、二人はその話を受けてくれた。
「もともとしばらくいるつもりだったし……義父と子の仲をとりもつってのもやってみたいし、な」
どこまで本気なのか、ジャロスがややおどけて言った。
「たぶん大丈夫だと思いますよ」と、レイも請け合った。「ブリジッタの村が大変なわけでしょう。バーナードも喜んで引き受けると思います」
「ありがとうございます。では私たちは、明日からの木こりの護衛が終わったら…」
ジャロスがヴァイオラの言葉を引き取って言った。
「その護衛も俺たちがやってやるよ」
「ありがとう。ではお言葉に甘えて、明日、フィルシムに発ちます」
そうと決まってからが忙しかった。ヴァイオラは「森の女神」亭を出てすぐ、村長宅へ向かった。護衛の女戦士フェリアに取り次いでもらうと、村長は少ししてナイトガウン姿で現れた。
「村のことをお考えください」
ヴァイオラはそう前置きしてから、バーナードたちが戻ったこと、彼らが村への常駐を引き受けてくれたので、自分たちは明朝フィルシムへ出発することを伝えた。
「わかった。強くなって戻ってきてくれ。待っとるぞ」
村長のその台詞の裏に、「君たちのために涙を飲む」というニュアンスが聞き取れた。ジャロスではないが、この機に村長とバーナードとの関係が少しでも良くなればいいと願いながら、ヴァイオラは「できるだけ早く帰るようにします」と、口にした。
村長は、3週間分の給料45gpと、食糧18日分とを明朝ベルモートに届けさせると約束してくれた。初めのころからは考えられない好待遇だった。
ヴァイオラは次に、離れに戻って仲間に明朝出立する旨を伝えた。
彼女が部屋に入ったとき、アルトは日中手に入れた植物から毒を抽出し、吹き矢に塗布するように加工していた。専門に習ったわけではなく、お師匠様がやっていたのの見よう見まねだったので、ずいぶんと手つきが怪しかった。それでも、門前の小僧式とでもいうのか、加工は上手くいっているようだった。その隣では、ラクリマ手製の湿布で首をぐるぐる巻きにされたGが、身動ぎもせずにそれを眺めていた。
ヴァイオラは、一同に荷物をまとめておくように言ってから、ヘルモークの家へ向かった。ヘルモークにも明日出立する旨を伝え、ついては以前の約束どおり、虎を1日だけ貸してほしいと頼んだ。ヘルモークは「ああ、いいよ」と軽く受けた。ヴァイオラはまた、ハイブコアの位置を示した地図の作製もヘルモークに頼んだ。
「簡単なもので構いませんから。できれば村の人にも配っていただきたいんです」
「そうしよう」
ヘルモークは相変わらず軽い調子を崩さなかったが、帰り際に「気を付けろよ」とヴァイオラに一言告げた。
明朝の出発を告げられてから、ラクリマは神殿へ出かけた。明日の朝は朝課ができないだろうから、代わりに今から祈りをあげに行こうと考えたのだ。
別に毎日朝課を行わなければならないわけでもない。修道院の院長もよく「形式にとらわれるな」と皆を戒めていた。だが、今の彼女にはその形式が必要だった。
神殿にあがりこむと、またヴィセロがそそくさと出ていこうとした。「あの、一緒に…」いても構わないとラクリマが言うより先に、彼女は逃げるように神殿を出ていってしまった。ラクリマはひとつ溜息をついてから祭壇の前に進み、祈りをあげ始めた。
二時間ほどして、夜もとっぷりと更けたころ、ラクリマは立ち上がり、祭壇に背を向けた。神殿を出たところで立ちつくす人影に気づいた。バーナードのパーティの僧侶スコルだった。
「あの…どうなさったんですか? 中にお入りにならないんですか?」
ラクリマがそう尋ねると、スコルは静かに答えた。
「あなたの邪魔をしてはいけないと思って」
どうやら彼はラクリマが祈りをあげているので、遠慮して外で待っていたらしかった。悪いことをしたかしら、と、ちらと思いながら、ラクリマはスコルに言った。
「神の家はいつでもだれにでも開かれていますのに」
スコルはそれを聞いて、美しい、得も言われぬ笑みを浮かべた。「では」と言って、ラクリマの脇を通り抜け、神殿に入っていった。
(あら? じゃあ今度はスコルさんがお祈りされるんだわ。ヴィセロさんに言っておいたほうがいいかしら…)
ラクリマは辺りを見回したが、ヴィセロの姿は見あたらなかった。少し探すようにしながら、いつもと違う、宿の裏手に回る道を取った。
「森の女神」亭の裏に出たとき、彼女の目にある人物が映った。ヴィセロではなかった。金髪の背の高い男が梟を空に向けて放つその瞬間を、彼女は目撃した。男はふっとこちらを向いた。ジャロスだった。
「参ったな。見られちゃったか…」
ジャロスは言いざま、ずいとラクリマに近づいた。
「今見たことはだれにも言わないでくれるかな? 君の仲間にも、俺の仲間にも言わないでほしいんだ。内緒だよ。いいね?」
彼はやや強引な口調で迫り、ラクリマの顔を覗き込んだ。ラクリマは気圧されて、よく考えないうちに「はい」と答えていた。ジャロスはニッと笑い、
「よしよし。素直な女の子は好きだよ」
と、ラクリマの頭をひとつふたつ叩いた。
「そういや、スコルを見なかったか?」
「スコルさんなら、神殿でお祈りを…」
「ああ、やっぱりな」と、ジャロスは神殿の方角に目をやった。「あんなショックな話を聞かされちゃあなぁ」
「ショックって…何があったんですか?」
「君たちの話だよ。あいつは敏感でね、ひとの死に弱いんだ」
ジャロスはレスタトの消滅のことを言っているらしかった。ラクリマはそっと俯いた。無意識に、両手をこすり合わせる仕草をしていた。
「何か言ってたかい?」
「いいえ…でも、お祈りを始められたようでしたから、しばらくかかると思います」
「そっか。おっと、引き留めて悪かったな」
ジャロスは、「行ってもいい」というような素振りを見せた。ラクリマが離れのほうへ体を向けようとすると、彼は「内緒だよ」と念を押した。ラクリマはうなずいてからその場を離れた。梟のはばたく影を脳裏から消したくて、離れに戻るなり布団に潜り込んだ。




