2 バカ殿ご登場
二人が酒瓶をマルガリータに返していると、バンと扉の開く音がした。続いてドヤドヤと人が入ってきた。どれも初めて見る顔だった。
「ちゃんと道案内しないからこんな時間になっただろうが」
不機嫌そうな男の声がした。高慢な声だった。それ以上に、身に帯びている金ぴかな鎧が目立った。麗しくもきらびやかな鎧で、戦闘には実に不向きそうだった。その男の横で、シーフらしき男がもみ手で謝っていた。
「何もないところだな」男は舌打ちした。それからヘレンとマルガリータを見て、「女二人揃えてるから、まぁいいか」と呟いた。
「ご主人、宿を所望したい」
謙遜の欠片もない態度で、男は言い放った。(バカ殿だな)とヴァイオラは思った。男たちの一行は全部で5人のようだ。
「3階に二間続きの部屋がございますが」
この宿の主人、ガギーソンは落ち着いた様子で応対した。男が「よし」と頷くと、横のシーフがすかさず重そうな袋を取り出し、即金で宿代を支払った。その潤沢ぶりをみてヴァイオラは、ますますバカ殿だと断じた。
「お食事はどうなさいますか」とガギーソンが尋ねると、シーフが男に耳打ちした。
「食事は向かいの『木こり』亭のほうが美味いとあります」
「そうか」男はガギーソンに「食事は結構だ」と言った。「部屋へ案内してもらおう」
「ヘレン」
ガギーソンの呼びかけに、ヘレンが一行を案内しようとそばに寄った。
「ずいぶんこの村に詳しそうですね、ここの料理がまずいって知ってるなんて。初めてじゃないんでしょうか」
ヴァイオラはそっとヘルモークに話しかけた。ヘルモークは気のない答を返した。
「知らないぞ、あんな奴らは。詳しいっていっても、盗賊ギルドだったらそういうガイド情報も持ってるだろ」
この新顔パーティ5人のうち二人は僧侶のようだった。一人は女性で普通の聖章を提げている。もう一人は男性で、1ランク上の、銀の聖章を提げていた。二人ともおそらくガラナークの神官であろうことが見て取れた。
「これは美しいお嬢さんがいるではないか」
バカ殿がヴァイオラに気づいて歩みを進めてきた。ツカツカと寄って、
「もしよろしければ食事のあとでお酒でも」
と、誘いをかけてきた。
「生憎、連れとこれから飲みますので」
ヴァイオラは素っ気なく断ったが、相手は話を自分に都合良く解釈する達人だった。彼は仲間たちを振り返り、「俺は彼女と飲むから、お前たちは先に食事に行ってこい」と命令した。
ヴァイオラはそれを無視して、銀の聖章を持つ神官に話しかけた。
「恐れ入ります。ガラナークの神官の方とお見受けしますが」
「ダルヴァッシュ、お前に用らしい」
バカ殿はその神官に声をかけた。まるで自分を通さなければ、挨拶すらかわせないようだ。それからまた、他人を無視したやり方で名乗りだした。
「まだ名乗っておりませんでしたな。私、ガラナークはディフェンシブグリーンのラニーニ=ド・ラミーニの嫡子、エリオット=ド・ラミーニと申します」
ディフェンシブグリーン──緑色騎士団とは、隣国ガラナークにおける騎士団の一つである。その名の通り、拠点の「防衛」が主な仕事だ。地方領主などもこの騎士団の騎士から選出されることが多いという。
だがこの際、ラニーニだろうがパニーニだろうが知ったことではなかった。ヴァイオラはエリオットから差し出された手に、隣で様子を見ているヘルモークの手を握らせてやった。ヘルモークは、「ヘルモークだ、よろしくな」と、調子よく挨拶を済ませた。エリオットは「汚らわしい」とでも言いたげにヘルモークの手を払った。エリオットのそうした振る舞いは一切無視して、ヴァイオラはダルヴァッシュと呼ばれた神官に、自分も神官としての礼をとった。
ダルヴァッシュは(気が強くて面白い女性だ)と、好意を持ってヴァイオラに礼を返した。
「ダルヴァッシュ、許可する。話していいぞ」
バカ殿がまたくだらない合いの手を入れてきた。こんなリーダーで全くご苦労なことだ。ダルヴァッシュはそんなことには慣れっこの様子で、やっと自己紹介した。見積り通りガラナークの神官だった。
「少しお話するお時間をいただけますか?」
ヴァイオラの問いに、ダルヴァッシュはちらりとエリオットを見やった。バカ殿は実に高慢に「構わん」と言い放った。ヴァイオラは「こちらへ」とダルヴァッシュをテーブルの一つに誘った。バカ殿のおまけが付いてきたが無視した。この際、富の平等な配分を少しなりと実行することにして、ヴァイオラはガギーソンに「いつものやつを」と、酒を注文した。
「いつものやつ」と聞いて、ガギーソンは店で一番高い酒を出してきた。ヴァイオラが来てからというもの、この高価な酒の消費量が激しい(ヴァイオラは自分で支払ったことがないが)。もう少し仕入れを増やさなければ…と、思いながらテーブルに持っていくと、エリオットはラベルを見て「これがこの店で一番高い酒なのか?」と不服そうにのたまった。それから、「まぁいいだろう」と言い、服の隠しに手を突っ込んで「これしかないな」と小さな宝石を取り出した。
「釣りはいらん」
100gp相当の宝石を手渡されて、ガギーソンが閉口するのがヴァイオラにもわかった。たかだか2gpするかどうかの酒に100gp出して「釣りはいらない」とは、「深窓の令嬢」なら言い訳も立とうが、よほど無分別な男らしい。相手が困るとは考えてもいない。
何か言おうとするだけでエリオットが不機嫌になるので、ガギーソンはこの場で釣りを返すのは諦めたようだった。先ほど支払いをしていたシーフとでもあとで話をつけるのだろう。
「お話とは?」
やりとりが一段落したところで、ダルヴァッシュが丁寧に訊いてきた。
「ガラナークのアンプール家の方が神殿に入っていると思いますが」
アンプールとは、レスタトの実家だった。ロッツが調べてきてわかったのだ。
「名門アンプールの方が神殿に、ですか? あ…ええ、その……」
「グィンレスターシアード=アンプールのことか?」主家への配慮から逡巡するダルヴァッシュを遮って、バカ殿が答えた。貴族だけあってこういう方面の記憶には長けているらしい。彼は容赦なく続けた。
「アンプール家の落ちこぼれだろう。奴がどうかしたのか?」
ヴァイオラはことさら丁寧な口調で返した。
「彼の預言について調べておりまして」
「ああ!」バカ殿は無用に大声を張り上げた。「少年に神託が降りたとか神殿が騒いでいたが、奴のことか。…狂言じゃないのか?」
ヴァイオラはエリオットに構わず、ダルヴァッシュのほうを向いて尋ねた。
「預言は、神殿ではどのような扱いを受けていたのでしょうか」
「申し訳ないが、旅が長いので私もよく知らないのです」
「そうですか……要職にいらっしゃる方だと思ったものですから。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
「この聖章ですか」ダルヴァッシュは少し苦笑いしたようだった。「これは父から譲り受けたものなのです。私自身はまだ若輩者にすぎません。」
「おお、せいぜい精進しろよ」
精進するのは貴様のほうだろう、と、ヴァイオラは心の中でバカ殿に返したが、口にはしなかった。
先ほど3階の部屋へ荷物を置きに行ったメンバーが階段を下りてきた。ちょうどいいから、と、バカ殿とダルヴァッシュも合流して「木こり」亭へ夕食を食べに行ってしまった。
「さてと、帰るか」
と、腰を上げたヴァイオラに、ヘルモークが話しかけてきた。
「もう帰っちまうのか? もうちょっと待ってると面白いぞ、きっと」
「何が?」
「今の奴ら、酒が入ったらきっと一悶着起こすぞ。見ものじゃないか」
「……じゃあ」と、ヴァイオラは再び腰を落ち着け、ヘルモークとまた杯を交わしだした。
「ヴァイオラさん、遅いですね」
離れの部屋でラクリマが縫い物の手を止めた。
「どうせ飲んでるんですよ」
Gは明るく受け流したが、ラクリマは、「でも…心配だからちょっと見てきます」と言って、糸と針をしまいこみ、立ち上がった。
「じゃ、私も」
「ボ、ボクも行っていいですか?」
Gとアルトと一緒に、ラクリマは部屋を出た。ちょうど、エリオットたちが「女神」亭の中へ入っていくところだった。
「バーナードさんたちじゃありませんね…」
「また新しいひとですね〜」
などと言い合いながら、自分たちも「女神」亭に入った。
ヴァイオラは奥まったテーブルでヘルモークと飲んでいた。
「ほらぁ、やっぱり飲んでるだけじゃないですかぁ」
Gは愉快そうに言った。ラクリマはほっとしたように「そうですね」と相づちを打った。二人はヴァイオラのそばまで寄って先に寝るかもしれないと断ろうとしたが、テーブルについていたエリオットに遮られた。
「これはこれは。鄙には稀なる美しいお嬢さんだ」
エリオットはGに目を向けて声をあげた。
「どうぞこちらへ。一献酌み交わしませんか」
Gはまるきり誘いを無視してヴァイオラのほうへ動きかけた。と、向こうのシーフがそれを咎めて「エリオットさまがご所望です。どうぞこちらへ」とGの腕を掴もうとした。
途端にGは殺気を放ち、ダガーを抜いた。シーフは慌てて手を引っ込めた。「おっかないお嬢さんだ」と呟いたようだった。
エリオットが立ち上がって近づいてきた。
「ギルティ、無粋なことをするな」
ギルティと呼ばれたシーフは揉み手をしながら後ろに下がった。エリオットはGの前に立ち、ヴァイオラのときと同じように名乗りをあげようとした。
「失礼しましたね、美しいお嬢さん。私、ガラナークの由緒正しき騎士団、ディフェンシブグリーンのラニーニ=ド・ラミーニの嫡子で、エリオット=ド・ラミーニと申します」
Gはそれを聞いてきっぱり言った。
「ああ、役立たずで嫌われ者の小役人ですね。母さんが言ってました」
エリオットの顔がサッと真っ青になったかと思うと、次には真っ赤に染まった。彼はぶるぶると震える手で剣の柄を握った。そしてすらりと鞘から抜きはなった。
「ごっ、ごめんなさい! あの、どうかここは剣を納めていただけませんか…!」
ラクリマが慌てて間に入ったが、エリオットは乱暴に彼女を押しのけた。それを見てGもすかさず柄に手を伸ばした。
(いくらバカにされたといえ、こんなところで剣を抜くか!?)
ヴァイオラはバカ殿の振る舞いに呆れ返った。が、呆れてばかりもいられなかった。ここでGが剣を抜いてちゃんちゃんばらばらやり始めれば、第2回騒乱罪を食らってしまう。罰金も痛いが、こんなところで強制労働、すなわち足止めを食らうわけにはいかない。ヴァイオラはさっきから扉のところでおろおろしているアルトに、「魔法で止めて」と視線を飛ばした。
アルトは迷った。スリープ〔眠り〕をこんなところで使っていいものか、それとも……。
結局、彼は小魔法を使った。
エリオットはその瞬間、眠気に襲われた。彼は脈絡なく、大きなあくびをひとつした。
この隙に、シーフのギルティがエリオットを羽交い締めにした。
「エリオットさま、お止めください! ここで騒ぎを起こすと、金では解決できません!!」
つまりはすべて金で問題を解決してきたらしい。エリオットはぎょろりとギルティに目を向けた。仲間も何も気に入らないものは全部斬って捨てたそうな勢いだったが、ここで、同じ一団の、彼と同じく戦士らしい格好の男が口を開いた。
「エリオット、明日から迷宮を攻略しに行くんでしょう。余計な騒ぎは起こさないほうがいいのではありませんか」
エリオットは全身怒りに満ちていたが、乱暴に剣を納め、吐き捨てるように言った。
「くそ、面白くもない」それから仲間の紅一点を、顔を見ることすらせず傲岸に「アナスターシャ!」と呼びつけた。アナスターシャは小さい声で「はい」と答え、立ちあがった。エリオットは「行くぞ」と顎をしゃくって階段へ向かった。アナスターシャは無言で彼に続いた。それを見ながらヴァイオラは思った。
(ストレスは金か女で発散、か。どうも最近、こういう団体が多いような……)
そうではなくて、バカなリーダーのいる集団というのはいずれもこういう構造を持つもので、運悪く2つ目に遭遇しただけかもしれない。もちろん、一つ目はサムスンの一派である。
エリオットとアナスターシャが階段を上がったのを見届けて、二人目の戦士はGたちのほうを向いた。
「そちらも言葉には気をつけることだ。失礼な発言はやめてもらおう。今回はこちらにも非があるから見逃すが、今度同じことをやったらそのときは知らないぞ」
リーダーはバカ殿だが他のメンバーは全員まともなようだ、と、ヴァイオラは思った。この辺がサムスンたちとの違いか。ラクリマが「ごめんなさい」と謝る横で、Gが「だって母さんがそう言ってたんだもん…」などと洩らすのが聞こえてきた。ヴァイオラはGに向かって、「ジーさん、君はとりあえず立ってなさい」と先生口調で命じた。Gは「はあい」と窓際近くで直立した。
3階の扉が暴力的に閉められた音が1階に届くと、シーフのギルティは態度を豹変させた。
「やれやれ、どうなるかと思ったぜ。あんたたちもあまり妙なコト、言わないでくれよな。こっちはおもりが大変なんだから」
「ギルティ、仮にもリーダーにそういう言い方はよさないか」
「あんただってあいつの振る舞いにゃうんざりしてるだろうが。いい子ぶるなよ、アルバン。あ〜あ、ったく、金離れがよくなきゃやってられねぇぜ、あんなわがままなお坊ちゃんのおもりなんかよぉ」
アルバンと呼ばれた戦士は顔をしかめたが、ギルティには何の効果もなかった。
「陰口はキライです」
向こうで直立したまま、Gが口にした。ギルティはわけなく返した。
「カゲグチなんかじゃない、これぁただの愚痴さ」
「ところで」と、ヴァイオラはアルバンたちに話しかけた。「明日から迷宮へ行かれるとのことですが…?」
「ああ、そうだ」
「この付近の迷宮には行かれないことをお奨めします。村長からも達しがあったでしょうし、ギルドでも話を聞いていると思いますが…?」
ヴァイオラは言いながらギルティに目をやった。
「あー、ハイブの話だろ。知ってるよ。でも別にハイブ退治に来たわけじゃないぜ」ギルティは気のない返事をした。「それにハイブくらい出たところで……」
俺たちの実力なら倒せる、と、言いたいらしい。その慢心がハイブを増強する基なのに、と、ヴァイオラは言い募った。
「あなた方が思うよりずっと、ハイブの領域は広く、その力は侮りがたいものになっています。本音を言えば、これ以上の被害を出さないため、森には入っていただきたくないんです。せめてどの辺りに行かれるのか、教えていただけませんか」
ギルティはもごもごと口を濁した。
「ギルティ」と、アルバンが口を挟んだ。「仕事を取ろうとしているわけじゃないらしい。話してみたらどうだ?」
ギルティはまだ不満そうにしていたが、素直に隠しから一枚の羊皮紙を取り出した。それを見てヴァイオラは息をのんだ。冷たい汗が背筋を伝った。まさか……。
「エイトナイトカーニバル…これってあの…あそこの…」
いつの間にかそばに来ていたラクリマが声に出して読んだ。それを聞いてGも声を上げた。
「それって思いっきりハイブの圏内じゃないですかっ!」
紛れもない、それはサムスンたちが持っていたと同じ、エイトナイトカーニバルの古文書の写しだった。
「これをどこで!?」
「フィルシムのギルドで配ってたぜ」
ギルティは軽く答えた。ヴァイオラは暗澹たる気分になった。この古文書はどうやらハイブの犠牲者を出すための餌らしい。つまり、冒険者というコヤシをまくための呼び水なのだ。それが盗賊ギルドで配られているということは……フィルシムの盗賊ギルドはユートピア教の手先ということか…?
「なぁ、こいつについて知ってるのか?」
今度はギルティが尋ねてきた。
「ええ。おおよその場所もわかってますが…すぐそばで私たちは先日、ハイブたちと遭遇したんです」
「そういやその場所についちゃ聞いてなかったな」
さっきから大人しく酒を飲んでいたヘルモークがここで割って入った。
「そうでした。ヘルモークさんに場所を特定してもらって、地図を作ろうと思っていたのに…」
ヴァイオラがそう言いかけたとき、扉が開いてセリフィアとロッツが顔を出した。皆の戻りがあまりに遅いので、心配して見に来たらしかった。
「ちょうどいい、ロッツ君、こっちに来て」
ヴァイオラはロッツを呼ぶと、テーブルの上に酒で地図を描きだした。
「村がここで、私たちがハイブと遭遇したのがこの辺です。あと、エイトナイトカーニバルの迷宮は、実際の場所は知らないんですが、この近辺じゃないかと…ロッツ君、例の、覚えておいてって頼んだ地点はどの辺になる?」
「ちょうどこの辺でさね」
ロッツは絡み合うアカマツのあった位置を指し示した。
「じゃあやはりこの辺だ」
「へぇえ…」
ギルティが熱心に見るそばから、ヘルモークが口を出した。
「ハイブコアは?」
「ハイブコアの位置は私は知らないんです」さすがに「死んでいたから」とは言わなかったが、ヴァイオラはそう断った。「セイ君…」と、セリフィアの方を向くと、彼はアルコールの匂いに耐えられなかったのか、とっとと雲隠れしてしまっていた。
「ちびは? ロッツ君?」
ヴァイオラはアルトとロッツにも場所を知らないか尋ねたが、二人とも首を横に振った。
「ジーさん?」
「知ってますよぉ」
Gは向こうで直立したまま答え、その場を動かなかった。
「ジーさん、動いていいから。こっちに来てコアの場所とか様子をヘルモークさんに教えてくれる?」
ヴァイオラの許可を得て、Gはようやく窓際を離れた。「どれが村ですか?」と酒で描かれた地図の基本を確認してから、「もっとずっとこっちだったと思います」とその方角を示し、ヘルモークにその遺跡らしきコアの様子を話した。
「ああ、そりゃあこの辺りのやつだな」
ヘルモークはハイブコアの位置をほぼ確定した。
「なるほど。そちらへ行かないほうがいいわけだな。気を付けよう」
アルバンがそう言ったので、ヴァイオラは残念そうに口にした。
「やはり森へ入られるのですか?」
「エリオットが行くと言えば、行かざるを得ないだろうな」
「ではもう一つ、申し上げておきます」
ヴァイオラは、今度はダルヴァッシュに向いて言った。
「ハイブ禍を広げようとしているのが邪教ユートピア教であることは、ご存じですよね?」
「噂には聞いています。本当なのですか」
ダルヴァッシュの丁寧な言葉に、ヴァイオラはゆっくり頷いた。
「本当のことです。そしてこのエイトナイトカーニバルの古文書をばらまいているのは、ハイブの勢力を拡大せんとする邪教ユートピア教なのです」──ヴァイオラは心持ち「邪教」の部分を強調して言った──「この古文書にのせられるのは、邪教ユートピア教に協力することに他なりません」
さすがにダルヴァッシュの顔つきが変わった。
「それはゆゆしきことです。邪教の行いを赦してはならず、彼らの手に乗るのは愚かしいこと。わかりました。できる限りここを辞去するよう、エリオットを説得してみましょう。…うまくいくかどうかはわかりませんが……」
ギルティがぼそりと呟いた。
「無理じゃねえの?」




