第八話:媒介土発動と八百万の還流3
彼らの映像(残響)は、冷たい灼熱の地表ではなく、それぞれの「一番温かかった、我が家での日常の記憶」へと、チャンネルが回るように完全に上書きされていった。
そして、「ただいま」と言って家族と笑い合い、温かいベッドに入って静かに眠りにつくその瞬間、彼らの電気信号のスイッチは、何の未練も焦りもなく、フッと静かにオフになった。
しかし、彼らは宇宙の海へ還って消え去ったのではなかった。
スイッチがオフになった瞬間、商人たちの、学生たちの、サラリーマンたちの生々しい日常の体温(電気信号)は、吸い込まれるように、自分たちを優しく受け止めてくれた地球の「土」や「マグマ」の中へと、染み渡るように滑らかに溶け込み、融合していったのだ。
「あ……あぁ……」
バリアの出力を絞りきり、ようやく盾を下ろしたティアンが、衣服を乱したまま、信じられないものを見るように足元の黒い土を見つめて声を震わせた。
「シャンテ……消えたんじゃない。彼らの電波、この地球が全部優しく吸い込んで、自分の命(血肉)にしちゃったんだ……! すごいよ、地球の赤ん坊の意識が、いま、すっごく温かい光で満たされていくのがわかる……!」
「ええ、そうよ、ティアン。彼らの生きた想いは、どこにも消えてなんかいないわ。この地球が、彼らの体温を全部受け継いで、これから新しい命を育んでいくのよ……っ」
シャンテは新しく生まれた黒く温かい大地にそっと膝をつき、両手をその土へと当てた。
お寺の御詠歌が「すべての草木や国土のすべてが、そのまま命になる」と歌い、日本の八百万の精神が「すべての万物に神(魂)が宿る」と教えるように、あの日を一生懸命に生きていた名もなき何億もの生活者たちの体温が、今、地球を形造るすべての物質へと宿っていくのを、彼女はアミティエのアンテナでありありと聴いていた。
この「土」は彼らの誠実な責任感を受け継いで温かく命を育む土壌となり、これから生まれる「水」は彼らのおしゃべりのように瑞々しく輝き、転がっている「石」の一つひとつにまで、彼らが我が家へ急いだ足跡の記憶が静かに宿っていく。
川のせせらぎが、かつての学生たちの笑い声のように響き、風が市場の天幕を揺らすように吹き、大地が労働者たちの誠実な責任感を宿してどっしりと佇む。
地球そのものが、オルテリウスの人々の生きた想いを内包した、巨大な八百万の聖域へと生まれ変わったのだ。
その綺麗なエネルギー(感謝の残響)を生まれて初めての栄養として吸収した地球は、怯えて震えていた地鳴りをぴたりと止め、まるで母親の胸の中でスヤスヤと眠る赤ん坊のように、深く、穏やかな呼吸を始めた。
何の免疫も持たなかった赤ちゃんの星が、シャンテの調律によって、ウイルス(ノイズ)を跳ね返すための最初の強固な精神的免疫をその身に宿した、決定的な瞬間であった。
「これが……前世の星(親)から、この地球(子)へと受け継がれた、本当の八百万の楽園の始まりなんだわ……」
シャンテは、足元の土から伝わってくる何億もの人々の温かい日常の鼓動を感じながら、深い涙とともに、しかし女神としての至高の笑みを浮かべ、最初の大地を愛おしそうにそっと抱きしめるのだった。
第九話へつづく




