第一話:オルテリウスの残響と、母の条件1
アポロンと呼ばれる恒星系の遥か彼方、かつて眩い光を放っていた恒星「オルテリウス」の領域は、今や完全な静寂に包まれていた。
予兆なき超巨大隕石の衝突によって、昨日までの高度な文明と数億の日常は、走馬灯を見る暇すらもない一瞬のうちに、星ごとすべて吹き飛んだ。
肉体の苦痛を感じる猶予すらなかった彼らの意識は、不条理な滅びの瞬間にすべての制約から100%解放され、とっくに宇宙の源流である「大いなる平穏の海」へと還り、何にも脅かされない安息の中にいた。
しかし、物質としての星が消え去っても、その空間には奇妙な「バグ」が残されていた。
「まだ生きたい」「この日常を終わらせたくない」という数億の生命の強烈な執着、仕事をキチンと終わらせるために残業をしていた義務感、我が家へ帰ろうとした一瞬の焦り
——それらの記憶が、巨大な「未練の電気信号(残留思念)」として宇宙空間に漂い、まるで消し忘れたスクリーンのように自動再生され続けていた。
その喧騒から遠く離れた、宇宙の営みを見守る高位の神々の世界。
最高意思決定機関である【元老院】の広大な回廊には、無数の銀河の創世や調律を議論する年老いた神々や、他の惑星を担当する先輩神たちが行き交い、厳かな熱気に満ちていた。
その最奥にある大神ゼウスの部屋へ、見習い女神のシャンテはパタパタと足音を立ててやってきた。
彼女はまだ、自分の手で新しい星を創るという経験を持たない、夢見がちな乙女の神だった。
「おじいさま! 私を呼んだって本当?」
シャンテは、地球という新しい惑星に、可愛い動物や色鮮やかな花々をいっぱいに敷き詰めた「綺麗な楽園(エデンの園)」を創るのだという、乙女じみた理想と憧れで胸を膨らませていた。
玉座に座るゼウスは、愛おしそうに孫娘を見つめながらも、その瞳には宇宙の運行を司る者としての厳粛な光を宿していた。
「よく来たな、シャンテ。お前も年頃になった。オルテリウスが消滅したあの跡地に、新しく生まれた惑星『地球』をお前に与えよう。そこへ旅立ち、生命の楽園を築くのだ」
「本当!? 私、世界で一番素敵な星にしてみせるわ!」
無邪気に喜ぶシャンテの前に、ゼウスは静かに手をかざした。お寺の本堂でお経をあげるかのような荘厳な響きを伴って、空間にまばゆい光を放つ「7つの道具」が広げられる。
しかし、ゼウスはそれをすぐには手渡さなかった。




