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転生かぐや姫は帝の寵愛を蹴って鬼退治に出掛けました  作者: 雪途かす


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7/12

陸:旅路

 日の出と共に、私たちは港町を出発した。


 そして大きなトラブルもなく、また、帝から指名手配されている様子もなく、順当に鬼ヶ島へ向かいながら、私は緑羽から陰陽術を習った。

 驚くことに、私には本当に才能があったみたいで、一度教えられると、すんなり術を習得することができた。


 とはいえ、たったひと月の間に私が習得できたのは、探知術、防御術、治癒術、それから攻撃術の四つ。だが、攻撃術は実践で使えるか怪しいレベルの威力しか出せなかったので、実際に役に立つのは探知と防御と治癒だ。

 治癒も、軽い擦り傷程度でしか試せていないので、実際にどの程度の怪我まで治せるのかはわからない。


 そんな中途半端な状態で、いよいよ鬼ヶ島が目前と迫った夜。


 鬼ヶ島へ乗り込む前の最後の野宿で、私たちは焚火を囲んでいた。

 もうすぐで山の麓だ。山を降りればその先に海があり、鬼ヶ島が浮かんでいるという。


「……いよいよ明日だな」


 ロウの言葉に、小夜が頷く。


「ええ。今晩は交代で見張りをして、なるべく身体を休めることに注力しましょう」

「そうだな。最初は月子に頼もう。最初に見張りをしてしまった方が出発直前まで長く休める」


 何だかんだ気を遣われてしまっているが、実際私が最も体力がなく、足手纏いになりかねないので、大人しく楓の言葉に従っておく。


 四人が毛布にくるまって目を閉じたのを眺めつつ、焚火の火を小さくしながら消えないように時折小枝を追加する。


 小さな炎を見つめながら、これまでのことと、明日の鬼退治、そしてその先の未来に想いを馳せ、私は溜め息を吐いた。


「……憂いごとか?」


 声を掛けられて振り向くと、木の幹に凭れて目を閉じていたはずの緑羽がこちらを見ていた。


「緑羽さん……」

「……あまり気負い過ぎるな」


 緑羽は無表情でそう告げる。

 このひと月、彼のことは陰陽術の師として接してきた。そこで、彼の無表情はただの癖で、実は物凄く配慮してくれる優しい人物だとわかった。


 だから多分、今も彼は私を気遣ってくれているのだろう。


「ありがとうございます」

「……万が一の時は、俺たちのことは気にせず、お前は逃げろ」

「そんなことは……!」

「少なくとも、俺とロウは己の信念に従って鬼退治に向かっている。楓と小夜も似たようなものだ。だが、お前は明確に違う」

「でも、私のせいで……」

「帝から鬼ヶ島の鬼退治を命じられたのはお前のせいじゃない。雷山の鬼退治を成した時点で、遅かれ早かれ帝には呼び出されていただろう。鬼退治は俺たちに課せられた使命であり、お前は本来無関係なんだ」


 緑羽の言葉が、静かに私の胸に染み込んでくる。

 旅に出る前夜、楓と小夜にも似たようなことを言われたが、しかし私のせいで港町で帝に鉢合わせたのは事実だ。


「とにかく、もしもの時にお前が逃げたとしても、俺たちは誰もお前を責めはしない。それだけは覚えておけ」


 緑羽は少しだけ語気を強めてそう言うと、そっと目を閉じて眠ってしまった。


 私は交代の時間まで、小さな炎をつつくのだった。


 その後、交代して眠った私は、日の出直前に小夜に起こされた。


「月子さん、そろそろ起きてください」


 私は素早く身支度を整えて、楓が差し出してくれた糒を齧った。


「もうすぐ夜明けだ。行くぞ」


 楓に続いて足早に進むと、すぐに山を抜け、視界が開けた。

 朝靄のせいでまだ遠くが見えないが、潮の香りが鼻をくすぐり、耳を澄ますと波の音が聞こえてくる。


「……あれだ」


 靄の向こうを睨んで目を細めるロウ。

 私も目を凝らすと、静かな海面の上に、髑髏の上半分を乗せたかのような岩山が見えた。


「島までは少し距離がありますね……泳いで渡るのは危険そうです」


 小夜が冷静に、海岸から島までの距離を目測で量る。

 と、楓が素早く木に登って高い位置から海岸を見渡した。猿山の名は伊達じゃないらしい。


「……駄目だ、人の気配もないし、船もない」


 彼女が木の上で首を横に振る。

 よく考えたら、鬼ヶ島が見えるほどの距離に、人間が好んで棲み付くはずもない。


「……鬼がこちらへ渡ってくることはあるのかしら? そうなら、船はきっと鬼ヶ島側にあるんじゃ……」


 鬼が鬼ヶ島だけに閉じ籠っているのなら、きっと討伐など命じられないだろう。

 おそらく度々本土に渡ってきては人間を襲っているはずだ。


「……いや、鬼ヶ島側にも船は見当たらない」


 木の上で楓が目を凝らしている。


「真反対の岸にある可能性は?」

「こちらに来るのにわざわざわ反対側から船を出す道理がない。鬼ヶ島の岸も絶壁という訳ではないし、こちらの岸まで湾の波も静かで、船を出すことは特段問題はなさそうだしな」


 緑羽の言葉に楓は首を横に振る。


 私は鬼ヶ島の方を向いて右手を掲げた。


「オン、アビラウンキャン、シャラクタン」


 瞑目して唱えると、瞼の裏に何やら光景が浮かんできた。


 ごろごろとした岩に囲まれたそれは、洞窟の入口だ。

 地下へ通じているらしい真っ暗な穴を進んでいくと、その先に、何かが視える。


「……もしかして、鬼ヶ島に通じている抜け穴があるのかも……」

「抜け穴?」


 ロウが怪訝そうに首を傾げつつ、周囲を見渡す。


 と、小夜が何かの匂いを嗅ぐように、鼻をすんすんと動かした。


「……こっちから、妙なニオイがします」

「妙なニオイ?」


 私が目を瞬くと、木から降りて来た楓が「小夜は鼻が利くんだ」と教えてくれた。流石は犬、と言いたいところだが、彼女は人間なのにそんな能力があるのか。

 桃太郎の昔話は、猿雉犬がお供についてくるが、元々は人間だったのを物語を面白くするために、それぞれ能力が似ている動物に変えた、とかなのかもしれない。なんてことを漠然と思った。


 そして小夜が進む先に、岩に囲まれた洞窟が現れた。

 それは私が今し方視た光景と同じだ。


「これです! きっと、これが鬼ヶ島に繋がっているはずです!」


 私の一言に四人は顔を見合わせ、まずはロウが先行して入っていくことになった。

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