病町3
3
「おい着いたぞ」
「ああ、寝てた」
「ここか」
「私はあっちの診療室なので、ここでわかれるかな」
「おお、気いつけろよ」
「えっと…」
「初診の方ですか」
「あ、はい。そういえば紹介状とかないや」
「無くて結構ですよ。必要ありませんから」
「そうですか」
「こちらでお待ちください」
「どうも」
「次の方どうぞ」
「お願いします」
「初めまして、ようこそ病町へ。どうされましたか?」
「あ、あの。最近忘れっぽくなってしまって。」
「具体的にいつ頃から、どんな症状がありますか」
「ええっと時期は、二週間くらい前から…」
「物忘れの症状が」
「はい、曜日が思い出せないとか、約束をわすれるとか」
「そういった症状が現れはじめたのですね」
「…はい。あの、これってアルツハイマーってやつなんですかね?なおりますよね?」
「何か今までに大きな病気になられたことはありますか」
「いえ、病気とは無縁だったもんで」
「よろしい」
「で、俺はなんて病気なんですか」
「まだなんとも言えませんが、一時的にそういった症状がでているのかもしれません。何かお薬は服用されていますか」
「前、熱が出たとき、薬をもらって飲みました。今日もらった頭痛止めの薬なら手元にありますけど」
「成分を確認したいので、みせていただけますか」
「はい」
「一般的な頭痛止めですね」
「ほんとに一時的なものなんですか」
「一応採血だけさせていただきます」
「お願いします」
「終わりましたよ。ところであなた今日はなにでいらしたんです?」
「え?ああバスで」
「今日はここへ泊まりなさい」
「はい?」
「ここへくるバスは一日に一本あるかないかなんです。次のバスは明日にならないとありません」
「でも、泊まるったって」
「この病院は私の自宅も兼ねているんですよ。渡り廊下を通って奥が自宅スペースです。客室というほどでもないが、空き部屋があるから、今日だけそこで休みなさい」
「ええと…あなたは一体」
「ああ、申し遅れました。院長の」
「いや、名前とかじゃなくて。なんていうか、何で俺を泊めるなんて。バスが無いなら歩くなりなんなりして帰りますよ。」
「帰り道をご存知で?」
「…あ、そういえば」
「かといって宿代も無いでしょう」
「まあ、元々ここに来るって決めたのも偶然だし」
「偶然ではない」
「え、それってどういう」
「いいえ。何よりあなたは物忘れに悩んでおられるのでしょう?そんな方をみすみす一人で帰すわけには参りません。」
「はあ」
「遠慮なさらず、今日は泊まっていきなさい」
「…はい」
「すみませんね。コンビニのお弁当で」
「いえいえ、腹減ってたんで何でもありがたいっす」
「ここの食べ物は、あなたにあわないかもしれないから」
「それにしても、変わった人が多いんですねこの病院は。この部屋へ来るまでにもいろんな患者さんをみましたけど。ずっと笑いっぱなしの《笑い病》だの、身体を動かし続けないと落ち着かない《体育症候群》だの…。ここはそういう人しか来ないんすか?」
「うん、そうかな」
「…っと、すいません俺失礼なこと」
「いえ、あなたは間違っていませんよ」
「どんな病気でも治せるんですか?院長は」
「ははっ。私も魔法使いではないからね。なんでもってわけにはいかない」
「でも優秀な医者なんでしょう?昼間に会ったじいさんが言ってました。だから皆ここへ見てもらいに来るんじゃないですか?」
「ここに来る人たちは、本当に必要があってここに来ているのさ。そのことを私はよく知っている。君もその一人」
「…」
「みんななにかを患って、それでも生きようとここへ来る。私は自分にできることをただやるだけだ」
「治るでしょうか。俺は」
「大丈夫、病に打ち勝つ自分を信じていれば。今日は色々あって疲れただろう。もう寝なさい」
「そうします。おやすみなさい。…あと、ありがとうございました」
「おやすみなさい」