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病町へようこそ  作者: 亜鶴間時間暁
3/10

病町3

   3


「おい着いたぞ」

「ああ、寝てた」


「ここか」

「私はあっちの診療室なので、ここでわかれるかな」

「おお、気いつけろよ」


「えっと…」

「初診の方ですか」

「あ、はい。そういえば紹介状とかないや」

「無くて結構ですよ。必要ありませんから」

「そうですか」

「こちらでお待ちください」

「どうも」


「次の方どうぞ」

「お願いします」

「初めまして、ようこそ病町へ。どうされましたか?」

「あ、あの。最近忘れっぽくなってしまって。」

「具体的にいつ頃から、どんな症状がありますか」

「ええっと時期は、二週間くらい前から…」

「物忘れの症状が」

「はい、曜日が思い出せないとか、約束をわすれるとか」

「そういった症状が現れはじめたのですね」

「…はい。あの、これってアルツハイマーってやつなんですかね?なおりますよね?」

「何か今までに大きな病気になられたことはありますか」

「いえ、病気とは無縁だったもんで」

「よろしい」

「で、俺はなんて病気なんですか」

「まだなんとも言えませんが、一時的にそういった症状がでているのかもしれません。何かお薬は服用されていますか」

「前、熱が出たとき、薬をもらって飲みました。今日もらった頭痛止めの薬なら手元にありますけど」

「成分を確認したいので、みせていただけますか」

「はい」

「一般的な頭痛止めですね」

「ほんとに一時的なものなんですか」

「一応採血だけさせていただきます」

「お願いします」

「終わりましたよ。ところであなた今日はなにでいらしたんです?」

「え?ああバスで」

「今日はここへ泊まりなさい」

「はい?」

「ここへくるバスは一日に一本あるかないかなんです。次のバスは明日にならないとありません」

「でも、泊まるったって」

「この病院は私の自宅も兼ねているんですよ。渡り廊下を通って奥が自宅スペースです。客室というほどでもないが、空き部屋があるから、今日だけそこで休みなさい」

「ええと…あなたは一体」

「ああ、申し遅れました。院長の」

「いや、名前とかじゃなくて。なんていうか、何で俺を泊めるなんて。バスが無いなら歩くなりなんなりして帰りますよ。」

「帰り道をご存知で?」

「…あ、そういえば」

「かといって宿代も無いでしょう」

「まあ、元々ここに来るって決めたのも偶然だし」

「偶然ではない」

「え、それってどういう」

「いいえ。何よりあなたは物忘れに悩んでおられるのでしょう?そんな方をみすみす一人で帰すわけには参りません。」

「はあ」

「遠慮なさらず、今日は泊まっていきなさい」

「…はい」


「すみませんね。コンビニのお弁当で」

「いえいえ、腹減ってたんで何でもありがたいっす」

「ここの食べ物は、あなたにあわないかもしれないから」

「それにしても、変わった人が多いんですねこの病院は。この部屋へ来るまでにもいろんな患者さんをみましたけど。ずっと笑いっぱなしの《笑い病》だの、身体を動かし続けないと落ち着かない《体育症候群》だの…。ここはそういう人しか来ないんすか?」

「うん、そうかな」

「…っと、すいません俺失礼なこと」

「いえ、あなたは間違っていませんよ」

「どんな病気でも治せるんですか?院長は」

「ははっ。私も魔法使いではないからね。なんでもってわけにはいかない」

「でも優秀な医者なんでしょう?昼間に会ったじいさんが言ってました。だから皆ここへ見てもらいに来るんじゃないですか?」

「ここに来る人たちは、本当に必要があってここに来ているのさ。そのことを私はよく知っている。君もその一人」

「…」

「みんななにかを患って、それでも生きようとここへ来る。私は自分にできることをただやるだけだ」

「治るでしょうか。俺は」

「大丈夫、病に打ち勝つ自分を信じていれば。今日は色々あって疲れただろう。もう寝なさい」

「そうします。おやすみなさい。…あと、ありがとうございました」

「おやすみなさい」


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