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病町へようこそ  作者: 亜鶴間時間暁
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病町4

      4


「なんだお前か」

「なんだとはなんだ、人がせっかく親切に声かけてやったのに。知り合いとはいえ患者に直接電話するなんてめったにないんだぞ」

「悪かったよ。で、何の用?」

「…あのなあ。ちゃんと定期検診来いって言っただろ。そういうことをおろそかにしてると、治るもの治らんぞ」

「そっか、今日検診の日か」

「あれほど忘れるなって言ったのに。ただのさぼりならまだしも、本当に忘れていたとしたら…」

「うん。でももういいよ」

「何が」

「もう検診も治療もいい」

「何言ってんだ。諦めるつもりか」

「いやそうじゃなくて。治ったから」

「は?」

「前みたいにひどい物忘れはなくなったんだ。だからもう大丈夫」

「でも検診のこと」

「ああ、それは確かに忘れていたけど、物忘れの症状でじゃなく、治ったことに安心して無意識に忘れていたみたいだ。とにかくもう大丈夫だから。迷惑かけたな」

「大丈夫じゃない」

「へ?」

「お前がいくら大丈夫と思っていても、そんなの信用できるか。俺はまだこれといってお前に何の治療もしてないんだぞ」

「でも、本当にもう…」

「なんでもいいから、とにかく一回来い。ちゃんと検査して、異常がないかだけ調べるから。わかったな」

「…はい、せんせい」



「入れよ」

「どうも、先生。来ましたよ」

「座れ」

「なんだよ、何怒ってんだ」

「怒ってない。ほら、手貸せ、脈みるから」

「はいはい」

「一体いつからあの症状が治まったんだ」

「あれからそんなに経ってないくらいからかな。だから、一週間くらい前か。お前にもらった頭痛薬が効いたのかも」

「それは頭痛を治すためのもんだ。物忘れまで治るとは思えん」

「でも治ったんだからいいだろ」

「待て、念のため採血もしとくから」



「…異常はないな。じゃあやはり、お前自身の治癒力で治してしまったのか。それともそもそも物忘れ自体が幻覚みたいなものだったのか…。お前のことだから、ほかの医者のとこへは行ったりしてないだろ」

「ああ、それは…」

「行ったのか」

「…いや、行ってないよ」


「ここへ来た事は誰にも秘密にしておいてくれないかい」

「え?」

「君も見ただろう。あの哀れな患い人達を。彼らを興味本位で見に来るひとたちが大勢来てしまったことが昔あってね。そういうのは避けたいんだ」

「そうですね。分かりました。」

「特に治療もできなくて申し訳なかったね。でもきっと君の病は治るよ」

「ありがとうございます。まあ、気長に治していきますよ」


「本当か」

「…なんだよ」

「嘘ついてるだろ」

「何言ってんだ」

「何年お前の幼なじみやってると思ってんだ。そのくらいすぐに察しがつくんだよ。別にとやかく言うわけじゃないよ。ただよそで薬を処方されてたら、ちゃんと把握しとかないと」

「大丈夫だよ、何ももらってな…あ」

「行ったんだな」

「ああっ。もう。行ったよ。行きました」

「全く。なんで黙ってたりするんだ」

「だって、言うなって。いやでもお前は医者だし、そんなことはしないよな」

「そんなこと?」

「俺が行った病院には、変わった病気の人がたくさんいて、それを面白がって見に行ったりするやつらがいるんだって」

「だから、黙ってろと」

「まあ」

「で、なんて病院へ行ったんだ」

「病町総合びょうい…」

「なんだと」

「え?」

「お前、そこへ行ったのか」

「ああ」

「なんで」

「バスで」

「そういうことじゃなくて、なぜそんなとこへ行けたんだ」

「なぜって、たまたまそこの先生が優秀だって聞いたから、ものは試しだと思って」

「そこで何か食ったりしたか」

「いや、ああ弁当ならおごってもらったけど」

「他には」

「別になにも。なんだよどうしたんだ。お前あそこ知ってるのか」

「…ああ」

「何か問題でもあるのか」

「もう、あそこへは行かないほうがいい」

「え?」

「見たんだろ。奇妙な患者達を」

「それがなんだよ」

「俺は医者仲間からかぜのうわさで聞いたことがある。病町という不思議な町のこと。誰もその場所をはっきり知らない。行くまでの道中皆眠ってしまうからだ。そして気がつくともう到着している。…病人だらけの奇妙な町に」

「…」

「町に総合病院はひとつしかないが、そこの院長はとても優秀だそうだ。いや、表向きはそうしているといったほうがいいかもしれない」

「どういうことだ」

「…実験しているんだよ。彼らを、病町の住人たちを使って」

「…なにっ」

「新薬の製造や、新しい治療法を試す《実験台》として」

「ま、まさかそんな。あの人に限ってそんなこと」

「優しい人に見えたのか」

「そりゃあ。だって、泊めてもらって…」

「いくら病人だからって、普通泊めたりするか?」

「たしかに、言われてみれば。じゃあその間に俺なにかされたのかな」

「俺が聞いたこの話はあくまで噂だ。しかし本当に病町なんてものがあったのなら、その院長もどんな奴かわからんぞ」

「…」

「とにかく異常も無かったことだし、今はどこも不調はないんだろ。今日はもういいから、また何かあったら俺のとこに来い」

「…ああ」


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